四ノ原早紀という鏖殺少女1
「イリスちゃん、ちょっといい?」新庄幸人は膝の上に居る簑笠府イリスに言葉を掛けた。
「はひ?」簑笠府イリスは口だけでズボンのファスナーを下げようとしていた。つい先程のイリスは台詞は「手を使わない事にしましょう」からのこれである。
「メリハリを付けない?」幸人の言葉は意味不明である。
「意味不明すぎません?」イリスは裸のままでそう返答した。幸人の言葉は意味不明、否。イリスは一日中、服を着ない、と言うか下着を着けていればマシくらいな生態であった。
「その、いやね、僕も十代だから、セッ……は嫌いという訳ではないし、覚えたての猿みたいにヤりたいのは理解る、でもさ回数熟すだけでは手癖で義務化して、僕らの関係も急速に冷めると思うんだよね」至極当然である。まだ二人が出会ってから100時間も経ってない。
「そんな。私としては1日の契約延長に掛ける手間を減らせば、と思って、色々なバリエーションから最適解を探ろうと」イリスは弁が立つ。
「で、本音は?」幸人はイリスが虚偽を言えない、という真摯な態度を信用して聞いた。
「お互い、心が通じ合ったんですから、お互いの性癖を暴露しません?」イリスの脳みそは残念な事にもう機能していない。なんとかしないと。
「そんなに不安?早紀さんに会いに行くというのは、その目的も話し合ったし、相互理解をしたと思うんだけど。まあ、僕が一番好きなのは早紀さん、という風体で会って、君の病気について相談したい、と」
「私としては、幸人さんなりの理由と目的の理解をしました。が、一人で会うのはこちらの陣営の弱みも悟られるのでは?と思う次第ですが」イリスは悩んでいる、風だ。
「で、本音は?」幸人はもう騙されない。
「出した方が、幸人さん冴えると思うんですよね、なのでここは一発景気良く。帰った頃には復活すると思うし、そうなると時間的に日付を跨いでしまうのでノルマの異能1つ未達成のというリスクを抱えたままになりますので、理性も飛ぶのでは?と」イリスは正直に欲望の塊の本音を話した。
「なるほど、早紀さんへの牽制としてのマーキングだけでなく、理性を飛ばした上で、僕の開いているスキル枠2つに、君の思惑どおりのエロ異能を付与してしまおうと?」
「はい、そこまで考えが至るなら、出す必要はありませんね」イリスは幸人に計画を全て見透かされた様で、ここは大人しく引いてくれた様である。
「いいや、イリス。君の欲しい異能って何?僕が持っているべき異能、この際エロ異能がいいね。僕も正直契約更新のコストが重いと思っていた」幸人もそこは今はいいが、デッドエンドまで維持可能か?と言うと分からなくなってくる。
「本当に!?」イリスはパッと喜んだ表情で幸人の抱きつく。抱きつくのだが股間に顔を埋める辺りはもうこいつは駄目だな?という暗澹たる思いがこみ上げてくる。
「……筋肉を脂肪に。脂肪を筋肉に作り変える異能、そんなものは如何でしょう?」イリスは真面目な表情をしながら言った。
「……それ強いかな?質量保存則とかはどうなるかな?」
「人体の重さは変わりませんが、筋肉量が減ったなら実質的に枷を付けれる、そんな防御と攻撃を兼ねた異能に成りえます」イリスはきちんと幸人の護衛手段を案じていたのだ。
「いいね、筋肉を付ける、デッドエンドが来るとされる2020年の、その初日の元旦来るとしてフィジカルの強化としては申し分ない!採用!」幸人はそのまま異能生産でそれを作成しようとしたが。
「お待ちくださいまし!ステイ!」イリスはなぜか止めた。何故だろうか?
「え?どうかした?なにか不都合なことでも?」幸人は異能を作る前の思想校正で作業を中断した。
「筋肉を付ける場所の、消費する脂肪の指定の仕方は、どういうのを想定していました?」
「手を当てて、変換。脂肪は何処でも良いかな?と。逆の場合は消費したい筋肉に手を当てて、脂肪に変換する。という感じ何か拙かった?」幸人は
「絶対に遠隔が良いです。目視で実行可能にするべきです!」
「そのこころは?」
「ふふーん、その手法では、そうですね。幸人さんの左腕が折れたとします。しかし残った右腕に全ての脂肪を筋肉に変えて殴り返せば勝てそう。ですが!」
「ですが?」
「"右腕にどうやって右腕に触れて筋肉を付けるんですか?”では、折れた左腕を右手に添えて?折れてるんですよ?出来ますか?」イリスは彼女の右掌で、右腕の上腕二頭筋に触れようとしているが、どう足掻いても届きそうにない、と言う感じで幸人の不備を指摘してみせた。
「そっか、そうすると視線ではなく、思考でトリガーにしたほうが良いかもしれないな」
「はい、脂肪の位置も指定できるなら、なお使い道が広がるかと」イリスはニコニコしながら言った。
「なるほど、採用」幸人は言った。
「はい、それが良いです」
「で?君の本音は?」
ぐぅ、とイリスは呻き声を上げそうになるくらい痛い所を突かれたと見える。
「……、私のバストサイズアップをしながら、早紀さんの小ぶりな胸を更に小さくしたり、攻撃に転用できるし、幸人さんの逸物も永続的なサイズアップ、も可能かな?と愚考した次第で」イリスは正直に吐露した。本当は黙秘したいのだろうが、話した辺りは幸人にも恩恵が有るから、と言う事なのだろう。
「何という悪知恵だよ!?酷いよ、早紀さんのバストのダウンサイズ化なんて鬼畜の所業じゃないか!それにね、イリスちゃんは男の性器が筋肉で出来ていると思っている様だけど」
「え?」
「海綿体って結合組織なんだよ。ついでに言うと勃起時は殆どが血液で、筋肉の部分は女性と同じで骨盤底筋で、サイズアップにはあんまり効果ないかな。あ、サイトに因ると一応"禁欲が望ましい"とサイズアップの方法があるね」
「え?え?結合組織?きんにくではない?きんよく?え?なんで?」イリスの脳に血が足らなかったのだろうか、思わぬ詰めの甘さを露呈する羽目となった。
何処に血を集めていたのか?考えないようにした。大丈夫かな?この子。本当に一時禁欲したほうが良くない?と幸人がイリスを眺めていると。
「は!そうです!結合組織を介して、筋肉と脂肪とを操作できる、そういうのでどうですか?血液の操作!定義としてはこれが万能で安定性が固く、なおより"増大化も果たせます!"」イリスはピンク色の脳みそをフル活用して即座に改善案を出してきた。この女、どうしようもないドスケベだが諦めの悪さは評価しても良いかも。
「大きく盛ったなあ。それもう普通に他人を殺せる異能じゃない?ノルマは無問題で満たすだろうけど」幸人は異能の持ち腐れになりそうで怖い。そこまでやるならシンプルに攻撃性に特化した方が良いのでは?と思ったのだ。
「いえいえ。これは防御能力を獲る為のデメリット、として献策した次第です。今は私は無敵で日光及び心不全に関しても無問題となっていますが、対外的には私は日光のみ克服した、という形に成っています。そして幸人さんが今日、早紀さんに会うのは、『簑笠府イリスの心臓病が未解決で不安なので貴方が新たな異能を作る相談という名目の筈』。では?」イリスは欲望と同時に、理性的にも同時にタスクを処理できる女だというのを先日まざまざと見せつけられたのを幸人は思い出した。
「なるほど、昼歩行者という欺瞞は、イリスちゃんのスキル枠が1つだから、という前提であって、早紀さんの相談の結果、イリスちゃんの2つの病を解決するのにスキル1枠で昼歩行者の効果を併せ持つ、
そんな万能な代替可能な異能を作ったら、僕を含めた既に異能持ちでスキル枠1個の人間以外に付与しないといけない、か」幸人はイリスの提案を正確に把握した。
「はい、そうです」イリスはホワイトボードをガラガラと引きずってきて図式をスラスラと書いていく。
1:イリス(無敵)→身内の誰か1(昼歩行者)
2:身内の誰か2(血液操作(仮))→イリス(異能なし)
「イリスに必要、既に所持している欺瞞のスキルだけど、いずれ早紀さんや、ミッキーの前に本物として出さなきゃいけない。イリスの2つ目のスキル、精密雁札で何時までも騙していける訳がない、そして僕も異能生産以外のスキルを所持するという課題も残っている。ならばこの血液操作は日光による火傷、心不全の手当として、もっと詰めれば可能?と言えるかもね……」
「ええ、結局はこれ以外にないと思います」イリスはしたり顔。このままでは本採用も逃れられない。だが。
「じゃあ、もう早紀さんとの約束の時間だから行くね」幸人はイリスの一連の提案が、通れば良し、却下されても幸人が早紀と会うのを妨害できれば良い、という2段構えの悪あがきにしては悪くない献策であったが、既に幸人も此処へ来て鈍感な男の振りを辞めているのである。
「そ、そんなあぁぁ」と崩れ去るイリス。あの様子では早紀との相談で下手を打てば、イリスの逆襲は間違いないと思われた。
幸人は異能と、4塔の怪物を把握した上で、初めて四ノ原早紀と真行院幹雄と話す事になる。
それまではシビアと無関係な、繋がりでの付き合いだったが、これからはシリアスな事象を解決する為に非情な決断も辞さないであろう人間に、今のままの現実を把握しきってない新庄幸人として会って、そして見縊られたままデッドエンドに到達するという離れ業をしないといけない。
これを先延ばしにして、準備万端で挑みたいが、今日では間に合いそうにないというイリスの不安も分かろうというものだ。




