嵐が丘
かなしみにくれるフラハのそばで、「ぼわん!」と小麦粉を散らかしたように、白いけむりが爆発しました。
その中から現れたのは、ぼさぼさの黒髪、黒いチョッキ、白くてぎざぎざの歯。
それから、矢印尻尾と角とコウモリの羽を生やした、悪魔のペーポです。
「フラハよ。わがはいの言ったとおりだったであろう?」
悪魔は、フラハが悲しいのがそんなにうれしいのか、キャンディーをなめるように舌をべろべろとさせています。
「ああ、ペーポ! わたし、また、できもしないのに、いけるなんて言ったわ」
「つまり、おまえはうそをついたのだな? うそつきの、悪い子なのだな?」
悪魔が楽しそうにたずねます。フラハは返事をしませんでした。
「ふーむ、まだみとめないのか。悪い子だとみとめてしまえば、楽になるぞ。本当の気持ちを出して、めんどうな手伝いを全部うっちゃらかして、腹の立つやつをやっつけて、大あばれといこうではないか?」
悪魔の手がフラハの肩をやさしくたたきます。
ですが、フラハは首をふりました。
「ここを、緑でいっぱいのすてきな丘に変えたいの」
「だれのためにだ?」
悪魔は辺りを見回して、にやにやと笑いました。
いつの間にか、フェネックやらラクダやらが集まってきています。
「まだできないの? すてきな木の根のねどこがほしいんだけど」
「がんばりが足りないんじゃないのかい? お腹がぺこぺこでミルクも出ないよ。家族なんだから、助け合って当然だろう?」
「早くしろよ。けものが増えたら、かたっぱしからおれの毒でびりびりにしてやるんだ」
「あんなことを言っておるぞ?」
「みんながいじわるなのには、理由があるの」
「ほう、理由! 理由ねえ! ……そうであろうな。なんにでも、理由というものがあるものだ。おまえがうそをつくのも、みとめないのも、いかっているのも、理由づくしだ」
「ペーポ、あなた、かしこいんでしょう? どうして、わたしが魔法をちゃんと使えないのか、分からない? あなたの辞典に、書いてない?」
フラハはペーポにすがりました。
見物している砂漠の住人たちが「ねえ、あれって悪魔じゃない?」と気付き始めたようです。
「そんなこと、辞典を見るまでもない。おまえの魔法は、うそつきには使いこなせないというだけの話だ」
「できなかったら、うそつきだわ。うそつきになんてなりたくないし、まだわたし、がんばってるもの!」
「がんばるということは、本当はいやだということだ。やめたいということだ」
「だからといって、いやなことをおしつけてたら、あの人たちみたいになっちゃうわ!」
フラハは思わずラクダたちを指差してしまいました。
ラクダたちは「おまえが、がんばると言ったんだろう?」とか「いやなら、最初からやらなかったらよかったのに」とくちぐちに言います。
フラハも、「あなたたちのためなのに!」と言い返してやりました。
すると、「たのんでない!」と言い返されてしまいます。
「げっぷ……、わがはいはそろそろ腹がいっぱいだ。だが、悪魔王さまへのおみやげがまだ、したくできていない」
ペーポはそう言うと、どこからともなく三つまたの槍を取り出しました。
「そんなあぶないもので、どうする気!?」
「ん~? くしざしにでもするか?」
悪魔はべろりと口のまわりをなめると、同じくなめるように砂漠の住人たちを見やりました。
ラクダたちは「こわい!」、「ゆるして!」とさけんで逃げようとしますが、ペーポが「アクマノマホウハホントノマホウ、ホントノマホウハサカサマノマホウ!」と唱えると、ぎゃくに悪魔のほうへと走って、まとめてくしざしにしやすいように整列してしまいました! 前にならえっ!
「やめて! みんなにひどいことしないで!」
フラハは思わず悪魔の前へと飛び出します。
すると、ラクダたちは「お願いだよ。おまえが盾になって、あたしたちを守っとくれ!」、「お願い、助けて! あんたが悪魔を連れてきたんでしょ!」と言いました。
ひどい奴らです。その言葉は、まるで悪魔の槍のように、フラハの背中をさしました。
ところがフラハは、魔法にかけられたかのように固まり、悪魔の前から動こうとはしませんでした。
「おまえは、どうしたいのだ? こいつらをゆるして守りたかったのなら、どうしてわがはいをよんだのだ?」
「わたし、あなたのことなんてよんでない!」
「いいや、よばれた」
「あなたみたいな悪い子は要らない!」
フラハは悪魔をにらみつけます。
ペーポは「あーあ、要らないなんて、傷つくなあ」と、にやけながら言いました。
「いったい、何しに来たの? 手伝ってくれないのなら、帰って!」
「勝手なやつだ。……まあ、わがはいは、おまえとの約束をはたすために来たのだがな」
それから、こう続けます。
「よいか、フラハよ。悪魔の大辞典には、上手に悪さをするためには、相手の心のすきまにつけ入るのがよいとしるされている。心のすきまとは、本当に思っていることと、やっていることがずれているとできるものだ。したくもないことを続けると、そのすきまはどんどん大きくなり、われわれ悪魔は水が流れこむように、その中へとさそわれてしまうのだ」
「わたし、やりたいからやってるの!」
フラハがそう言い張ると、悪魔は「ひはは!」と大笑いです。
「なんで笑うの!?」
「おかしいからである! 楽しいときに笑う。腹が立ったときにおこる。それがふつうだからだ。おまえは、腹が立ってもおこらないし、楽しくなくてもにっこりと笑うし、そうやって自分にうそをつき、みずから進んでうそをつきたがっている。心のすきまというものは、そういうときにできるのだ。つまりは、わがはいはおまえによばれて来たということだ」
「でも! だって! ココロ先生はそうしてきたわ。それで、すごくすてきだったのに。ココロ先生には悪魔は取りついていないわ!」
「おまえはココロ先生ではない。そのココロ先生とやらも、おまえの知らないところでおこったり、ずるをしたりしているにちがいない」
「そんなはずない!」
フラハは言い返しながらも、はっとしました。
一度だけ、クローディアといっしょにぬすみ聞きをおこられたことがあります。
そもそもココロ先生は最初から、ちょこちょこずるをしていますし、眠いときはだいたい居眠りをします。
「……でも、ココロ先生はやさしいもん」
「親切や、やさしさというものは、わがはいは大きらいである。契約とちがって、返してもらえなくても文句が言えないのだからな。うそで笑うくらいなら、口をきかない金の像や、ろう人形のほうがよっぽどかしこいというものだ。あいつらは支払いもしなければ、請求もせんしな。ゆえに、何も支払わぬくせに請求ばかりをするこいつらも、大きらいである!」
悪魔は槍を高くかかげました。
……すると、なまいきそうながきんちょだったペーポのすがたが、見る見るうちにふくれあがり、血のような色の肌をしたむきむきマッチョに変身します。
顔も人間から、としよりヤギのようにどくどくと変じて、角もにょきにょきとのびて真っ黒なヘビがとぐろをまいたようになりました。
「フラハよ、わがはいたちは約束を交わしたな? 友人でもある。おまえが、わがはいの代わりに王の手伝いをしたゆえ、わがはいはおまえの代わりに復讐をしてやろう!」
悪魔の黒い翼がめいっぱいに広げられます。まるで、黒雲で空と太陽をおおいかくすような、大きくてりっぱな翼です。
「お願い! みんなにひどいことをしないで!」
フラハは羽をふるわせてたのみこみます。
いっしゅん、羽が虹色に光りましたが、ペーポはそもそも植物ではありません。
「うそつきの願いの魔法なんて、本気のわがはいに通用するものか! わがはいは悪魔だぞ? 子どもとはいえ、もう何百年も生きて悪さをくり返している。騙し、脅し、煽り、怒らせ、悲しませ、苦しめるのが本分だ!」
「あなたも、本当はやさしいのよ」
「ひははは! わがはいは“悪い気持ち”のためなら善人ぶるのもいとわない。反対に、母親から赤ん坊をぬすみとるくらいに冷徹になることもできるのだ!」
「そんなひどいことを!? うそよ!」
「うそではない! 見るがいい! われらが悪魔族が王、悪魔王さまのお力をお借りした、大魔法を!」
黄色の丘の上で、大きくなった悪魔が槍をぐるぐると回し始めます。
それはまるで、緑の丘で静かにたたずむ風車とは正反対で、どこかそっくりに見えました。
「地に堕ちた太陽よ、この世の全てを闇に呑み込め!
激しく静止する風よ、砂の波をさかしまに巻き上げ飛沫をなせ!
夜の日差しと、朝の月明かりが降りしとき、空と大地を断ちし境界を、
わが真実と虚構をもって再びつなげんとす!」
悪魔のどす黒い大呪文が、風となって黄色の丘を包みこみます。
すると、空のてっぺんでかがやく太陽が夕焼けのようにそまり、空はくすんだむらさき色の雲におおわれてしまいました。
ぴかり。真っ白な光。
ごろり。大岩の転がるような音。
何かをお祝いする拍手のような音が、空から丘から聞こえます。
「嵐だ! 本物の、雨と雷の嵐だ! ぎゃあ! いたいよう!」
いじわるサソリがさけびました。はげしくたたきつける雨は、まるで針でさすかのようにきょうれつです。
「きたないわ! 砂と水がまじりあってしまう! せっかくおしゃれをしたのに! どろどろはいやよ!」
フェネックはすっかりよごれてしまい、ふわふわの毛も寝てしまってみじめです。
「オアシスの水は、いつもはあんなにけちなくせして! 加減ってもんを知らないのかね! がぼがぼ……」
ラクダはあふれかえったオアシスにしずみ、背中のこぶを島のようにしています。
「ひはははは! 文句を言うやつは、こうだ! わがはいの友達をいじめるやつは、こうだ!」
悪魔は大きな槍で、おびえるサソリをつんつんしたり、どろを洗い落とそうとするフェネックの頭に新しくどろをひっかけたりしています。
「もっとだ! もっと雨よふれ! 風よ吹け! 雷鳴よとどろけ! 大水よ、すべてを押し流してしまえ!」
悪魔が大ジャンプをして、空高く飛び上がります。
天高く槍をつき上げると、槍の先に雷が落ちました。すると、どこからともなく茶色のだくりゅうが押し寄せてきました。
黄色の丘を飲みこむほどの、大海ヘビもたじたじになりそうなほどの、大きな大きな波です。
あまりにもすごい流れなので、空と地面の区別もつかなくなりそうです。
フラハがせっかく植えたなえや、魔法で芽を出した種たちも、おそろしい波にのみこまれてしまいました。
そのフラハは、どうなってしまったのでしょうか?
見てください!
フラハはおそろしい悪魔のこわきにかかえられて、空にいます。
いつの間にか、手ぶくろやマフラーも嵐に流されてしまい、大切なふくろも見失ってしまっているようです。
フラハは、魔法の嵐でできた大うずでぐるぐると回る砂漠の仲間たちを、メリーを見つめる赤ん坊のようにふしぎそうに見下ろすばかりで、悪魔の悪行をしかることも、こまりはてた知り合いたちを助けようとすることもしませんでした。
悪魔の大あばれは、三日三晩も続きました。
黄色の丘はもはや、茶色い海になってしまっています。
フラハは、どろ水に見覚えのある鏡がうかんでいるのを見つけました。
クローディアのくれた手鏡です。
幸運なことに、割れずに無事でいたようです。
鏡にうつった小さな妖精の顔は、まるで悪だくみをする悪魔のようで、おこっているようでもあり、笑っているようでもありました。
「ペーポ、もういいわ。ありがとう」
フラハがそう言うと、悪魔は大きな腕をふって槍を海へと投げつけました。
すると、そこを中心としてどんどんと水が引いていき、あっという間に海は消えてしまいました。
悪魔の槍は、フラハのふくろにつきささっています。妖精の作った破れないはずのふくろにです。
あのいくらでも入るふくろが、嵐のすべてをのみこんだのでしょうか?
ペーポはフラハを下ろしてやると、「どんな気持ちだ?」とたずねます。
「はっきり言って、すっきりしちゃったわ」
鏡の中のフラハも、百年のお昼寝から目覚めたかのように気分が良さそうです。
「ひはははは! そうだろう! 仕返しは気持ちが良いだろう! わがはいも、あいつらの悪い気持ちをたっぷりといただけて、ごきげんである!」
悪魔は大笑いです。
「でも、かわいそうだわ」
「まだ言うか? わがはいは、おまえがおこらないからおこってやり、おまえが仕返しをしないからやってやったのだぞ!」
「ありがとう。でもね、本当なんだもの。おこっていたのも、すっきりしたのも、かわいそうなのも、親切にしたかったのも、みんな、みーんな本当なの。そういうことってあるのね!」
フラハは、にっこりと笑いました。
「ほーう、今度は、うそじゃないようだな」
悪魔は元のなまいきそうな男の子にもどり、「ひはは!」と笑います。
「なーにが本当だい!? あんたはうそつきじゃないかい!」
地面から、「もっこりぶりぶりっ!」と小さなふたつの丘……ではなく、ラクダが出てきました。
「すてきの反対よ! 緑の妖精だなんて、わたしたちをだまして! 反省しなさい!」
ぼろぞうきんが文句を言ったかと思えましたが、これはフェネックです。
「なんてひどいやつだ。うそつきで、暴力的で、悪魔の友達で!」
砂の下からの声なので、すがたが見えませんが、まあこれはいじわるサソリでしょう。
連中は、フラハに向かって、「おまえは悪い子だ!」と、声をそろえて言いました。
「そうかも!」
フラハはそう言うも、なんだかおかしくなって、笑ってしまいます。
もちろん、ペーポも大爆笑です。
「何がおかしいんだ。悪いことをしたつぐないとして、一生ここでこきつかってやるぞ!」
サソリが毒針を持ち上げていかくしました。
「おい、どろ遊びは楽しかったか? おまえたちに、よい知らせがあるぞ」
ペーポが地面を指ししめします。
どろまみれの連中が、首をかしげてそれを見てみると……。
なんと! スノードロップの芽が『どっこらしょ』と言って、砂の中からはい出てきました!
「あなた、生きていたのね!」
フラハはうれしくなって、スノードロップへと顔をよせます。
『どーも。あなたたちのおかげで、水っけと土が良くなったわ。どろどろだけど』
「今なら、フラハが願えば、ここを緑の丘に変えてしまうのもたやすいであろう。どうだ? ここをすてきな丘とやらに変えれば、フラハは良い子であるし、おまえたちは感謝をせねばならぬな?」
ペーポが、どろまんじゅうたちにそう言うと、かれらは石像のようにかたまってしまいました。
「ん? どうしたのだ? 丘がすてきな場所になるのだぞ? なのに、ふしぎではないか、何やら“悪い気持ち”……そう! “くやしい”という気持ちが、おまえたちから感じられるな?」
甘いおまんじゅうをほおばったように、ペーポはほっぺたを押さえてごきげんです。
「どうだ? フラハよ。ここを緑の丘に変えてしまえば、おまえは真実の親切者だし、連中はくやしいし、一石二鳥だぞ?」
「でも、わたし、やらないわ。よしとく」
フラハが言いました。
「ほう? それは、いじの悪いことだな! 連中はずーっと、まずしい砂漠ぐらしだ!」
「あの人たちはどうでもいいわ。植物たちをむりやり大人にするのがかわいそうなだけ。ふたばにはふたばの、つぼみにはつぼみの、良いところがあるのよ」
フラハがそう言うと、あちらこちらのどろの中から、つぎつぎと芽やなえが顔を出し始めました。
植物たちはみんな、口々に『おはよう』のあいさつをしています。
「しかし、雨は一度きりだ。こんなところで放っておいたら、かれてしまうのではないか?」
悪魔は首をかしげます。
「だいじょうぶ、いける、いける」
フラハはにっこり笑顔です。
「ねえ、砂漠のみんな。あなたたちで、この植物の子どもたちを育ててあげてくれないかしら?」
フラハが提案すると、もちろん砂漠の連中は「面倒くさい」だの「おまえがやれ」だの言います。
「ねえ、だめ? お願いっ!」
フラハはぎゅっと目をつぶって、両手をにぎりあわせて、それから羽を虹色に光らせてたのみました。
すると、ラクダやフェネックたちもその虹の光に包まれてしまいます。
「おいしい草を食べて、おいしいミルクを出さなきゃねえ。そのためには、ここを緑の草原にしなくっちゃ」
ラクダは急に、口から「ぴゅーっ」とお水をふいて草木にまきはじめました。
背中のこぶが見る見る小さくなって、水が出なくなると、オアシスに行って、がぶがぶと水を飲んで、こぶに水をたくわえます。
「わたし、お花の香水でおしゃれをしてみたかったのよね」
フェネックは舌を使って、ふたばたちのどろを熱心に落とし始めました。
「みんな……ありがとう! すてきよ!」
フラハは幸せな気持ちになりました。いやあ、やっぱり良い人たちだったんですね!
ちなみに、ペーポはまた大爆笑です。
「おれさまも、おれさまなりにお世話をしてやるぜ!」
む、サソリがはさみをちょきちょきしながら、若木へとせまっています!
分からせてやってもむだなやつもいるようです!
「おっと、足がすべったぞ!」
ペーポが笑いすぎてずっこけると、いじわるサソリはぺっちゃんこになってしまいました!
「わ、サソリさん! だいじょうぶ? いける?」
フラハが心配してかけよると、サソリは「ごめんなさい……」と言って気を失いました。
「ま、そういうこともあるわ。しょうがない、しょうがない」
フラハはおねんねしたサソリを寝かしつけるようにたたいてあげました。
「さーて、たっぷりと“悪い気持ち”もいただいたし、わがはいは自分の世界に帰るとするかな」
悪魔が、大きなあくびをしてフラハに背を向けました。
「まって!」
かれの手がフラハの手につかまれました。
「あのね、ありがとう。わたしのために、あばれてくれて、ありがとう!」
「うむ、約束であったからな。当然のことである」
悪魔はそっぽを向いたまま言いました。
「当然だなんて。感謝してもしきれないわ。王さまの手伝いとの交換でも、足りないくらい!」
なんと! フラハは、ペーポに「ぎゅっ!」と抱きついてしまいました!
するとペーポは、感電したいみたいなって、「べ、べべべべべつに契約をはたしただけである! れ、れれれ礼などいらぬ!」と言いました。
「それじゃ、わたしがこまるのよ。ねえ、ペーポ。この前みたいに、うその友達じゃなくて、本当の友達になって!」
ペーポはフラハの腕の中であばれていますが、フラハがあんまり強くつかまえているものですから、のがれられません。
「悪魔なんかと、と、ととと友達になっても、おまえが損をするだけであるぞ? それとも、わがはいといっしょに、もっともっと悪さをしたいのか?」
「悪さなんてしたくないわ。でも、友達になりたいからお願いしてるの。したいからする。したくないからしない。これって変?」
「い、いや、変ではないが。わがはいはおまえと友達になんてなりたくない。ひとりぼっちでも平気であ……」
「ねえ、お願いっ!」
……ぎゅっ!
フラハの羽が虹色に光りました。もちろん、抱きしめられていたペーポもです。あーあ!
「……うむ。わがはいと、フラハは、大親友である。わがはいの辞典にも、そう記しておこう」
ふたりはがっちりと握手をしました。
「わたしの親友なら、わたしのほかの親友や大切な人にも紹介しなくっちゃ! 今から緑の丘に帰るから、いっしょに来て!」
「うむ、よかろう!」
こうして、妖精の子どもと悪魔の子どもは、手をつないで、ちょっとだけ黄色じゃなくなった丘から出ていったのでした。
お空は晴れ。風はそよ風。新しい緑のにおいにさそわれて、雨雲も砂漠まで遠足をしにきたようです。
雲の作った日かげの中でゆれる木の枝にいっぴき、世界一ふしぎできれいな色の大きなアゲハがとまっています。
「あれ? 早く起きすぎたかな? やれやれ、ここじゃ花のみつの大食い大会はできそうもないね」
大きな大きなアゲハチョウが飛び立ち、どこかへと去ってゆきます。
りんぷんのえがいた“きせき”は、まるで虹のようでした。
* * * *
* * * *
☆悪魔の世界のひみつ、その七☆
「わがはいの辞典には、無自覚というものがいちばんおそろしい、と書いてあるな。やれやれである」




