簑笠府イリスという幻想少女2
新庄幸人は簑笠府エリスが指定した時刻に待ち合わせのホテルに向かっていた。
時刻は完全に日が没した20時頃。この辺は治安がいいので静かなのがいい。
かつて夜に拉致され、死にかけた、いや実際には死んでいた先日の事件を思い出していた。
確かにあの時は自分は無防備だったろう、今回は大丈夫と思いたい。一応、幹雄が山乃原君と一緒に24時間営業の店で控えてくれているが。
駅前のホテルはこの街でも一番高級なホテルだった。眺めてるだけだったが実際に自分が使用するとは思わなかったのだ。
新庄は場違いじゃないか?ドレスコードは?と不安になったがどうやら相手もこちらを見つけたようで手を降って合図をしていた。
第一印象は「妖精」である。色素の薄い虹彩は紫で、髪の色は銀色、頬は紅潮しており朱い。だが首筋はゾッとするほどに白く、静脈が透けて見えそうである。
「お待ちしておりました、新庄さん。私が簑笠府イリスです。以後お見知りおきを」楽土に流れる音楽のごとく、その調べは心に染み入ってくるのだ。
新庄は自身への好意に慣れ無さ過ぎてこの自体を全く警戒してなかった。
「えと、異能についてお話があるとか」新庄は用件を切り出した。
「そうですね、それも在りますが今日は久々に人と出会うので"少しだけ"別のお話をしても宜しいですか?」イリスは本来積極的に交流できない事情がある。
昼間、正確には日が昇っている間、外には出れない身であるという、それを踏まえれば多少は付き合っても良いかもしれないとこの時は思ったのである。
「構いませんよ、でも話って言われても俺に面白い話が出来るかどうか」
「早紀……四ノ原さんから聞きましたが、真行院君と新庄さんは"あの"最上位クランのメンバーという話は本当なんですか?」
クラン、と言われれば、真行院幹雄と新庄幸人には一つしか該当する物はない。
とあるゲームの、複数のプレイヤーが一緒にゲーム内の最高難易度コンテンツを協力して攻略するのチームを指す。
確かに、二人は数万あるクランの中でも順位帯が最高報酬の10位以内に比較的安定して入ってはいる。
「確かにそうだけど、実際には攻略担当してるのは別の人で、ミッキーも俺もそれをなぞってるだけ、凄いのは俺ら以外だよ」
「四ノ原さんの話では管理進行で辣腕を振るっていると聞きました。私が聞きたいのはそこ!私はこれでもAAAのクランにいますが、SSSの麓にも見えませんし!」イリスはまさかの同じゲームの愛好家であった。
新庄は簑笠府イリスがほぼ外に出れないのではゲームをやるのは当然と思ったのだ。それで会話を広げるためにそのゲームのことを色々と話した。
「へえ、まさか配布石だけで天井?」
「嘘、え?最強キャラのフシミ無し?盛っているのでなくて?」
「確かに、管理進行の人が本戦で皆に『早くやれ』というのはありませんね(笑)」
話は盛り上がった。ちょっと音量を気に掛けるのを忘れたかもしれない、ホテルの1Fに会ったカフェに相応しく無い振る舞いだったかもしれない。
カフェのスタッフから「お客様」と注意を受けてしまったのだ。
「すいません」素直に謝るイリス。
「仕方がありません、部屋に参りましょう。最上階に部屋を取ってありますので、『覇主皇道;RE』のお話の続きを」ニコニコとただのゲーマーで、同じプレイヤーということで"イリスが異性である"事を失念していた新庄幸人は無警戒に個室に誘われて乗ってしまったのである。




