簑笠府イリスという幻想少女5
日付も変わってから2時間程度、二人の関係は契約を結んだだけで済んでいる、否、進めることに足踏みしている。
簑笠府イリスは、黒の乳房にスリットの入ったブラと、カーターベルトとストッキングのみ、の痴態で新庄幸人の隣りに座っている。
女性が隠すべき場所を隠す気はないらしい。自らの肉体に恥ずべき部位はない、とその瞳が宣言しているかのようだ。
もしくは、どれだけ抵抗しても、逃さない、もしくは屈すると踏んでいるようでも有る。
そして新庄幸人は、ただひたすら正座で、蛇に睨まれたカエルのごとく一動きすらしない。童貞に相応しい態度である。
「幸人さん」簑笠府イリスは下の名で初めて新庄を呼んだ。
「はいい」幸人は情けない返事で応えた。
「……恋人として、同意書を交わしました。そして異能は私に付与為さったのですよね?」
「……前例が24件くらい、あるんで確かかと」
「それは勿論、私が願ってやまない『防御』ですよね?生成に成功したのですか?」
「失敗の前例も、87例くらいしてるんで比較検討で間違いなく成功した、と言えるかと。恐らく最強クラスの防御、かと」
「名前は聞いて宜しいですか?」
「『無敵』、と願って」
それを聞いたイリスは満面の笑みで、最後の手を打った。異能作成が詰みであるならば、それは将棋で言うところの『形作り』の過程に進んだ。
「ねえ、幸人さんは、隣に裸の女性が居て、どうして触りもしないのですか?」イリスはそう聞いた。
「経験がないので!!」幸人は断言して言った。それを情けない、とは思わなかったのかイリスは満足そうに目を細めた。
「ふぅん、早紀さんは貞淑な様ですね。良かった」
「彼女の事は悪く言わないでくれないか?」幸人は珍しく怒った。
「仕方ないじゃないですか、だって2時間、私はそんなに手に届かない人より魅力がありませんか?」イリスは親友だと早紀は言っていたが、彼女の方はそれだけではないようだ。複雑な感情を持っている様である。
「そう、じゃない。実際に5分に一回は『仕舞われるんじゃないか?』ってチラ見するくらいには、その、魅力的です」幸人は絞り出すように言った。
「ふふふ、そうですか。となると下品に振る舞うのは良くなそうですね……」イリスは太ももを閉じた。股間は秘処を隠す薄っすらと生えている物だけしか見えなくなった。
「視線を変えるには動かないとだめですか、でも胸を隠さないのは」尻隠して乳頭隠さず、幸人は思った。
「……つまり、ここで致してしまわないと、いう覚悟の現れですか……」イリスは幸人の考えを正確に把握している。そこに侮辱という感想を抱かなかった。
「恥をかかせる気はなかったのですが」
「分かりますよ、準備と、覚悟の時間が欲しい、私も同じでしたが人生はままならないものです」
「何故そんなに行き急ぐような、性急に出ちゃうんですか……」幸人は悲鳴のように呻いた。
「準備はしていました、が使う予定ではありませんでした。慰め程度にしか受け取ってなかったので私達に必要な細かいすり合わせをするだけのつもりでしたの、仕方ないじゃないですか。今日ほど適した機会は無かったのです」
「それなら、良いじゃないですか。後日また、ということで」誠実に有りたいと思う幸人はそう言った。その言葉を聞いたイリスは己の考えが正しいと確信した。
「幸人さん、ところで今日の日の出の時間をご存知ですか?そろそろ夏至も近いですね、ここの地では"かなり早めに太陽が昇ってくる"と思いますよ」
「え?」
「異能の条件は契約を交わすだけで済みません、恋人でなくては」イリスはそっと立ち上がってガラスの窓際に立った。ホテルの屋上の部屋だったから外から見える可能性はあまり考えなかったが窓際に立てば"イリスの裸体はもっと曝される"可能性が少なくない。
「え?あ!!」幸人は彼女の危うさを今になって気づいた。
「最初のタイムリミットは、貴方の窮地。もう一つのタイムリミットは私の終わり。四ノ原さんたちは前者しか想定してなかったはず。これは私の用意した物、彼らに貴方以外の意見を挟ませる余地は残しません」
このホテルの部屋には何故か日を遮るモノが全くない、遅くても3時間後には間違いがなく日の出の時間だろう。
そして日が昇ったら部屋にはイリスの隠れる場所がない、そして異能の付与は終わったがそれだけである。
発動の条件付きの異能はパッシブならば、"起動"という事が不可能である。
無敵は起動型異能ではないのだ。これは彼女は無意識でも生き延びれるようにパッシブ型異能にしたのだ。
「幸人さんどうしますか?このままだと私、日焼けで皮膚呼吸できなくなって死ぬのではないでしょうか?」イリスは窓から離れる気はない様だ。
「……どうして!」幸人には分からない。
「そもそも勘違いしているようですが、私には日の下に出られない、とは別の症状で生き急ぐしかありません、私に残された時間は短い、ですのでまた明日というのは健康な人の感覚です、そこは恨みますよ。
貴方は私の貴重な2時間をドブに捨てたに等しいのです」イリスは怒っているが声にはそれを乗せていない。とても穏やかな印象を持ったが故にそれがとても堪えたのである。
「……ッ!分かった、分かったよ!今此処でヤれば良いんだろう!」幾ら鈍い、いや鈍いふりをし続けたいと思ってもイリスはそれを許さないだろうと幸人にも分かった。
「……本当はもっと真摯に、紳士的にしたかったんだよ、なのにもう知らないからな!」幸人は怒鳴りながらイリスの側に駆け寄った。
「ッ!ふふ、どう言う風にしてくださるの?」イリスの目に期待するモノが伺えた。
「ッ!!」幸人は顔面激突、と言ってもいい様な感じで口唇の接触をした。
「……私の先祖の風習では、友人関係とでも解釈されそうですね」イリスはまだ足りないという感じで囁いた。そちらも生娘だろうに!と幸人はイラッとした。
黙らせるために口の中に舌を捩じ込んだ。暫く口腔内での舌による侵略に弄ばれるだけだったが、イリスもそれに応える様に幸人の口腔内に舌を捩じ込んできた。
それはお互いがお互いに経験が薄いと確信できる拙い舌使いだった。
「……ハァ」呼吸を整えたイリスは「でもこれでは逆にただの肉体だけの関係性にしか取られないのでは?」と挑発的である。今まで貞淑に進めてきたイリスは片足を窓の近くの家具に脚を上げて、股間の、穴を淫らに開帳した。
「……ハァ……その手には乗らない」幸人はイリスの下半身を無視して、彼女の乳房に手を伸ばした。無骨で力の加減を間違えたかのように雑に押し揉んだ。
「……ッ!……っと」イリスは初めて顔を背けた。幸人は勝ったと思ったが。
「幸人さん、先端を、握りつぶすくらいで、して」イリスは強請るように要請した。
「舐めやがって!」幸人は何処まで強情なんだ、と憤りそうになったがじゃあその澄まし顔を変えてやる、と力の限り彼女のブラを剥ぎ取り、そのまま握力の限りで捩じ切るように引っ張った。
「……ッ!ッ!」イリスはようやくここまで来てくれましたね、と言いたげに蠱惑的に微笑んで腕は幸人のズボンのファスナーに手を伸ばしてきた。
「ちょ!」幸人は無謀に反撃を食らってしまい狼狽えたが、イリスもファスナーを下ろしそこねている。業を煮やした彼女はベルトを外す方向性に切り替え、幸人のズボンを降ろした勢いで幸人のトランクスにも手を出してきた。
「幸人、さん、守勢に回ったら負けますよ、ハァ……」乳房への責め苦が効いているのか此処へ来て動きが緩慢になる。
「これでどうだ!俺には嘘はつけないだろう?」幸人は優勢に傾いた事で契約内容を思いだしてきた。
「……どうでしょうか、正直に言えばこの絵面はただの強姦の被害者と加害者で、恣意的に運用される異能の判断基準では、五分五分という所だと思われます」意外と冷静に客観視しているイリスの言葉に幸人は意気消沈しそうになった。
「ああ、判断基準は俺らにないのね」幸人はガッカリした。自身を奮い立たせて強めに出て、裏目ったのである。
「まあ、私も先走りました。ここでヤッてもますます恋人とは言いにくいですよね」
「でも、ここで、日の出前に決めたいんだよね?」
「はい、もうここまでで結構経ちました、生きるために逃げると逆に助かり無さそうですし」イリスの言葉通りに、日の出前の最も位時刻になろうとしていた。
「じゃあ、もう誰にも"言い逃れできない形"しか無いか」幸人はイリスの背に手を伸ばして、脚をもう片方の腕で持ち上げた。
「まあ、オーソドックスにしたら誰も文句はないかと」イリスはとても嬉しそう。
「どうしてそんなに乗り気なんだよ」幸人は拗ねて言った。
「知らないんですか?貴方は私の白馬の王子なんですよ?」
「スパダリと言ってよ、まだその方がいい感じがする」
「えー、私からするとスパダリとかいう女達と一緒にされたくない、アレって金と性能と自己評価を棚上げしたものですよ?」
「そういうことなら一応は奇跡使いだし、白マントの魔術師みたいな感じで」
「構いません、それでいいです、いえそれがいいです」イリスは今までの痴態が考えられないくらい大人し幸人のく手の内に収まってくれた。
「ベッドに運んでおいて何なんですが、スキンがない」幸人は逃げる気ではなく、これはイリスのリスクを心配してのことである。
こくんと。イリスは頷いた。構わないと、準備は整ってない以上、リスクは最後まで取り除けないのだと。
前戯は軽いものだった。口づけして、乳房と、股間に手を伸ばしていく。幸人はイリスの秘処が既に準備万端であると理解できた。
もうこうなったら一刻でも早く、既成事実を作る、その際の採点は無視して進めていくことにした。
その間、イリスは幸人を潤んだ瞳で眺めていた。
幸人は、彼女の表情を見て、今までの痴態が演技なのか?という感想を得た。それがなおさら可愛く思えてきた。
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事はつつがなく最後まで進んだ。我に返った幸人はイリスの股間がとんでもないことになって居るのに気づいて自己嫌悪に陥っていた。
白い液体と、赤い、出血のものと思われるもの、それ以外の分泌物と汗とヨダレで塗れていたのである。
後戯どころではないと幸人は思っていた頃、そのホテルの窓から日が昇ってきたのである。
一瞬身構えたイリスと幸人だったが、完全に日光を浴びているにも関わらず、イリスの肌には何の損傷がない。
イリスはその青い瞳の端から涙が滂沱となり、完全に停止していた。命が奪われたわけでもない。
命が奪われない事実に、その軌跡が今、今日成就したと事実がイリスを昂らせていたのである。
「幸人さん!外へ着いてきてください!」イリスはコートだけを羽織ると念願の太陽のもとへと駆け出していったのである。




