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風吹く、あの緑の丘へ  作者: 鳥遠かめ
7.ただいま、さよなら、またね
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悪魔とココロ先生

「さてさて、フラハお気に入りのココロ先生とやらは、どんな妖精なのだ?」


 悪魔のペーポは両手をこすり合わせ、髪の毛をセットし、せきばらいをしてからノックをしました。


「どうぞ~」


 ふんわりした返事が聞こえてきます。

 聞いた感じでは、いつものココロ先生とあまり変わりのないように思えますが……。


「失礼するぞ」


 ペーポはとびらを開けてココロ先生の部屋に入りました。

 赤いじゅうたん、おじいさんのようなつくえ、ロッキングチェアー、ふわふわのベッド。

 ココロ先生は、つくえについていました。


「あら? どちらさまですか?」

「わがはいは、フラハの大親友のペーポである。羽は生えていないが、こう見えても妖精である」

「わあ、フラハちゃんのお友達! はじめまして~。……と、いうことは~」


 ココロ先生はあいさつもそこそこに席を立つと、ペーポのうしろやろうかをチェックしました。

 それから、小さなため息をつきます。


「フラハちゃんは、帰ってきてないの?」

「がっかりと安心のはんはんといったところだな。フラハは、おまえが病気だと聞いて、医者をさがしに行ったぞ」

「そっかあ……」


 ココロ先生はきれいな羽を「しゅん……」とさせました。


「しかし、フラハが言ったほど“良い気持ち”の多い妖精ではないな。つまりは、ずいぶんと重たい病気になっているとみた。わがはいが得意の魔法で治してやろうか?」


 ペーポが、ぎざぎざの白い歯を見せました。

 さかさまの魔法でやさしいココロ先生を変えてしまう気です!


「ありがとう。でも、平気ですよ。これは病気とは少しちがうんです」

「ちがうのか? みんな、かんちがいをしておるぞ。さては、心配させてよろこんでいるのか?」

「まさか! でも、理由が上手に説明できなくって……」

「言いづらいことなのか? 何か失敗をしたのか? 悪さをしたのか?」

「そりゃあ、ちょっとは居眠(いねむ)りはしましたし、あまっているぶんとかんちがいして、モモのプリンを食べちゃったりもしましたけど……ちゃんと(あやま)ったもの」


「ふーむ……」

 ペーポは(むね)の前で腕を組んで、赤いじゅうたんの上を練り歩きます。


「かくしごとはよくないぞ? 全部はきだして、すっきりしたらどうだ?」

「ペーポさんは、刑事(けいじ)ごっこ中? チョッキが似合っていてすてきね」

「このチョッキはお気に入りであるから、もっとほめてもよいぞ」


「すてき! 似合ってる! 格好良い!」

 ココロ先生はにこにこしてほめました。


「おせじはきらいであ……る?」

 ペーポはココロ先生のわざとらしさに、むっとしたようですが、すぐに首をかしげました。


「おせじじゃないわ。本当にすてき。ねえ、あなた。フラハさんを黄色の丘で助けてくれたりしてない?」

 ココロ先生は口の前で両手の指先を合わせてたずねます。

「チョッキもすてきだけど、わたしはそうじゃないかなって思うから、あなたのことが、好きかも」


「す、すすすす好き!? まだ、わがはいのことをなんにも知らないではないか!」

「でも、フラハさんの大親友なんでしょう?」

「確かにそう言ったが、当のフラハがここにおらぬではないか。わがはいが、うそを言っている可能性もあるぞ!?」

「うふふ。さすが刑事さんね。フラハさんにおかえりが言いたいから、さがしてきてもらってもいい? そのあいだに、あなたを歓迎(かんげい)するティータイムのしたくをしておくから」

「わがはいがさがさなくとも、もどってくるのではないか?」


「そうね、そのはず……」

 ココロ先生の表情がいっしゅんくもりました。


「また、悲しい気持ちを感じた。フラハは胸やけがするくらい、ココロ先生をほめちぎっていたから、帰らない心配など不要であるぞ? 砂漠の連中や王が引き止めたが、無事にここへもどってきたのだ」


 ペーポがそう言ってやるも、ココロ先生はなおさら悲しそうになりました。


「ふーむ。大人のくせして、ずいぶんと素直に感情をあらわすのだな。妖精とは元来(がんらい)、自由気ままなものであるが……」

 悪魔大辞典のページがめくられます。


「わ、すごくおっきい教科書。りっぱな妖精を目指しているのね。羽が生えていないようですが、気にすることはありませんよ。フラハさんも、元は羽が生えていなくてなやんでいたのですが、ちゃんと生えてきましたし、魔法も使えるようになったんですよ」


「わがはいは何も心配しておらん。魔法についてはそんじょそこらの妖精に負ける気もせんしな。それに、フラハはまた成長をして、今や大人の妖精も顔負けのりっぱな羽を持っておる」

「まあ、それはすてき。早く会いたいわ」


 ココロ先生は何かをこねこねするしぐさをしています。


「うそがまじったぞ。会いたくない気持ちがあるな」

「会いたくないなんて、思ってません! いじわるな刑事さんね」


「自分で気が付いていないだけだ。フラハも同じであろう。ココロ先生が病気だと聞いて、おまえのかわいそうなすがたを見ることや、もしかしたら死んでしまうかもしれないということに、きょうふをおぼえているのだ。だから、おみまいに来れない。わがはいにはよーく分かる」


「フラハさん……」

 ココロ先生の羽が完全にしょんぼりしてしまいました。


「フラハが安心しておまえに会えるよう、親友としての()をはたそうと思ったが、わがはいの魔法はおまえには無意味だ。病気か健康、会いたいか会いたくない、どっちかなら変えてしまえるが、半分半分のはんぱだと、さかさにしても同じである。……敵にもなりえんし、えものですらない」


 ばたんと大辞典が閉じられます。


「よく分からないけど、会いたいわ。ねえ、刑事さん。フラハさんをさがして連れて来てくれないかしら?」


 ココロ先生がお願いをすると、ペーポは大きなため息をつきました。


「まったく、興ざめである。おまえは心配をしてもむだなことを心配していると見える。むだなことでもたついて、わが大親友をほったらかすとは腹立たしい。会いたければ、自分で会いに行くのだな。おまえが心配をさせているのだから、当然であろう?」


 ペーポはそう言うと、“かぜはなの家”からさっさと出て行ってしまいました。

 いたずらをすることもなく、ココロ先生を魔法にかけることもなく、かといって、病気を治す親切も何もなしです。


 なんだったんでしょうか?


 ちなみに、かれはどこかへ行ってしまうつもりだったようですが、“チョウチョのねどこ”を通ったときに、リーデルくんたちに遊びにさそわれてつかまってしまいました。



 夕方ごろになって、フラハが“かぜはなの家”に帰ってきました。

 かのじょは、お医者さんをさがしてなんていませんでした。

 お医者さんがココロ先生の診察(しんさつ)をすませているだろうことは分かっていましたし、ペーポが見ぬいていたとおり、ココロ先生の不調をこわがっていたので、どちらにせよ、お医者さんがどう言うのか聞きたくなくて、会うことなんてできませんでしたから。


 そうして、ふらふらとあてもなく緑の丘をうろついていると、何やらぷりぷりしたムギちゃんが来て、フラハの打ち明け話を聞いて、帰るようにうながしてくれて、やっと風車のもとへともどって来たのでした。


 ところで、相談に乗ったムギちゃんが、めずらしくいじわるなことを言ったのです。


「ココロ先生が病気なのは、もしかしたらフラハちゃんが悪いのかも」


 ですって!


 でもそれは、単なるいじわるではなく、短いあいだにフラハとクローディアのふたりが旅立ってしまって、さびしすぎてしょうがなくて病気になったんじゃないかという推理(すいり)からくるものでした。

 ムギちゃんは、お父さんがいなくなったことで、かのじょのお母さんのバケリおばさんがさびしすぎてうるさくなったことを経験していたのです。

 そういうわけで、フラハはやっとココロ先生に会いに行く決心をかためたのでした。


「ムギちゃんの推理が当たっているのなら、ココロ先生を治せるのは、わたししかいないわ!」


 ということですね。


 一方で、ココロ先生は、自分からフラハをさがしに出かけることはありませんでした。

 それでもちゃんと、フラハが帰って来たときには、しっかりと抱きしめてこねこねしあっていましたし、フラハがハチドリの羽ばたきや、インコのおしゃべりのように旅の話をまくしたてるのを、やさしくうなずいて聞いてくれました。


 フラハも心配なんておくびにも出さず、病気という言葉も一切、口にしませんでした。


 ちなみに、ペーポのことはやっぱり“羽の無い妖精”で通すつもりのようで、悪魔だということは話されませんでした。

 ムギちゃんにも教えなかったようです。

 フラハはペーポがどこかに行ってしまったことを気にかけていましたし、夕食も一人ぶん多くしたくされていました。


 それから、夜になるとフラハはペーポのことなんてわすれてしまったかのように、「今日は、ココロ先生と寝たいわ」と先生がこまるほどにおねだりをしてみせたのでした。

 もちろん、トムも「フラハお姉ちゃんと寝たい!」ですし、モモだって「たまには、わたしも良いかも……」と言いましたし、マルティンも「客観的に仲間外れに見えるから、ぼくも」なんて言いました。

 サイディアさんは入れませんでした。まあ、大人の男の人ですから、すきまがあっても紳士ならえんりょをするというものです。


 しかし、よりにもよって、フラハの古くてあまり大きくないベッドに押しかけたものですから、ベッドはぎしぎし悲鳴をあげましたし、みんなはツバメのひなみたいにぎゅうぎゅうづめでしたし、フラハは「ゾウさん、お鼻でしめつけるのはやめて……」なんて、ねごとを言うはめになりました。



 ……みんなが寝静まったころ、ろうかに小さな足音がしのびこみます。

 真っ暗(やみ)の中を、黒い頭を黒いチョッキで溶けこみながらやってくるのは、悪魔のペーポです。


 やはり、何かをたくらんでいるのでしょうか。かれはふたたびもどってきたのです。

 ペーポはフラハの部屋のとびらに耳を当ててから、ろうかのさらにおく、ココロ先生の部屋へと向かいます。


「あの妖精は、何かをかくしているぞ。このままでは、わがはいがすっきりしないではないか。そのうえ、この丘はつまらん。よそよりも“悪い気持ち”が少ない!」


 ペーポはぶつぶつ言いながら、ココロ先生の部屋のとびらを開けました。

 もちろん、ノックも無しにです。


「あら、こんな夜ふけに、お客さんかしら?」



「なっ!?」

 ペーポはちぢみ上がって、矢印尻尾が「ぴん!」とはみ出てしまいました。



 フラハの部屋でみんなと寝ているはずのココロ先生が、つくえにいたのです。


「今度はスパイごっこかしら? 他人の部屋に断りもなく入ったらいけませんよ。お父さんやお母さんに、教わらなかった?」

 あのココロ先生にしかられています。ざまあみろですね。


「わがはいに父や母はおらぬ! わがはいたちはどこからともなく生まれて、永久不滅(えいきゅうふめつ)なのである! それよりも、おまえが今かくした物がなんなのか話してみろ」


 ココロ先生は、片手をつくえの引き出しに差し入れていました。


「ごめんね。おはなしできることと、できないことがあるの。たとえフラハさんのお友達でも、だめなものはだめ」

 とはいえ、ココロ先生はすぐににっこり笑顔になります。

「ところで、ご両親がいないの? もし、行くところがないのなら……」


「ごまかしは効かんぞ! アクマノマホウハホントノマホウ、ホントノマホウハサカサマノマホウ!」

 ペーポはにやりと笑うと、すばやく(やり)を取り出して、ココロ先生へと向けて早口で呪文を唱えました!



 すると、ココロ先生を赤い稲妻(いなずま)のようなものが()ち、真っ赤な光に包まれて、胸を押さえて苦しみ始めました!



「さあ、その見せられないものを見せてみろ!」


 悪魔が命じますが、ココロ先生は苦しむばかりで、つくえから品物を取り出そうとしません。


「わがはいの魔法の力に抵抗(ていこう)するか。さすがは、フラハの師だ。やつの魔法も、わがはいたちに匹敵(ひってき)するほど強力なものであった。わがはいたちが手を組めば、世界全部をさかさにすることだって、たやすいであろう」


「フラハさんの魔法はなんだったの? やっぱり、植物に働きかける魔法?」

 ココロ先生は(ひたい)に汗をうかべてふるえながらもたずねます。


「この()におよんで、なぜそんなことを気にする? おまえは今、悪魔の術中(じゅっちゅう)にいるのだぞ?」

 悪魔は歯ぎしりをして魔法を強めます。

 ココロ先生は燃えるように光り、とうとう引き出しから手が出てしまいました。


 ……が、その手には何も持ってません。


「まだあらがうか! まあ、よい。……ふつうに取ったほうが早い」

 悪魔はそう言うと、動けないココロ先生を無視して、引き出しに手をつっこみました。


「手紙か……。また、にても焼いてもくえぬ感情を見せよってからに」

 ペーポはぶつぶつ文句を言いながら、勝手に手紙を読み始めました。

 それから、「つまらん」と、ゆかにぽい()てします。


「いやであるなら、いやと言えばいい。ほしいのなら、ほしいと言えばいい。そこまで苦しむくらいなら、じゃまをするか、戦って勝ち取ればよいのではないか?」

 悪魔が何かを問います。


「そんなこと、できないわ。わたしは、“かぜはなの家”の先生なのよ。子どもの幸せを願うのがわたしの役目」

 ココロ先生は魔法にあらがって、ふるえる手で手紙を取りかえそうとします。

 ペーポは息を「ふーっ!」とやって、手紙を吹き飛ばしてしまいました。


「フラハのお願いに比べれば、おまえの願いなど()でもないな。妖精なら、魔法を使えばよいではないか?」

「わたしは、魔法が使えないの。たとえ、使えたって、意味がないのよ」


「無意味だと?」

 悪魔がもう一度、槍を向けるとココロ先生は、いすにしばりつけられたようになってしまいました。


「……どんなに便利な魔法が使えても、どんなに強い力で押さえつけても、だめ。したがったように見えたって、人の心は変えられないものなの」


「分かっておるのなら、手おくれにならぬうちに抵抗をやめるのだな。後悔(こうかい)の気持ちも、わがはいの好物であるゆえ、味見をしにもどってきてやってもよいが……」


 ペーポの顔が、男の子からとしよりヤギに変わりました。

 身体も、むくむくと大人くらいに大きくなって、口からはヘビのような(した)がのぞいています。

 でました! 悪魔の本性(ほんしょう)です!



「ココロさん!」



 ほの赤い部屋の中で、きらりとふたつの何かが光りました。

 眼鏡(めがね)! サイディアさんです!


 サイディアさんは部屋に飛びこんでくると、大きな悪魔をつき飛ばしました。

「見てたぞ! 子どものふりをして、ココロさんにひどい魔法を使ったな! さてはおまえ、悪魔だな!」


「大正解! ようやく分かりやすいやつがきてくれたか! おまえの心のすきまに入りこんでくれよう!」

「だれが悪魔なんかに! ココロさんも、悪魔になんて決してくっしないぞ!」

 サイディアさんはフライパンをかまえました。


「ひはははは! わがはいの力が不要かどうか、おのおのの“心”に聞いて決めてもらおうではないか!」

 こちらはするどい槍です。



「やめて!」



 一触即発(いっしょくそくはつ)のふたりに、女の子の声が割って入りました。



「フラハさん、あぶないから来てはいけない!」

 サイディアさんが入り口の前に立ちふさがります。


 しかしフラハは、それを押しのけて、部屋の中へと飛びこみました。

 魔法でいすにしばりつけになったココロ先生と、正体を現したペーポを見比べて、それから……。



 ペーポの前へと行きました。



「わたしたち、親友よね?」

「そうだ、大親友である」


「だったら、どうしてこんなひどいことをしたの?」

 フラハは静かに泣いていました。

「また、だましたの? それとも、わたしがむりやり友達にしてしまったの?」


「どちらでもない。わがはいの心は、わがはいがいちばんよく知っている。われわれは親友である」

「信じていいのね?」

「決めるのはわがはいではない」


 悪魔はそう言うと、フラハから背を向けました。まどがひとりでに開いて、部屋中を強い風が吹き抜けます。

 トムとマルティンとモモも起きてきたようで、ろうかのほうで子どもたちのおどろきの悲鳴が聞こえました。


「フラハよ。魔法の時間は終わりだ。わがはいをかくすために、うそを語る必要は無くなった」


 悪魔がつばさを広げます。


「行ってしまうの? お別れなの?」


「わがはいはいつでもおまえのそばにおる。だが……最後にひとつだけ、ちゅうこくしておく」

 悪魔はふりかえり、フラハとココロ先生を見比べました。


「おまえたちに残された時間は、あとわずかである。後悔をすることになれば、(ほこ)りは(のろ)いに変わり、願いはうらみに変わるであろう。そのときは、わがはいとは別の悪魔が来て、おまえたちを徹底的(てっていてき)に不幸のどん底にたたき落とすことになる」



 漆黒(しっこく)のつばさが風を抱き、悪魔は月のうかぶ空へと飛びだします。



「さらばだ、友よ」



 別れの言葉に、フラハは「さよなら」と小さな声でつぶやき、もうひとつぶだけ涙をこぼしました。



「いやあ、おどろいた。ココロ先生、フラハさん、けがはありませんか?」

 サイディアさんが先生を立たせてあげます。

 マルティンは開け放たれたまどをしめて、カーテンまでしっかりと閉じます。

 部屋の明かりは、モモがつけてくれました。


「ごめんね、みんな。わたし、ペーポが悪魔だって知ってて連れてきたの……」

 フラハはうなだれます。


「きみが謝ることなんてありませんよ。悪魔が関わることは、いつだって悪魔が悪いんです。悪魔はうそつきですし、またもどってくるかもしれません。すぐに、神父(しんぷ)さんをたたき起こして、大人の人や妖精に知らせてもらいましょう」

 サイディアさんは元気よく言うと、ランプを持って出て行ってしまいました。


「風で部屋が散らかってるから、ファギオさんにもお願いしないと。悪魔め、なんてやつだ」

 マルティンはおこっています。

 モモは「うーん……」と考え中モードです。


「悪魔、格好良かったねえ」

 トムが何か言いました。


「悪魔が格好良いなんてこと、あるもんか。ああ、しまった! 人相書きをスケッチしておくべきだった。それにしても、先生の病気につけこんでやってくるなんて、これは本物の騎士団(きしだん)が必要な事態だよ!」


 いちばん小さなトムがこわがらなかったのは良かったです。

 フラハはトムを「ぎゅっ」としてやろうとしましたが、トムはいやがって逃げて、殊勝(しゅしょう)にも、片付けのおてつだいを始めました。


「お姉ちゃん、お手紙落ちてた」

 トムは手紙を拾い上げると、フラハに差しだしました。



 しかし、それを別の手が、さっと取り上げてしまいます。



「これはだめっ!」



 ココロ先生です。

 トムはびっくりしてしまったのか。泣き出してしまいました。


 ココロ先生はめずらしく、そんなトムをあやすことも、謝ることもありません。

 そういえば、悪魔がココロ先生の部屋に来ていたというのに、子どもたちも先生の心配が後回しになっています。


「らしくない、かも……」

 モモがココロ先生を見て言いました。


 マルティンも片付けの手を止め、フラハもまた、だまって先生のことを見つめていました。


「ずっと考えていたのだけれど……先生は病気じゃなくて、何かわたしたちにかくしごとをしている?」

 モモのするどい指摘(してき)です。それを聞いたトムも泣き止んで、先生を見上げました。


 みんなの視線が、みんなの先生へと集まります。


 先生は、「ほうっ」とため息をつきました。でもそれは、幸せそうではなく、泣き終わりのため息のように、ふるえていたのです。


「……ごめんね、みんな。モモの言う通り。わたしは、みんなにかくしごとをしていたの。みんなに、話さなくてはならないことがあります」


 ココロ先生はそう言うと、真っ直ぐとフラハのことを見つめました。



*  *  *  *


  *  *  *  *

☆妖精の世界のひみつ、その三十二☆


「やっと、かつやくできましたよ。よくを言えば、フライパンでぱーん! と悪魔の頭をひっぱたいてやりたかったですね」

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