四ノ原早紀という鏖殺少女3
新庄幸人は、四ノ原早紀から、未来予知の異能、託宣の使用に関して許可をもらった。
簑笠府イリスが新庄幸人と本格的に"強い"協力関係にあれば、監視が付くと思われた。例えば、汎ゆるパラメーターを診る事の出来る異片鑑定を持つ真行院幹雄の同席、などである。
だが、その心配は無さそうだが、これからは理解らない。では、もう一つ布石を打ちたい。
「あの早紀さん。相談したいというか、報告しなきゃいけないことが有って。簑笠府さんの昼歩行者のデメリットなんですが」
「あ、そういえばそうでしたね。吸血鬼に因んだデメリットが付いたとか言う話ですが」
「あ、はい。血を啜る、というのがデメリットです。定期的に体液を欲しがるというか」幸人は存在しない昼歩行者の説明をした。嘘ではない、実際にイリスは"定期的に体液を欲しがる"。
「え?体液?」四ノ原早紀はちょっと退いた感じである。
「汗、ですね。多分に一番良いのは血液なんでしょうが、汗で我慢して貰ってます。唾液とかだと流石に抵抗感が有るので」幸人は嘘を吐いていない。"契約更新のついでに"汗を接種するし、唾液も飲む。最も血液が一番良いというのが嘘であるが。
「ああ、そう。それは確かにまいりましたね」早紀は己の想像が卑猥だと思ったのかちょっと赤面している。
いや、多分早紀さんの考えは可愛いものですよ、と言いそうになるのを、幸人はぐっとこらえた。
そんな生温い物で済まない。幸人に待っているのは腎虚で衰弱死しそうな未来である。早急に手を打たないと。
そう考えるとイリスの言った「血液を介した結合組織の操作能力」と言うのはとても理に適っているのかもしれない……いや違う。絶対にあのドスケベ女はそんな副次効果はオマケである。
そこに関しては出会って72時間もないのに信用できる。早くなんとかしないと。
「保存は、出来ませんね。雑菌とか衛生的に良くないですからね」早紀は解決策を考えてくれている。とても申し訳ない気がしてきた。
「保存は難しいですね(ん?なんか出来そうな感じがしてきたな?)」と幸人は発言と裏腹に思考に耽った。
(つまるところ契約の延長にある行為を、イリスに何らかの接触を、遠隔で出来れば、という事だ。そこを突破できれば)ここまで考えた所で、これは大分イリスに毒されてるな……と至った所で正気に戻った幸人はこのアイディアを伝えたいと思ってこの場を後にしようとした。
しかし、支払いせずに退席しにくいと思ってテーブルの伝票を取って支払いを行えばいいじゃん、と思いついて手を伸ばした所で、それを察知した先に早紀に伝票を取られてしまった。
「ええ、お気になさらず。元々は私の、友人を救って欲しいという無茶振りを聞いてくれた新庄君に払わせるのは筋が通らないというもの。ここはお任せ下さい」早紀はニコニコと笑顔で言った。
「ええ、まあ、そういう事なら助かります(実家から出たとはいえないなあ)」と幸人は大人しく奢られることになってその場は解散と相成った。
「では、イリスによろしくね。新庄君」早紀は手を振って言った。
「はい、ミッキーにもよろしくね」幸人も手を振ってその場を離れた。
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「で、まあ、居るよね」幸人は帰宅の途中で待ち伏せしているイリスに出会った。
「はい、幸人さんにも、私がどんな女か?というのをキッチリとご理解いただけてるようで大変嬉しいです。相互理解は仲の深い証拠です」イリスは満面の笑みで返答した。
「一応、言っておくとね」幸人は、イリスの早紀との確執、と言うか一方的な対抗心を持っているのは知っていたから、早紀さんとは何もなかった、というのを説明しようとした。
「それには及びません」というとイリスは背を伸ばして幸人の頸の後ろに手を伸ばした。
イリスは手を開けると何か、プラスチックの電子機器らしきものがそこには合った。
「うわ、これ盗聴器?」幸人はこええ、と思った。
「それに加えて、GPSタグ、ですね。幸人さんの帰宅途中に待ち伏せ出来たのはこれで位置情報を知っていたというのもあります」イリスはそれを懐にしまい込んだ。
「それは、僕が荒井耕造に拉致されたのを、考慮して?」
「当然ですよ!実際に貴方は一度死んでいるんですか!危機感が足りません!」イリスは珍しく真面目である。真心からの発言であった。確かに世界を滅ぼそう、護ろうという者から新庄幸人は生きていないほうが良いと考える者が居ても可笑しくない。
「ああ、そうだね。そこは僕が四ノ原さんに合う場所を指定してから会うべきだった。ごめん」
「分かれば良いのです。私に配慮して頂けた、という事でこれは水に流しましょう」とイリスは何時もそんな顔をしていれば、という感じでとても聞き分けが良く、情緒安定している簑笠府イリスはとても可愛いのである。
「突然、話が飛ぶけどイリスちゃんってコンタクトだよね?」幸人はいきなり聞いてきた。
「ええ、使い捨てですが。本当に突然ですよね?」イリスもそう思ったのか。
「うん、この際、コンタクトレンズ辞めて眼鏡にしない?黒縁のクソダサい奴」幸人は先程のイリスのホテルでの話の「性癖を暴露しよう」という話を思い出したのだ。
「え?早紀さんと同じ眼鏡に?嫌です」イリスは心底嫌な顔をした。
「君は、因果関係を勘違いしてるね」
「因果関係?」
「良いかい?僕が早紀さんを好き、だから半ば交際に近い君に、早紀さんに近づけさせる、ではない」幸人はそこは譲れないと言う思いで正直に吐露したのである。
「違うのですか?」
「僕の好きな黒縁眼鏡をしている女性が身近に四ノ原さんしか居なくて、彼女は多分そうすることで他の男の好意を向けさせないようにしているんだと思うよ、でも僕は違う。逆だった」
「つまり、幸人さんは別に、エッチで、スケベで、頭のいい女性が好きなのではなく、眼鏡の、クソダサいフレーム眼鏡を付けた、女性に中身はどうでもいいから欲情すると」イリスは往来でも構わず言ってくれる。まあ良いんだけどね。
「そういう訳で、眼鏡屋に行かない?何なら払いは僕が持ってもいいよ」嘘だ、そんな金はない。そしてイリスの指摘に何も弁解しなかったし、言及もしない。いよいよ幸人はヒモ男みたいな立場になってきた。どうしよう?
「まあ、では行ってみます?」イリスはハイヤーを呼んだ。
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「黒縁のと、鼈甲の眼鏡、どうですか?」イリスはまずは黒縁のメガネで試してみた。
「ほーん、色白の人間に黒縁は良いねえ」幸人はそう言いながらイリスの姿をガン見している。
「うわ、マジだこの人」イリスはドン引きしている、ではなく凄く照れている。幸人からこういう視線で見られてしまうことに想定外だったのだろうか?イリスは想定外に弱い。だからこそ全て思いつく範囲で用意している人間であった。
「まあいいから。じゃあ鼈甲縁の眼鏡も試してみない?」幸人はどうでもいいとして次を見たがった。
「では、これは完全なプライベート用、手入れも面倒くさそう。どうですか?」イリスは本物の鼈甲縁のメガネを付けて見た。
「イリスのお洒落な服装に似合う、良い眼鏡だね。それにしない?しよう!」幸人は素っ気なく言った。
だが、イリスは幸人の態度にめっちゃ動転している。ガチガチなのである。何処が?勿論イリスの脳ミソには8割以上がど淫乱ピンク脳なので言わずともである。
「あ、帰りに部屋ではなく別の場所に寄らない?さあ早く。決めちゃえば?」幸人はさあ、支払いを済ませろと言わんばかりに圧が高い。
「……あ、はい。これにします」とイリスは真っ赤な顔で会計を済ませた。これからの事に期待に胸を弾ませている。まるで付き合ったばかりの恋人のようだ、と思ったのだ。二人が実際に出会って64時間経っていない。
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二人は、途中の道で逸れて、いわゆるラブホテル街へと足を向けた。腕を組むとかではなく、幸人側からの強引な要求である。
その中でも如何にもイカガワしい、と言う感じの、それしか目的が無い、という感じの露骨なホテルである、入るのを見られたら間違っては言ったなどという様な言い訳不可能なホテルである。
「うわあ、どうしよう」イリスはもうもじもじと落ち着かない様子である。膝が笑っているイリスというのは極レアなそれである。
「どうかしたの?」幸人は何時ものイリスの部屋での、紳士的で居たいという消極的な態度とは打って変わって、かなり積極的に動いている。幸人自身こういうのが自身のも存在したのか?とちょっとびっくりしている。
「もうこれ、拒否したら無理やりって感じじゃないですか?」イリスは自身のこの2日の間の振る舞いを忘れたかのようなウブな反応である。無理矢理が良いと言った、がそれはそうならないという甘えであった。
「うん、ここで拒否して帰れるわけ無いじゃん」幸人はイリスのコートを早速脱がしに掛かった。
イリスは硬直して、為されがままに脱衣されていく。あまりのスピードについていけない、否。それより速いスピードで事に至ったイリスも、自身がペースを握らない展開には無力な年相応の少女であった。
下着だけにされた時点でイリスは後ろ手にされて、手枷を付けられる。だがこれもイリスも特に抵抗もせずに為されるがままである。
「いや、こういうとこって盗聴器とか、在るじゃないですか?やはりここまでやる気なら別に自室で」と言いかけた所でイリスは何も言えなくなった。
「イリスは弁が立つからね、もう喋らなくていいよ」幸人は自分でもこう言うノリになるとは思わなかった。イリスの小さな口にかなり大きめの口枷を力付くで捩じ込ませる。
イリスは嗚咽の反応を出す間もなく、そのままエログッズの口枷を完全に閉められ。そのままイリスの可愛らしい抵抗も虚しく、先程に付けられていた手枷と鎖で繋げられてイリスのその端正な表情が苦悶を見せる間もなくその頭を大きく反り返させられたのである。
昨日の何時かのイリスの弱々しい殊勝な態度にちょっと良いと思ってしまった幸人だったが、此処へ来てそれは確信に、己の自覚に変わった。
幸人は、イリスを(対等な関係で)可愛いと思うのではなく、イリスをちょっと雑な扱いに落とす事で彼女の不意を突く事で、暴かれる、彼女の素顔の、防御ゼロのイリスが可愛いのである。おそらくそれは愛玩動物への愛でるような、一方的な側面の可愛さへの愛玩であろう。
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「はぁ」イリスは天にも登るような気持ちの籠もった吐息を吐き出して。充実した、と言わんばかりである。
「……御姫様の御期待にようやく添えたようで、何よりです」幸人は逆に自身の行為に自虐的な気分である。これはもう逃げられない。逃げればタダでは済まない、イリスは、彼女の親は市井の人間ではなく、超高級ホテルを娘に好き使わせる様な貴人に違いないのだ。
「ヤれば!出来るじゃないですか!昨日までのちょっと頑張った、幸人さんも良かったですが!さっきまでの暴君幸人様も最高でしたよ!」イリスは遂に敬称まで使い始めた。頭が痛くなる幸人である。
「……一応確認するけど。出来ないよね?」冷静な幸人は、賢者の幸人は、リスク計算ができる。ヤれば出来る。誰もが知っている因果関係である。怖い。
「大丈夫ですよ、デッドエンドまでは私も、幸人さんの足手まといに為るような愚行は、多分"出来ません"」イリスはニヤニヤと笑って言った。
「本当に?責任取れる?」
「だぁいじょうぶですよぉ」と甘えるような、それでいて蠱惑的に囁くイリス。これは昨日の思いが通じた、"逆らえない"イリスが戻ってきた。
「うひぃ」フラッシュバックした幸人。
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「で?何か、思いついたんでじゃないですか?幸人さん」と上から見下ろす形でイリスは眺めている。イリスの脚は幸人の足の裏に回っていて完全なマウントポジションである。逃げられない。
「遠隔で、僕の延長という感じで、イリスに所持させる、そんな感じはどう?」幸人は時刻を見ながら言った。そろそろ日付をまたぐ。幸人の異能生産にはノルマが在る。
異能生産は、人を害する異能を毎日最低一つ作らせるのだ。
そうでなければ持ち主へのペナルティーは最初は意識の朦朧。
次段階では、内臓器官へのダメージ。
最終的には、命を断つ物へとなる。実際にはその前の段階で外部から囁かれた通りの内容の異能を付与する様になってしまうのだが。
「首枷なんてぇ、どうですかぁ?」イリスは幸人に異能を出すか?、生命を投げ出すか?と言う選択肢を出してきた。
「ああ、それで!」幸人はまた暴発してしまった。
一体何が暴発したのか?淑女であるイリスは幸人の名誉の為にも口を噤んで何も離さない。その日以降の彼女の頸には常に黒っぽい皮製のチョーカーが巻かれていたという。




