さがして、おこって、また……
翌日、クローディアはいつも通りに朝からおてつだいをして、いつも通りに授業を受けていました。
フラハは昨日の結末をまだ聞いていませんでしたが、それは単にふたりきりになれるチャンスが少なかったからかもしれません。
午前中はあっという間に過ぎてしまいました。
眼鏡のサイディアさんが「レンズの仕組み」について熱弁するのが面白くて、みんな授業に夢中でしたから。
さて、めずらしいことがありました。
クローディアは放課後には遊ぶことよりも、まずはココロ先生やサイディアさんにおてつだいが必要かどうかたずねるのですが、それをしないで、リーデルくんとフィーユちゃんが遊びのことで意見を戦わせているところに割って入ったのでした。
「今日も外遊びか劇をするかでもめてるの?」
「いいえ。今日は全員で動物ごっこですの。昨日は全員で鬼ごっこをしましたし、そういう約束ですの。わたくしはブタ。リーデルはイヌですわ。クローディアさんはウマなんてどうでしょう?」
フィーユちゃんはカールした髪をさらりとはらって言いました。
「ウマはちょっと……。髪型を見て言ってない?」
クローディアは苦笑いです。
「まあ、配役はおいて……リーデルがどうしても今日も鬼ごっこをしたいって言って聞いてくれないのですわ」
子ブタちゃんは肩をすくめました。
「リーデルはどうして約束を守らないの?」
クローディアがたずねると、かけっこ少年が腕を組んで、得意気に笑いました。
「よくぞ聞いてくれた! 昨日のは、本当の全員鬼ごっこじゃないからさ。昨日、休んでたベンとアンナが来てるからね!」
“ベン”と“アンナ”は兄と妹のきょうだいで、ベンはリーデルくんと同い年の親友、アンナは小さなトムよりはお姉さんですが、みんなよりはおさない子どもです。
「それを早く言いなさい!」
声をあらげたのはフィーユちゃんです。
「ふたりがそろって来てるなら、鬼ごっこかブタごっこかで争うなんて無意味でしたわ! 今日はふたりが主役に決まってますわ!」
「ぼくも、リーデルにはそう言ったんだけどね」
マルティンが苦笑いをしています。
ベンとアンナは、あまり“かぜはなの家”に来られない子なのです。
ふたりの家には、お母さんがいません。
なので、授業に出れた日も家の用事で遊べないことが多いのです。
もしも、出られても、アンナがまだ小さいので、トムのように眠くなったり、わがままを言って、ベンが連れて帰らないといけないこともめずらしくありません。
だから、みんなは、ふたりが元気に出られる日の遊びの内容は、決まってふたりの意見をそんちょうするようにしていたのでした。
「だったら、聞くまでもない。なんてったって、ベンはおれよりも長く走っていられる男だからな」
リーデルくんはお父さんの口まねで言いました。
でも、一応は聞くのが決まりですから、ふたりのところへとかけていきます。
「ベン、どっちがいい? それか、ほかの遊びがしたい?」
「えっと、ぼくは今日は……」
ベンくんはリーデルくんを見て、ちょっとすまなさそうに笑いました。
「あたし、鬼ごっこの鬼をする!」
大きくて元気な答えが、ふたりの下から飛び出しました。アンナです。
「じゃ、じゃあぼくもそれで」
ベンも同意します。
「よーし! 鬼ごっこに決まり! アンナだけじゃ弱いから、ほかに鬼をやりたいやつはいるかーっ!?」
遊ぶ内容が決まって、みんなは、やいのやいのと相談を始めました。
「今日は、全員集合か……」
フラハの横で、クローディアが満足そうにうなずいています。
今が、昨日のことを聞くチャンスでしょう。
「ココロ先生にあのこと、言えたのね?」
「先生は泣かなかったわ。でも、わたしもさびしいからいつでも帰って来てねって、はっきりと言ってくれたわ」
クローディアがにっこりと笑いました。
「だから、今日は子どもたちのことを、本気で相手にしてあげることにしたの。フラハさんも、付き合ってくれる?」
「もちろん、いけるわ」
フラハも笑って返します。
それからふたりは、みんなといっしょに本気で鬼ごっこをしました。
今日はクローディアの提案した特別ルールで、“チョウチョのねどこ”だけでなく、“フクロウのいびき”の手前にある“ありがとうのさかいめ”や、“かぜはなの家”をはさんで反対側にある“えいえんのスノードロップ”という最近できたお花畑までが、逃げてもいいはんいに決まりました。
フラハは鬼のひとりになりました。ふだんは、逃げるほうばかりやっていたのですが、それはじつはてかげんをしてのことで、黄色の丘で足腰をきたえていたので、リーデルくんよりも早く走る自信がありました。
今日は本気でやるので、大人げないと言われてもしかたないのです。
フラハはばらばらに散った子どもたちを、アンナちゃんやほかの鬼と手分けして、ようしゃなくつかまえていきました。
……が、思ったより、リーデルくんとベンくんがつかまらないのです。
たしかにフラハのほうが足が早くて、ふたりに追い付きそうになるのですが、ふたりは木や岩を上手に回りこんだり、かたほうがつかまりそうになっているときに、もうかたほうがフラハをよんで注意をひいて逃げる助けをしたのです。
さすが、外遊び派を名乗るだけのことはあります。
「こ、こうさんだわ……」
フラハはふらふらになって、落ち葉の中に引っくり返りました!
「フラハちゃん、だいじょうぶ?」
ムギちゃんが水とうのカップに入ったお水を差しだしてくれました。
かのじょもダイエットと称して鬼に立候補しましたが、最初にこうさんしていました。
「年下に負けるとは思わなかった」
クローディアも鬼でしたが、肩で息をしています。
「よーし! これで鬼は全員こうさんしたな?」
リーデルくんが得意気に言います。
「ちょっと待って、リーデルくん」
マルティンが声をあげました。
「アンナちゃんがいないよ」
本当です。最後はリーデルとベンのコンビとフラハの決戦になっていて、みんなは集まって観戦をしていたはずなのですが、アンナちゃんだけが見当たらないのです。
みんなはたがいに「アンナちゃんを見た?」とたずねますが、だれもゆくえを知らないのでした。
「どうしよう、すぐに、さがさなきゃ」
ベンくんはあわてて走り出そうとするも、鬼ごっこのつかれで足がもつれてふらふらです。
……と、かれの頭上をフクロウがばさばさと通りすぎていきました。
「む、フクロウさんがこんな昼間におでかけ? これは……だれかが森の中でうるさくしてるの……かも」
モモが言います。
「アンナちゃんが森に入っちゃったってこと? まずいよ」
だれかが言いました。
みんながざわつき始めます。昼間に子どもだけで“フクロウのいびき”の奥に入るのは禁止されているのです。
森のおくに入ると迷子になりやすいですし、大人たちは「悪魔の世界とつながっている」とか「いやいや、もっとおそろしい別の世界とだ」とか言っておどかします。
本当のところはどうなのかは分かりませんが、とにかく、子どもだけで行ってもいいのは、「村と丘をつなぐ道まで」という約束です。
でも、アンナちゃんは小さいので、約束を分からず、分かっていてもよく破る子でした。
「とりあえず、サイディアさんとココロ先生をよんでくるわね。早め早めに手を打つものよ」
クローディアが“かぜはなの家”のほうを見上げます。
「ま、待ってよ。ベンのお父さんにばれたら、ベンの立場ってものがないよ」
リーデルくんがクローディアの腕をつかみました。
ベンくんも「お願いします」と続きます。
「……やれやれ、最後までお姉さん役ね。ま、鬼ごっこで受けた汚名を返上するにはうってつけかしら?」
クローディアはそう言うと、サイディアさんが生徒の興味を引くときのように、「ぱん!」と手を打ち鳴らしました。
ざわつきがやみ、みんながお姉さん役に注目します。
「みんな、次はかくれんぼよ。わたしたち全員が鬼で、アンナをさがすのよ。鬼は迷子にならないように、必ず二人以上のチームを組んでさがして。大人にはひみつよ。これは、アンナのお兄さんであるベンの名誉のためよ」
さて、みんなは森と原っぱのあいだにあるココロ先生の像――ありがとうのさかいめ――にやってきました。
本当なら、のぞき見をしているわたしたちが口出しをしてでも、大人をよぶように言うべきに思われるかもしれませんが、ここは妖精のくらす世界です。
森のおくが危険だといっても、見上げれば木のすき間から空が見えますし、わたしたちの世界で凶暴とされるオオカミやクマも、この世界では口をきくうえに、カフェでお茶をするくらいですから、人間をまるかじりにしたりなんてしません。
むしろ、子どもたちはかれらに「小さな女の子を見なかったか?」とたずねてまわりました。
「ふむ、人間の女の子か。おい、見たかキツネ」
クマの親分が腕を組みながら言います。
「へ、へえ。見てないでやんす」
キツネはぺこぺこしながら答えます。
「うそをついちゃいないだろうな? おまえはよく物をかくすからな」
「めっそうもありません! わたしらがかくすのは、ほかのやつにくれてやるのがおしい、うまそうなブドウとかでやんす!」
「ブドウねえ……。そういやこの前、果樹園のプリッピーさんが、ブドウの木の枝が折られてたってなげいてらしたな?」
でっかいクマが、「ぎろり」とキツネをにらみました。こわい。
「わ、わたしはただ! ブドウがあんまりにもうまそうだったもんで!」
「やったのかよ……。まあ、あやまっとけよ。子どものほうには、いたずらしてねえだろうな?」
「子どもをかくすのは、けものでなく悪魔や妖精の領分でしょう。おおかた、ほかの妖精の遊びや気まぐれに付き合わされてるんじゃないでしょうかねえ」
キツネはそう言って、とがった鼻先をうす暗い森のおくへと向けました。
捜索隊はどんどんと進んでいきます。
できればアンナちゃんの名前をよびながらさがしたいところでしたが、たたき起こされたヤマネコがするどい爪を立てながら「おれは夜行性なんだが?」と言ったので、なるべく静かに捜索を続けます。
「クローディア、いける?」
フラハはクローディアにたずねます。
かのじょは、最初こそは自信たっぷりに捜索隊を取り仕切っていたのですが、動物たちに首をふられるたびに元気をなくしていっていました。
捜索隊も、最初に比べて人数が減っています。
これは、はぐれて迷子になったということではなく、本気の全員鬼ごっこの後遺症ということです。
つかれた子たちは、森の外側でアンナちゃんが出てくるのを待っています。
「いけるとかいけないじゃないのよ。見つけるの。アンナが見つからなかったら、ベンどころか、“かぜはなの家”の名誉に関わるわ」
クローディアの顔は、こもれびに当たっているというのに青白く見えました。
フラハは、「こんなときに、何か役に立つ魔法が使えたら……」と小さな羽をしょんぼりとさせました。
ですが、しょんぼりとするだけなら、羽がなくとも、妖精でなくともできます。
フラハは、耳をすませ、目をこらし、空気をすいこみ、“こまってる人センサー”をフル稼働させました。
すると、森のずっとおくから……子どもの泣き声が聞こえてきました!
「いたわ! みんな、あっち!」
フラハはかけだします。
枝をつかれた腕のように下げた木をくぐり、根っこを今にも歩き出しそうに持ち上げた木を飛びこえて、こまってる人のもとへとかけつけます。
つかれていたはずのベンくんも、アンナちゃんの名前を大声でよびながらフラハを追いぬきました。
泣いている女の子を発見です!
「え~ん。出口が分からなくなっちまったよう!」
赤いおかっぱ頭で、むらさきの着物を着て、背中から羽を生やした、マイモちゃんです!
みんなはずっこけました。
「まぎらわしいわね……」
フラハはマイモちゃんの頭をなでてやりました。
「しょうがないよ。マイモちゃんは旅の妖精だし、どこでも知ってるかわりに、どこにもくわしくはないよ」
ムギちゃんもマイモちゃんをなでてやりました。
「ねえ、マイモちゃん。女の子を見なかった? アンナっていう小さな子で、昨日の焼きイモにはいなかった子よ」
「見てねえよう……」
さて、アンナちゃんはどこへ消えてしまったのでしょうか。
「おやおや、妖精ともあろうものがふたりもそろって、迷子ひとり見つけられないのですか?」
どこからか声が聞こえてきます。
フラハは少し、むっとしましたが、声の感じが大人の男性で、言葉の内容的にも、たよりになりそうだと感じました。
「ふふふ、このわたし、迷子の妖精こと、“ポテア”が来たからには、もう安心ですよ」
現れたのは、すらりと背が高く、鼻筋が通って、口元のきりりとした大人の男の妖精です。
見た感じ格好のよい、ようするにイケメンというやつですが、なぜか背中に「迷子です」と書かれた“のぼり”をさしています。
「ポテアさん、いそがしいから先に聞くけど、あなた、迷子をさがすのが得意な妖精? それとも、迷子になるのが得意な妖精?」
フラハは、のぼりをにらみつけながら聞きました。
「ふふふ、両方です! わたしの魔法にかかれば、だれしもが迷子になれるのです!」
ポテアは胸を張りました。たぶん、こいつも迷子です。
「ねえ、みんな。いったん帰って、ココロ先生とサイディアさんに事情を話して手伝ってもらわない? 先生たちなら、ベンのお父さんに言わないでくれると思うし」
フラハが提案すると、みんなは次々と賛同しました。
クローディアだけは、何も言いませんでした。
「まあ、お待ちなさい。わたしが迷子を言い当ててみせます。ずばり、フラハさんあなたでしょう? あなたは緑の丘に来たときから迷子で、ずっとずっと迷子のままだ」
「だまってて。アンナは泣いているかもしれないわ。知らないところで独りぼっちになるのがどんなに大変なことか、あなたには分からないのね」
「ぞんじてますとも。フラハさんこそ、迷子の良い点をごぞんじない? おでかけは一番近い道だけを通るタイプですかね?」
「迷子に良いところなんてないわ。大人の見た目をして、そんなりっぱな羽を持ってるくせに!」
「ふふふ、ふふふふ!」
ポテアはずっと笑っています。
フラハは不機嫌でした。ポテアのばっちりと決めたヘアースタイルがよけいに腹立たしく思えます。
そのうえ、ポテアは前髪をさらりとはらって、ウィンクまで決めたので、フラハはぷっつんしてしまいました。
「……カルヴィーツィエ」
フラハは、“ある意味で魔法の言葉”をつぶやきます。
ポテアのじまんの髪をにらみつけながら、“脱毛の妖精の名前”を何度も唱えました。
「ご、ごかんべんを! じょうだんが過ぎました! わたしはもちろん迷子ですが、見つけるのも得意です。現に、あなたたちに一歩おくれたものの、マイモさんのところにはたどりつきましたでしょう? それに! ご安心なさってもけっこう! この森にはほかに迷子はいらっしゃりません! 妖精王の名にかけて、受けおいます!」
ポテアは髪を必死に押さえながら言いました。
「アンナが、自分が迷子になってないと思ってる可能性は、ない?」
モモのするどい指摘です。
「そこもだいじょうぶです。“迷子を見ぬく”のも迷子の妖精の力ですから。感じ取れないということは、アンナさんはもうこの森から出ていかれたか、よその世界に行ったか、それか……死んで妖精にでもなられたのでしょう」
ポテアはそう言って、前髪をさらりとしました。
「アンナ!」「落ちつけ、ベン!」
ベンくんがさけび声をあげて、森のさらにおくへと走りだしました。
それをリーデルくんがうしろからつかまえて取り押さえます。
ほかの子たちも、それを手伝いに行きました……。
けっきょく、フラハたちはアンナを見つけることがかないませんでした。
“かぜはなの家”にもどり、ココロ先生たちに知らせても、見つかりませんでした。
とうとう、ほかの大人たちにも声をかけて、アンナちゃんをさがします。
人だけではありません。空からはフクロウとミミズクの編隊が捜索活動を行いましたし、ヤマネコすらも舌打ちとともに森をかけまわり、クマはキツネをおどかしてひみつの貯蔵庫の場所をすべて吐き出させました。
みんな、おやつも忘れ、喉をからしながらアンナちゃんの名をよび、夕陽がかたむくまでさがしました……。
「アンナが森に入ったというのは、本当ですか?」
ベンとアンナのお父さんが来ました。
「ベンをおこらないでやってよ。あいつは、だれよりもがんばってさがしてたんだよ!」
リーデルくんが声をあげました。
「そんなの当然だ。ベン、アンナのことはたのんでおいたはずだろう?」
「うん……」
ベンはお父さんのきびしい視線から逃げるように、下を向きました。
「とにかく、もっと人手を増やしてさがしましょう。夜になるといっそう寒くなりますから」
サイディアさんが言いました。
「あなたは確か、“かぜはなの家”で教えているかたでしたな」
ベンのお父さんがにらみます。
「そうですね。でも、今はアンナちゃんのことを考えましょう」
「何をえらそうに。きみの監督不行き届きだろうに……おっと! これは失礼。あなたは助手に過ぎないんでしたな?」
ベンのお父さんは、今気づいたというふうにおどろくと、辺りを見回します。
“かぜはなの家”の責任者であるココロ先生は、まだ森の中でした。
「えらそうなのはあなたのほうよ!」
声を張り上げたのはクローディアです。
「いちばん責任があるのは、父親であるあなたでしょ!? それをたなに上げて、ベンや先生たちを責めるなんてどうかしてる!」
「他人が分かったふうな口をきくな。わたしは妻の残したふたりを、独りで育てているんだ。できることなら、ふたりと遊ぶなり、家事を代わるなりしてやりたいんだ! もっと早く教えてくれれば、仕事も切り上げてきたというのに」
クローディアはひるみました。でも、ベンのお父さんをにらむのをやめません。
「あとからなら、なんとでも言えるわ」
「いやな子どもだ」
言い争いを聞いていたフィーユちゃんがしゃくりあげ、捜索に参加していたお母さんにだきつきました……。
フラハは、いつか砂金さがしの男たちが言い争っていたときのことを思い出しました。
でも、あの日のように、こわくなって逃げたりはしませんでした。
こういうときはきっと、ココロ先生が現れて、場をおさめてくれるでしょうから。
なので、フラハは羽をふるわせ、アンナちゃんが無事に出て来てくれることを願いました。
「ただいまっ! あ、お父さん! おかえり!」
なんということでしょう! そのアンナちゃんがひょっこりと現れました!
「ア、アンナ!? どこに行っていたんだい?」
ベンくんとお父さんがかけよります。
あまりにもとつぜんなことで、みんなもおどろきをかくせません。
迷子の妖精すら首をひねっています。
「あのねえ。妖精さんたちと遊んでた! 面白かった!」
アンナちゃんは元気はつらつ。けがも無いようです。
「妖精。また妖精か。妖精はろくなことをしないな……」
ベンのお父さんがため息をつきます。
「アンナちゃん!」
森のほうから声がしました。今度はココロ先生です。
すっかり息が上がっていて、消えかかった夕陽にかのじょの白い息がいっしゅん見えました。
春色の髪にも落ち葉や木の枝が引っ掛かっています。
その上、スノードロップのドレスのすそが、少し破れてしまっていました。
そんなココロ先生に、アンナのお父さんがせまります。
「見つかったから良かったものの! あなたが一番評判の良い先生だから、“かぜはなの家”にふたりをあずけていたのに!」
「ちがう! 悪いのは先生じゃない! わたしが鬼ごっこのはんいを広くしたからよ!」
クローディアがさけびます。
「おれも鬼ごっこで勝ちたいからってベンを引っ張ったから、ベンはアンナから目をはなさなきゃならなかったんだ!」
リーデルくんも言いました。
「ふたりとも、もうやめなさい」
サイディアさんがさえぎります。終わりの夕陽が眼鏡を光らせて、そのおくの表情は分かりません。
「もうしわけありません……。たいへん、ご心配をおかけしました……」
ココロ先生が謝りました。きれいな羽が、ふにゃり……とさがります。
アンナのお父さんは「ふん、謝るならけっこう!」と言うと、アンナを抱き上げました。
「迷子になって、こわかったろう? さあ、帰ってご飯にしよう」
「あたし、別にこわくなかったよ?」
アンナはけらけら笑っています。
「ちょっと! ベンには何も無いわけ? あの子だって、アンナのことを心配してたし、あなたがどんなふうに思うかで心を痛めてたのに!」
クローディアは止まりません。まるでおこったイノシシです。
いつの間にか、ひともんちゃくあったようでサイディアさんが引っくり返っています。
「きみは本当に、おせっかいな人だな。うちのベンを勝手に子どもあつかいしないでくれ。甘やかすのは休日のわたしの役目だ。今のベンは、よき兄で、わたしのパートナーでなければならないんだ。母親と父親の両方がいないからって、ベンよりりっぱなふりをするのはやめたまえ!」
ベンとアンナのお父さんはふり返り、クローディアを真っ直ぐと見て言いました。
クローディアは何も言い返せませんでした……。
ほかの子どもたちはもちろん、捜索に協力してくれた動物や大人も、ココロ先生も、サイディアさんも、何も言いませんでした……。
「あら、ベンがいないわ!?」
声をあげたのはフラハです。
ああ……今度は、ベンくんが行方不明になってしまいました。
暗い森のそばで、フィーユちゃんのすすり泣きだけが聞こえます……。
* * * *
* * * *
☆妖精の世界のひみつ、その二十四☆
「ふふふ、妖精は完ぺきではありません。だからこそ妖精なのです」




