こねこね祭り
黄色の丘をちょっとだけ緑に変えたフラハは、ペーポとともに黄金の町に帰ってきました。
正体のばれている悪魔のペーポが町に入るとみんながこわがるので、町にいるあいだはピエロの変装をしてもらいます。
ピエロなら、いたずらをしてもふしぎじゃありませんし、みんなを笑わせるのが役目ですから、きらわれないというわけですね。
王さまのお城をたずね、黄色の丘であったできごとを報告します。
「つまりは、砂漠の連中はやっぱり、どうしようもない連中だったということじゃな」
「そうかも。でも、植物を育ててくれるって言っていたわ」
「心配じゃし、家来には、たまに様子を見に行くように言っておこう。それと、ガラガラヘビには、首はねは禁止にしたと、たよりを書いておくことにしよう。フラハちゃんのことを気にかけてくれていたようじゃしな」
王さまはきげん良くうなずきます。それから、ピエロくんのほうを見ました。
「おぬしは、フラハのことを助けてくれたそうじゃな」
王さまとまじめ大臣には、ペーポの正体を明かしてあります。
「わがはいは契約をはたしたまでである。今でこそ、親友であるがな。望むのなら、また城のおてつだいをしてやろうか?」
悪魔が白い歯を見せて笑います。
「えんりょしておこう。黄金に目のくらんだ王や、悪魔にたよった王がどのような末路をむかえるのかは、だれしもが知るところじゃ」
「悪魔の辞典にも“お約束”として書いてあるな。もっとも、おまえはわがはいの来るずっと前から、首はね大好き人間だったようだがな」
「そこをつかれると弱いが、少しづつこの国を良くすると、フラハちゃんとの約束にかけてちかおう」
王さまはまじめな顔をして言いました。ペーポも「それなら、わがはいは不要であるな」とうなずきます。
「さあ、フラハちゃんよ。おぬしの旅はこれで終わりじゃ。あとは、“かぜはなの家”に帰り、ココロ先生に元気な顔を見せるだけじゃな」
「はい、王さま。たいへん、お世話になりました」
フラハはぺこりと頭を下げます。
「うむ。さびしくなったら、また、いつでもたずねてくるがよい」
「さびしいのは王さまのほうでしょ」
大臣がぼそりと言いました。
「その通り! 今度来るときは、ココロ先生やほかの知り合いもぜひ連れて来ておくれ。それでは、またね、じゃ!」
「またね、王さま!」
フラハは黄金の国をあとにします。船に乗り、波にゆられて、緑の丘を目指します。
行きとはちがって、大海ヘビにおそわれることもなく、波もおだやかで船酔いもせず、のんびりと海をながめるうちに旅は終わりました。
相変わらず、人のたくさんいる港町です。
ココロ先生やサイディアさんが買い物に来ているかもしれませんが、会いたければここでさがすよりも、とっとと丘に帰るほうが賢明というものです。
さて、フラハが最初に「ただいま」を言った相手はだれでしょうか?
港町や村の方角と、“かぜはなの家”とのあいだには、“あるお店”があります。
そう、パンカフェです。
もうお分かりですね?
「いらっしゃいませ! おや、フラハちゃんじゃないかい! おかえり!」
バケリおばさんです!
ぶっちゃけて言いますと、フラハはがっかりしました。
帰って来ていちばん最初にあいさつをする相手には、大親友のムギちゃんがふさわしいと思っていたからです。
ところが、フラハたちが港町についたのは午前中で、つまりは“かぜはなの家”ではまだ授業中だったというわけです。
「さあ、うちの娘のお友達に、最高のランチタイムセットをごちそうしてあげようね」
そう言ったのは、知らないおじさんです。
「もしかして、ムギちゃんのお父さん?」
「その通り! 世界中のカフェを三百六十五件も見てきた成果をごしょうみあれ」
ムギちゃんのお父さんが出してくれたランチタイムセットは、焼き立てのコッペパンとタマリロのジャム、それからミルクティーでした。
「おいしい……」
おいしいのですけど、これじゃいつもと同じです。
「気付いたようだね。そう、いつもと同じ! つまりは、もともとうちが最高のカフェだったわけだよ! わっはっは!」
お父さんはバケリおばさんなみに大きな声で笑いました。
バケリおばさんも「まったくこの人ったら、ないね!」と笑います。
ペーポは「わがはいよりもどうどうと笑うやつにあったのは初めてだ」とうなりました。
パンカフェで少し早いお昼をとったら、いよいよ“かぜはなの家”へと向かいます。
クローディアは、フラハが旅立ってから、おじさんおばさんの家のある都会へ行ったはずなので、いないでしょう。
モモは、みんなと遊んでいるか、部屋で考えごとでしょう。
マルティンは、また画伯になっているかもしれません。
トムは、少しは大きくなったでしょうか?
サイディアさんも、お昼からはよく買い出しに行くので、道でばったり会うかもしれません。
それからフラハは、春色の髪と、にこにこ笑顔を思いえがいて、ほおをほころばせました。
「おまえは本当にうれしそうにするのだな。ココロ先生とやらに会うのが、そんなに楽しみなのか?」
「もちろんよ。最高にやさしくて、すてきな人なの。ペーポもきっと気に入るわ」
「悪魔であるわがはいとしては、かんべんしてほしいところである。おまえのたのみだから会ってやるだけだ」
「ココロ先生がおこらないからって、悪さをしてはだめよ」
「それがこまるのだ。わがはいは、おこったり、かなしんだりしてもらわないと、やりがいを感じない。ゆえに、本当に寛容な者は、どうにもこうにも苦手なのだ」
「サイディアさんはおこるわ。ココロ先生があまり注意しないぶん、口うるさいの」
「では、ココロ先生がだめだったら、そのサイディアとやらにいたずらをしよう」
悪魔は意地の悪い笑いをしてみせます。
「まあ、ココロ先生を悲しませるよりは、ましね」
フラハは肩をすくめました。
ふたりはおしゃべりをしながら“フクロウのいびき”のそばを通り、“チョウチョのねどこ”で遊ぶリーデルくんやフィーユちゃんたちに出会い、「ただいま」を言いました。
冬だというのに、子どもたちは今日も元気いっぱいでお外遊びをしているようで、やっぱりフラハの連れてきた新しい友達に興味津々でした。
もちろん、ペーポはいきなり遊びにさそわれました。「あいさつがすんだら、いっしょに悪魔たいじごっこをしよう」なんて言われて、大爆笑です。
リーデルくんたちは、ペーポが子どもの悪魔だとは気付いていないのですね。
もちろん、こわがらせるだけなので、フラハとペーポだけのひみつです。
ペーポはひとつ、悪魔役を練習するフィーユちゃんに向かって「悪魔には矢印の尻尾があるものだぞ」とアドバイスをしました。
フィーユちゃんは「取り急ぎ自宅へ帰って、矢印尻尾を作ることにしますわ」なんて、相変わらずのプロ女優ぶりです。
ミミクがペーポのことを、「チョッキが良く似合ってて、まじめでかしこそうだもんね!」と評したのには、笑いをこらえるのが大変でした!
さて、だれかが足りませんね?
忘れてはいけません。大きな三つ編みのおじょうさんが、ほかの子どもたちのうしろでそわそわしていますよ。
「ムギちゃーん!」
フラハは目にも止まらぬ早業で、みんなの向こうにいる女の子のうしろへと回り込み、押し倒してこねこねしてやりました!
ムギちゃんのほうも負けずにこねこねのぎゃくしゅうです。
「フラハちゃん、おかえり!」
「ただいま! お父さんも帰ってきたのね?」
「うん。だから、おてつだいも減ったの!」
「遊ぶ時間の心配はもう、いらないってわけね!」
「あたしに足りなかったのは、フラハちゃんだけ!」
ふたりは目をぎゅっと閉じて、おでこを合わせました。
「黄金の国はどうだった? 黄色の丘では、いじわるをされなかった?」
「色々なことがあったわ。今度、いっぱいおはなししてあげる。でもね、今日はとりあえず、親友を紹介するわ」
フラハはあらためて、子どもたちにペーポを紹介しました。
ペーポはチョッキを正しながら「わがはいは羽の無い妖精の子ども、ペーポである。羽が無くとも、魔法は得意、王さまの手伝いもしたことがあるうえに、フラハの大親友でもあるのだ」と気取って言いました。
「ふん、王さまの手伝い。といっても、まだ子どもの妖精だろ? おれの手ぶくろのほうが役に立ったよな?」
グロブさんです。冬場のかれはリンゴ一個ぶん、背がのびています。
羽はどうやらフラハのほうが大きくなってしまったようですけど。
……おや、人見知りのはずのムギちゃんが、初対面のペーポの前までやってきましたよ?
何やら、かれのことを足の先から頭のてっぺんまで、じーっくりと観察しています。
「へえ! あなたがフラハちゃんの! 大親友! ねえ!?」
バケリさんとお父さんを合わせたくらいに大きな声です!
「ひははは! おまえとは仲良くできそうだな」
ペーポが笑います。
「どうでしょーね!?」
ムギちゃんは、ぷいっとそっぽを向いてしまいました。
子どもたちはこれがどういうことなのか察したようで、近いうちに「決闘ごっこ」をやる検討に入りました。
グロブさんも「決闘用の手ぶくろが要るな。おれはムギちゃんが勝つほうに賭けるぜ」なんて乗り気です。
「やれやれ、だわ」
フラハはまた肩をすくめて笑いました。
さあ、最後は“かぜはなの家”です。
なだらかな芝生の坂を登ると、腰を落ち着けたりっぱな風車がすがたを現します。
さっきの子どもたちの中には“かぜはなの家”に住む子はいなかったので、みんなはきっとこっちでしょう。
ゆっくりと風車が近づくたびに、フラハは心が落ちついて、「ようやく帰ってきたのだわ」という気持ちになるのでした。
それに、ココロ先生にも抱きついてこねこねしてやろうと、楽しみで仕方がありません。
落ち着いたり、うわついたり、安心と楽しさで、なんだかふらふらになりそうです。
ともかく、ムギちゃんに続いて、可愛いトムやココロ先生をこねこね祭りにしてやりましょう。
「……あ、マルティン、見て」
ポーチのいすに腰掛けているのはモモです。
かのじょはフラハたちを見つけて立ち上がろうとしましたが、やめてしまいました。
マルティンがその向かいで、モモのほうを向いてスケッチブックに何かをかいています。
「動かないでって言ったろ。トムだとデッサンの練習にならないから、モモにたのんだのに」
「ごめん、そんなことより、うしろ」
マルティンがふり返ります。それから、かけてもない眼鏡を「くいっ」と押し上げるしぐさをすると、「ぼくらのフラハさんと、知らないだれかさんがいるね」と言いました。
「ふたりとも、ただいま……ぐえっ!?」
フラハのお腹に、パンチをされたかのような衝撃が走りました!
「フラハお姉ちゃん、おかえりーーっ!」
小さな男の子の顔が、フラハのお腹にめりこんでいます。
「痛いなあ、もう、こいつ!」
フラハはトムを抱き上げて引っくり返り、草の上で笑いながらこねこねしてやりました!
「みんな、ただいま! 黄金の国で新しく友達になった子を連れてきたのよ! ココロ先生にも紹介したいのだけど……」
フラハがそう言うと、なぜかみんなはだまってしまいました。
かのじょのお腹の上ではしゃいでいたはずのトムも、「あのね、あのね」と急に泣きだしそうになっています。
フラハはあわてて立ち上がりました。
“悪い気持ち”にびんかんなペーポも「ほう?」と何かに気付いたようです。
「ココロ先生は、病気になっちゃったの」
モモがざんねんそうに言います。
「ここのところ、ずっと部屋にこもりっぱなしなんだ。授業もサイディアさんが代わってる。サイディアさんは毎日、村や港町にでかけて、身体に良い薬とか、病気を治すのに役立ちそうな妖精をさがしてまわっているよ」
マルティンが解説をします。
「い、いつから?」
「フラハさんが出て行って、そのあとクローディアが都会に行って、すぐに病気になったんだ」
「わたし、お医者さんをさがしてくるわ!」
フラハはそう言うと、髪を真っ青にそめて、嵐のようにぴゅーっと丘をかけおりて行ってしまいました。
「お医者さんが看ても分からなくて……って、フラハさん!」
マルティンの声はフラハには追いつかなかったようです。
「こわいのだな」
ペーポは走り去るフラハのほうを見て笑いました。
「おねえちゃん、どこに行ったの? ココロ先生のおみまいは?」
トムが首をかしげます。
そうです。この子の言う通りです。フラハはなぜ、お医者さんなんてさがしに行ったのでしょうか。
そんなことはサイディアさんたちがとっくの昔にやっているはずでしょうに。
さて、こまりました。
わたしたちもてっきり、フラハはとびらをぶっとばしてでもココロ先生のベッドへかけよると思ってたので、うっかり追いかけそこねてしまいました。
今からでも、おはなしの主役であるかのじょを追いかけるのがすじというものですが……。
「ひはは……。わがはいも、妖精のはしくれだ。自分の役目はいまいち分かっておらぬが、魔法くらいは使える。わがはいが今から、ココロ先生をちりょうしてやろう!」
こいつをほうっておくわけにはいきませんよね?
「それはたのもしい。ぼくは、フラハさんをよびもどしてくるよ」
マルティンが去ってしまいます。まずいです。
「うーん……」
モモはいつもの思案顔でペーポをじっと見つめます。
「わたしが思うに」
何かに気付いたようです。モモ! こいつは悪魔ですよ!
「ペーポくんは黄色の丘でフラハちゃんを助ける大活躍をして、友達になったにちがいない」
ちがうちがう! あってるけど、そうじゃない! こいつは悪魔です!
「わたしはトムの面倒を見ているので、よろしくお願いします」
モモはぺこりと頭を下げました。
トムもまねして「お願いします」なんて!
「そうだ。わがはいにまかせておくがよいぞ。におってくるのだ。この家のおくから、とってもとーっても、悲しい気持ちがな」
悪魔はそう言って口のまわりをべろりとなめると、のっしのっしと“かぜはなの家”へと入ってしまいました。
初めてきたくせに、真っ直ぐと、病気のココロ先生の部屋へと向かっていきます……。
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☆妖精の世界のひみつ、その三十一☆
「ココロ先生は、お腹を出して寝て風邪をひく以外には、病気をしたことがなかったの……」




