簑笠府イリスという幻想少女6
簑笠府イリスと共にホテルを出ようとする新庄幸人は、エレベーターの中で電話をかけた
「ミッキー、ごめん連絡忘れてた」
「おい、新庄。誰のために不眠で待ってたと思ってるんだ?」真行院が不機嫌そうな声で返す。
仕方がない。怒りはごもっともである。簑笠府イリスが新庄幸人に害を為すとは思わなかったが、新庄幸人の異能生産(Dehumanize)が単独では何を引き起こすのか?
ふと隣に寄り添っているイリスが唇に指を立てたジェスチャーで「私の能力に関して適当に誤魔化して帰らせろ」と伝えてくる。
『無敵』。恐らく、真行院幹雄の唱える異能の頒布の方向性を変えかねない唯一の成功例である。
「で?簑笠府君には異能は付与できたのか?」真行院幹雄は確認を行ってきた。
「ああうん、予定通り『昼歩行者』を付与できた、問題はノルマをそのままで果たせなかったので……」幸人はここまで言えたがその先はボロが出そうだった。
「……まさか、複数の異能を付与したのか?」幹雄は疑念を感じた。
鋭いな。
イリスの能力は無敵デメリット単体でも一つの異能に匹敵する。それが一つにまとまっている。関係ない第三者が参加する嘘は、さらなる嘘を呼ぶ。こうなれば幹雄との信頼関係が失われるかも知れない。
「……ごめん、もう寝たいから切っていいか?重大な問題はなかったし説明が面倒い、眠い」幸人は幹雄との話を打ち切る事にした。イリスが「下らない理由で電話を切れ」というジェスチャーをしていたのだ。
「……おい、俺も睡魔で今にも床に入って休みたいんだが?まあいい、説明は昼に聞くぞ、絶対に来いよ」
「割りとあっさりと引いてくれたな」幸人は意外である。
「……、真行院君は貴方をよほど信じているようです、もしくは私の事を買い被っています、善人か何かと」イリスは蠱惑的に微笑んで見せた。
「……別に、ミッキーには言っても良いんじゃないか?」
「情事を含めて、色々と昨日の深夜の流れは四ノ原さんには聞かれたくないので」イリスは真摯な瞳でそう言った。
「……酷い脅迫だったよね、自分の命を使っての、幾つかの理不尽な要求」幸人は思い出して怒っている。
「そこはおいおいお話しますよ、私は貴方には虚偽を言えませんので」イリスはコートのボタンを嵌めながら話す。イリスは先程までの情事、から衣類を身に纏った様子はない。そのコートの下は全裸である。
「裏口から出ます。もしかしたら真行院君は見張っているかもしれない」イリスはホテルの入口とは反対側に歩いていく。
「……もっと慎重になって良いのでは?昨日まで日光は危険だったのに」幸人はイリスの事を数時間しか知らない。ただの名家の令嬢、と言う認識だったが。その時、新庄幸人は一人の女性を連想した。四ノ原早紀。彼女もこのオカルト事案、異能生産(Dehumanize)に関して飲み込みが早かった。
イリスは早紀から新庄幸人の事情の詳細を聞いているとしても異常とも言える速度である。
早朝の、日の出直後の繁華街は無人であった。簑笠府イリスはずっと、ずっと憧れていた。
誰もいない夜の街ではなく、朝の街で闊歩することを。生まれてから何度も幻想した夢である。
「凄い、凄い。私の肌で、日光を浴びている、という実感!」簑笠府イリスは、ようやく凡人が普段から当たり前に得ている特典を満喫していた。
子供のように、いや子供なのだが、妖巫にも見えていた、夜の妖精は、年相応に、感涙に咽ぶ様に日光のもとにその肌を晒している。
くるくると、舞いながら、10年以上浴びることさえ叶わなかった日光を少しでも逃すまいと、着ていたコートを手放して全身を晒していた。
イリスは傍目には痴女、露出狂に見えるだろうが、新庄幸人には彼女がようやく郷里に戻れた妖精に見えた。
神々しく、美しく、魅力的で、完璧な芸術作品にも見えた。
「あはははははは!!はああ、笑った、笑った。御免ね、お待たせしました、幸人さん」イリスは破顔して新庄幸人に微笑んでみせた。多分、こちらが彼女の素なのだろう。その笑顔はどんな男でも射止めそうな物であった。新庄も例外でなかった、そしてここに真行院幹雄がいなくてよかったと思ったのだ。
「簑笠府さん、コート。まだ股間と太腿に垂れてきたせいえ……、生々しいセックs……情事の跡が……っておい!何記念写真取ってるの?」新庄はいきなり自身の股間を撮影しだしたイリスに戸惑った。
「ごめんごめん。せっかくの私の願望だった早朝の繁華街で軽犯罪法1条20号の実行と、自前のクリームパイ動画撮影出来そうだったんで思わず」イリスはカシャリと写真まで撮影した。撮れ上がったのを確認して良いねこれ、とか呟いている。
「は?今、軽犯罪法1条20号って言った?クリーム、なんて?」新庄はイリスを触れがたい神聖なものと見た自分を殴りたくなった。こいつは明らかに日光を浴びるのは"そのついで"という感じである。
「じゃあ、待望の、いえ。この時間でも空いてるお店に行きましょうか?」イリスは紅潮しながら、まだまだ足りないという感じである。
「いや、人のいるところはやめよう?このまま日光浴していかない?そしてさっさと睡眠を取らない?」新庄はイリスという幻想の少女の姿を正しく捉え始めていた。
日光を浴びたい、昼間を歩きたい。嘘ではないだろう、それ以上にこの女は野外露出をずっとしたかったのだ。
更に言えば、ド変態のドスケベに違いない。色情狂でもあるのだ。
「奢りますよ、朝マッ○、私これを自分で食べに行きたかったのですよ」イリスのこれも嘘ではないだろう。ただし、全裸コートで、だ。




