毒見
一話
繫華街にある通りは今夜も変わらず賑やかだ。
「外国からきた野蛮人はこれだから困るわ」
僕の横を歩いている背の高くてスラリとした女は肩をすくめてみせる。
「女性が野蛮なんて汚い言葉を使うべきではなんじゃないんですかね。ルイーズさん」
彼女の名前はルイーズ。本名は違うらしいが彼女は僕にそう呼べと言う。
「あら、テオ。君はいつから女のことを「女性」などと呼ぶようになってしまったの?まさか好きな女の子でもできた?よし、お姉さんに話してみなさい。きっと素敵な未来にしてみせるわ」
「好きな女の子なんてできてませんよ。できていたとしてもルイーズさんが言うその『お姉さん』はどこにいるんですか?少なくとも僕の半径五メートル範囲内にはいないですけど」
「あなたとは一度じっくりとお話をしとかないといけないみたいね。東洋の国のことわざに『拳で語る』っていうものがあるらしいわ。一度私と語り合ってみない?」
「その先に素敵な未来はない気がするので遠慮しておきます」
そう残念。というとルイーズさんは黙った。少し考える素振りを見せこちらを向く。
「—ねえ、冗談ぬきで私ってお姉さんよね…?だって年齢も——「まだそんなこと考えてたんですか。いいから今日ここに僕を連れてきた理由を教えてくださいよ」
この人はくだらないことを考える時でさえも真剣になる。だから話を聞くべき時とあいてにしない方が良い時の判断が難しい。
「そんなこととはなによ。私にとっては重大なことなのに…。まあいいわ。私が今日あなたを呼び出した理由はずばり毒見よ」
「毒見?まさかこんな真夜中にまずいもの選別機として呼ばれたわけじゃないですよね」
「残念だけど今回は違うわ。でもその案は良いわね。最近猫の脳みそを食べてみたいって思ってた所なの」
「ルイーズさん脳みそを食べるよりも診てもらった方が良いと思います」
「今度あなたのスープに牛の金玉混ぜておくわ。当分は食事に気をつけることね」
ルイーズは大きくため息をついた。
「あなたと話していると余計なことばかり話して全然話が進まないわ」
「八割はルイーズさんのせいですけどね。話を戻しましょう。毒見って何かを食べるんですか?」
「——いえ違うわ。あなたは毒見される方よ」




