新しい友達?
さあ、いよいよ黄金の国にやってきました。
まずは、国の様子を見てみましょう。
タマネギみたいな頭の宮殿。屋根にお魚のかざりのついたお城。
たてにながーい塔ですとか、十字架をいただいた教会もあります。
わたしたちの見たこともないような星形の建物や、上下がさかさまになったへんてこな建物や、ピラミッドを宙にうかせたようなふしぎな建物まであるようです。
これらの建物はみんな、金ぴかのぎらぎらにぬられています。
黄金の国の王さまが、色んな国や世界のすてきな建物をまねて作らせたのだそうです。
フラハが緑の丘の港町へ来たときは、このいちばん派手な町は通らなかったらしく、今日が初見というわけです。
サイディアさんから事前に町の様子を聞かされていましたが、お城や大きな建物が多いというだけで、ここまでぎらぎらだなんて情報はありませんでした。
観光に行ったことがあるという割に、大事なところがぬけています。
フラハも、あまりのまぶしさに目がくらんでふらふらしそうになっていることでしょう。
……おっと。やらかしてしまいました。
黄金の国があんまりにもぴかぴかのぎらぎらだったもので、かんじんのフラハのことを見失ってしまいました!
港やお城もある大きな町ということもあり、人も動物も妖精もたくさんです。
いくらフラハが暑い国にふさわしくない服装をして、ふしぎな色の髪をした子だからといって、見つけるのは容易ではありません。
このままではおはなしが続けられませんので、みなさんもさがすのを手伝ってください。
あれは金ぴかの飴売りのおじさんでしょう?
あっちは金ぴかのつぼを頭に乗せて水を運ぶ女の子。
これは金の首輪をした足のみじかーいコーギーです。
ここでは、港町よりもたくさんの人がすれちがっている割には、みんな静かにだまっているようです。
お店の人は「いらっしゃいませ」も言いませんし、通行人同士で足をふんだりしても、にらむだけで「ごめんなさい」もありません。
金ぴかにぬられたかべや屋根だけが、ぎらぎらとやかましくしています。
それから、この町にくらす人たちは、だれしもが金ぴかなものを持っているようです。
金のネックレス、金の腕輪、金の服に金歯!
見てください。あのカルヴィーツィエさんと同じ役目のこわい妖精も、金色の髪の毛のかたまりを手ににぎっていますし、羽の色まで金ぴかです!
外から来た観光客は、金ぴかとは限らないようです。
かれらは、最初はものめずらし気に町を見てまわりますが、そのうちに目がつかれて出て行ってしまうか、自分も金ぴかな持ち物を手に入れて満足をするかのどちらかのようです。
くだものの露店で、売り物の金のリンゴをかじっているのは、どこかでみた青虫です。
かれもまた、金ぴかのものを口に入れているうちに、青虫ではなく、金虫になってしまうのでしょうか?
それから、こっちのほうを見ている子どもが、ひとりいますね。
かれは特に金ぴかな持ち物は持っていないようです。
髪は真っ黒でぼさぼさなのに、真新しい黒のチョッキをばっちりと決めて、なまいきそうです。
背丈はフラハと同じくらいですが、男の子ですし、こんな子のことを見ていてもしかたがないでしょう。
「しかたがないとはなんだ、おまえ」
男の子が言いました。かれの見ている先では、通行人がだまって歩いているだけです。
「何がなまいきだ。チョッキをばかにするなよ」
ひとりでぶつくさ言っているわけですね。熱中症で頭がやられてしまっているのでしょうか?
ほかの国から来た子どものようですが、ひとりぼっちですし、迷子なのかもしれません。
かわいそうに……。さびしさのあまり、ひとりごとを言い始めたというわけですね。
「ひとりごとではない! おまえに話しかけてるのだ!」
はて、この男の子はわたしたちのほうを指差しています。
うしろに回ってのぞくと、かれもこちらをふり返ります。
上からのぞけば見上げますし、真下からのぞくと……痛い! ふんづけられました!
「おい、おまえ! いや、おまえたち! おまえたちは、よその世界から、のぞき見をしているな! さては、わがはいの仕事をじゃまする気だろう?」
なんということでしょう!
この男の子は、わたしたちのことが見えているようです!
「当たり前だ。わがはいも、よその世界から来たんだからな。ついでに、おまえたちの世界のことも知ってるぞ。わがはいたちの世界のとなりの世界だ!」
男の子のおでこから、みがいた石のようなものがにょきりと二本生えてきました。
背中にはコウモリの羽、腰からは矢印みたいな尻尾……!
しまった! こいつは、悪魔です!
「いまさら気付いたか。ひはははは! そうだ、わがはいは、悪魔である!」
悪魔という割には、背丈も小さいですし、羽もけちくさいですし、顔立ちもふつうの男の子です。
なんなら、ちょっと可愛いくらいですけど……。
「わがはいをなめているだろう? 確かに、わがはいは悪魔の子どもだ。だが、悪魔王さまより、この世界からたくさんの“悪い気持ち”をすいとって持って帰ってこいという、えらい仕事をたまわっているのだ! ばかにしていると、おまえたちに取りついて、毎日悪い気持ちにしてやるぞ!」
こわい! わたしはごかんべんを! するなら、わたしといっしょにのぞいてるほかの人にしてください!
「ふうん……? おまえもたいがいに、いやなやつだな? ま、いいだろう。わがはいは、えものをさがしにゆく。じゃあな!」
悪魔はそう言うと、角と羽と尻尾を引っこめて男の子にもどり、すれちがう人々の中へと消えていきました……。
あぶないところでした。わたしが機転をきかせて、いやなやつのふりをしなければ、わたしもあなたも悪魔に取りつかれていたことでしょう!
さあ、気を取り直してフラハのことをさがしましょう。ほら、早く行きますよ!
……と、さっそく見つかりました。
「すみません、黄色の丘はどこですか? だれか、黄色の丘の場所をごぞんじありませんか?」
ひとごみの中で、マフラーをした可愛らしい女の子が道をたずねてまわっています。
あっ、だれかがフラハにぶつかりました!
やっぱり、謝りもしないで、すたこら行ってしまいます。
フラハはぶつかられたほうなのに、ちゃんと謝りました。ですが、その「ごめんなさい」も置き去りになってしまっています。
「……ふう。ちょっと休憩しようかしら。だいぶん、暑くなってきちゃったし」
フラハはふくろを地面に置くと、その中から、水筒を取り出し、ふくろに腰かけました。
水筒は、ムギちゃんのとおそろいのものです。
フラハはお水を飲みながら、道ゆくひとびとをぼんやりとながめます。
「こんなに人が歩いているのに、なんてさびしいのかしら」と思いました。
地面は黄色い砂がうっすらと積もっていて、たくさんのくつたちがそれをまき上げています。
フラハは、マフラーを引っ張り上げて、鼻先までおおいました。
「あら?」
何かを見つけたようです。
フラハは目をこらし、耳をすませています。“こまっている人センサー”を使っているようですね。
「迷子にちがいないわ」
親切な妖精は立ち上がり、その迷子のほうへとかけ寄ります。
「あなた、だれかをさがしているの?」
「なんだおまえは?」
げげっ!? 見覚えのある顔です。
「わたしは、妖精のフラハ。あなた、だれかをさがしているの? 迷子? いける?」
「迷子とはなんだ! わがはいは……えーと、考えてなかったな」
……このがきんちょは、さっきの悪魔ですよ!
わたしたちは知っていますが、こわいのでだまっておきましょう。
悪魔は何やら分厚い本を取り出すと、ぺらぺらとページをめくります。
「たしか、この世界では妖精が尊敬されるんだったな……。わがはいは、妖精だ!」
悪魔は胸を張って言いました!
「妖精……?」
フラハは首をかしげます。それから、小さな羽を、「しゅん……」としょんぼりさせました。
「何かまちがったか? しまった! 妖精にはトンボやチョウに似た羽があるのだった! ええと、これはだな……」
悪魔はあわてた様子で手をふります。ざまあみろ、正体がばれてしまえです。
「分かってる」
フラハはおみとおしのようです。
「がしっ!」と、悪魔の両手をつかまえてしまいました。
なんてゆうかんな子なんでしょう! つかまえてぼこぼこにするか、脱毛の妖精にプレゼントするにちがいありません!
「羽が生えてこなくて、なやんでいるのね。だいじょうぶよ。わたしも、この前まで羽の無い妖精だったの。あなたにもきっと、すてきな羽が生えてくるわ!」
……フラハは、にっこりと笑いました。町や着飾った人々よりも、まぶしい笑顔です。
「ほ、ほう。よくぞ見ぬいたな。わがはいはまだ羽が生えていないが、妖精なのだ。おまえも妖精なのか?」
「そうよ。砂の妖精だったの」
「だった? 今はちがうのか?」
「砂の妖精はかんちがいだったらしいの。砂に関係する魔法も使えないし。でも、木やお花の話がときどき聞けるから、それに関係する妖精だと思うわ」
「ふうむ……」
悪魔は分厚い本をぱらぱらとめくりながら考えこみます。
「それは、妖精の教科書ね?」
悪魔はびくりとして本をかくしました。
「こ、これは悪魔の大辞典……ではなく、その、妖精の教科書というやつだな。勝手にのぞくな!」
「だいじょうぶよ。見せたくなければのぞかないわ。マナー違反だもの。でも、ちょっとだけ見えちゃった。小さい字でびっしりと書いてたから読めなかったけど、そんなにたくさん書いてるなんて、あなた、すごくえらいのね!」
「そうだろう。わがはいはえらいのである! 学校では、成績はいちばんだったし、この世界の言葉もぺらぺらなのだ!」
フラハはえらぶる悪魔を見て、くすりと笑いました。
それから、ふくろから白パンと小びんを取り出すと、小びんに入った黄金のようなハチミツをパンにたらして、悪魔に差しだします。
「お腹空いてない? わたしの知り合いが作ったパンとハチミツよ」
悪魔はハチミツパンを受け取ると、上から下からのぞきこみ、周囲の建物と比べて「金ぴかだな」と言いました。
それから、口の中に放りこんでもぐもぐやってから「甘いな!」と笑いました。
「まるで魔法のようでしょう? 幸せでほっぺたが落ちちゃう!」
フラハは食べてもいないのに、ほっぺたを押さえてにこにこです。
「ほっぺたが落ちる魔法!? まさか、わがはいの正体が……!?」
「安心して、今のはたとえよ。ね、お友達になってくれない?」
「と、ととととと友達ぃ!?」
悪魔は白い歯を「いーっ!」と見せると、全身をひきつらせて、矢印尻尾をはみ出させて感電をしたように全身をふるわせました。
「わたし、この国の生まれのはずなんだけど、この町は知らないし、正直に言って、さびしかったの」
「と、友達だなんて! 対価の無い契約みたいなもんだ!」
「よく分からないのだけど、だめってこと?」
フラハはとてもさびしそうな顔をして首をかしげました。
かのじょの潮風色の髪が、ほこりまじりの風色へと変わってしまいます。
「おっ、良い感じのしょんぼりではないか」
悪魔がいじわるな笑いをうかべます。
「ねえ、だめ? お願い!」
フラハは両手を合わせて、背中の羽をふるふるさせながらたのみこみました。
「ふむ、しかたがないな? ま、そこまで言うのなら? わがはいが、と……ととと友達とやらになってやろう!」
「ありがとう!」
フラハはふたたび悪魔の両手をがっしりとつかみました。
むむむ、フラハは悪魔の正体に気が付かないようです。
なんとかして、かのじょにあいつが妖精の子なんかではなく、悪い悪魔だということに気付いてもらわなくては……。
「おい」
げ、こっちを向きました!
「正体をばらそうなんて思うなよ。わがはいは、この妖精を利用して、たーっぷりと悪い気持ちを作り出し、悪魔王さまからおほめの言葉をいただくのだ」
なんてやつでしょう! 友達のふりです!
フラハはとても良い妖精なのです。利用して悪さを働かせようなんて、わたしといっしょにのぞいてる人がゆるしませんよ!
「ばかめ。妖精に良いも悪いもあるか。そもそも、利用も何も、くっついて行くだけでじゅうぶんだ。何せ、妖精は自由気ままだから、無自覚に人を傷付けることも多い。最小のコストで最大の利益を得るのがかしこいやりかただ。わがはいが子どもの悪魔だからといって、みくびらないことだな!」
悪魔は、にこにこしたフラハと手をつなぎながら、わたしたちに言いました。
「あなた、さっきからひとりで何を言っているの? あ、そうだわ。あなたの名前を聞いてなかったわ」
「お、わがはいか? わがはいは“ペーポ”だ!」
「すてきな名前ね。わたしは、妖精のフラハよ。あなたも何かをさがしていたんでしょう? 行きましょう、ペーポ!」
ああ、なんということでしょう。
フラハは悪魔と友達になってしまいました……。
フラハは新しい友達がそんなにうれしいのか、悪魔とつないだ手をぶらぶらとさせています。
ムギちゃんが見たらなんて言うでしょうかねえ。
でも、このごきげんも長くは続かないでしょう。
なぜって? みなさん、おぼえていますか?
フラハはこれから、黄色の丘に行って、ガラガラヘビやサソリに文句を言うわけです。
かのじょの心の底には、いかりの炎がくすぶっているわけですから、そこに悪魔が油でも注いだら、どうなることか……。
とにかく、ふたりのあとを追いかけてみるしかありませんね……。
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☆悪魔の世界のひみつ、その一☆
「悪魔は色んな世界を自由に行き来でき、それぞれの世界を担当する悪魔がいるのだ!」




