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風吹く、あの緑の丘へ  作者: 鳥遠かめ
3.すてきな思い付き
18/42

妖精たち

 “すてきな思い付き”のためにパンカフェを飛び出したフラハは、風よりも早く丘をかけあがって、“かぜはなの家”に飛びこみました。

 モモとマルティンとクローディアの部屋のとびらを順々にノックしてよび出します。


「どうし……。えーっと、そんなにあわてて、何?」

 クローディアは、顔だけをとびらのすき間から出してたずねます。

 「どうして?」とか「どうしたの?」と言うのもいやになっているようです。


「まだ、きみに(おく)る肖像画はできていないけれど」

 マルティンもろうかを見回したり、フラハの背後を確かめてから出てきました。


「トムがいない……。ココロ先生が、“どうして事件”を解決したにちがいない」

 聡明(そうめい)なモモが言いました。


「正解よ。トムはココロ先生といっしょ。それよりも、すてきな思い付きをしたから、みんなにも協力してほしいの!」

 フラハはこうふん冷めやらぬといった感じで言います。

 それから、マルティンがしたようにろうかをチェックしてから、三人に小声で計画を打ち明けました。

 かのじょの場合はトムに聞かせないためではないようですが、またも、細心の注意をはらってのないしょ話だったために、わたしたちには聞こえてこないようです。


「さすがはフラハさんだわ。わたしも、ふだんのおてつだいだけじゃ、足りないと思ってたのよ」

「その計画に、ぼくもひと口乗ろう」

「良い考え……」


 三人はフラハの考えに同意します。


「きっと、わたしたちのほかにも同じ気持ちのひとたちがいるはずね」

「子どもだけじゃなくって、村の大人にも声をかけよう」

「妖精もかかせないかも。みんな、お祭り好きだから……」

 みんなもわくわくしてきたようで、おのおのの考えを言ったり、その場を行ったり来たりしながらアイディアをひねりだそうとし始めました。


 そして、子どもたちは日が()れてしまう前にと、“かぜはなの家”を飛び出しました。

 四人で手分けをして、みんなに計画を伝えるのです。


 フラハは丘を吹きおろす疾風(はやて)になりながら、ぜひとも力を借りたい人の名前をあげていきます。


「まずは、裁縫店(さいほうてん)のフィーユちゃんとそのご両親、ミシンの妖精の“ネーマシーネ”さん。鍛冶屋(かじや)のリーデルくんのところもに声をかけなくっちゃ」


 フラハのひとりごとだけでは、彼女が何を計画しているのか、いまいち分かりませんね。

 ということで、鍛冶屋の説明でもしてお茶をにごしておきましょう。

 みなさんは、鍛冶屋といえば、熱く焼けた鉄をハンマーで叩いて、(けん)(たて)をあつらえるお仕事を想像するかもしれません。

 ですが、この妖精のいる世界では、戦争はおとぎ話の中だけのことなので、武器(ぶき)を作ることはないのです。

 かれらの仕事は、(なべ)包丁(ほうちょう)などの調理道具ですとか、大工さんのノコギリや(くぎ)など、金属(きんぞく)の道具を作るのが(おも)なのです。

 要するに金物屋(かなものや)さんということなのですが……それも、わたしたちの世界では、あまり見かけなくなってきたので、ピンとこないかもしれませんね。


 おっと、与太話(よたばなし)をしているうちに、フラハは村に到着したようです。


「まあ、それはすてきな考えですわ! ぜひともわたくしたちが腕によりをかけて、一着あつらえさせていただきますわ!」

 裁縫店のフィーユちゃんも大興奮(だいこうふん)して、ハサミをふりまわします。あぶない。

 すてきな衣装(いしょう)のたくさんある店内の奥では、かのじょのご両親もいっしょにハサミをふりまわしています。だから、きけんですって!


 あら、どうやら、わたしたちはまたもフラハの計画を聞き逃してしまったようですね。


「今から楽しみですわ。ですが……きっと、作業に夢中になりすぎて、明日は授業に出られないと思いますから、ココロ先生に心配をかけないように、ちょうどよい言いわけを考えておいてくれませんこと?」


「まかせて。いける、いける」

 フラハは、フィーユちゃんのアリバイ作りを約束しました。


「フラハさん、フラハさん。わたしのことも手伝ってくれませんか? 新しいドレスのデザインを考えたいのだけど、春はもう過ぎてしまったから……。あの人に贈るためのドレスなら、春らしいデザインのほうがすてきだと思うのです」

 ふりまわされるハサミを、ひょいとかわしながらやってきたのは、(きぬ)のような真っ白でながーい髪をした大人のお姉さんです。

 背中には、ココロ先生に負けずおとらずのきれいな羽が生えています。

 かのじょが、ミシンの妖精のネーマシーネさんです。

 ネーマシーネさんはこの近所でゆいいつのお裁縫の役割を持った妖精なので、みんなのお裁縫の先生でもあります。


「わたしが? ネーマシーネさんが作ったほうが上手にできるに決まってます」

 フラハはお裁縫の先生のお願いに首をかしげました。

「わたしではだめなの。わたしはあまりココロ先生のお世話になっていないし、ふだんから、かのじょのドレスを仕立てたり、直したりしてあげているから、感謝の気持ちがひかえめなの」


 そう言って、ネーマシーネさんは静かに笑いました。

 フラハも笑顔を返そうとしましたが、ぎこちなくなってしまいました。

 「どうしよう……」となってしまったようです。

 パンカフェのおてつだいではあんなに積極的(せっきょくてき)だったのに、いざ大役(たいやく)をまかされると、不安におそわれます。


「春が残っている場所をさがすには、季節に敏感(びんかん)な者にたずねるとよいでしょう。果樹園にも行くのなら、プルッパたちに聞いてみてはどうでしょうか?」

「分かりました。がんばってみます……」


 今のネーマシーネさんとのやりとりで、フラハのすてきな思い付きがなんなのか、もうお分かりですね?

 わたしは分かりましたよ。ふふん。



 さて、フラハはすてきな計画を立てて、みんなを巻きこんでいったものの、「上手く行かなかったらどうしよう……」という不安で、ふらふらになり始めてしまいました。


 鍛冶屋の子のリーデルくんにも計画を伝えましたし、鍛冶屋の一家も大賛成(だいさんせい)して、ハンマーやトングをふりまわしましたが、そのもり上がりがよけいに不安にさせたのでした。


 ココロ先生なら、まちがいなくよろこんでくれるでしょうが、もしもそれが、黒パンをちぎって食べたときのような本当の気持ちではなく、お腹いっぱいのときにごちそうをされたときのように、礼儀(れいぎ)や気づかいからくるもの――つまりは、ありがた迷惑(めいわく)のお世辞(せじ)――だったとしたら……。


 フラハは、「もしもそうなったら、このそよ風の吹く緑の丘から、出て行ってしまおう」とまで思いつめてしまったのでした。


 次は果樹園です。計画にはすてきな料理も必要ですから、果樹園で働く人や妖精たちにも協力をあおがなければなりません。

 疾風のようだった足取りは、どろの中を泳ぐように、にぶくなりました。

 実際にカメやウシ、ナメクジが、かのじょを追いこしていきました。

 クローディアたちから聞いたのでしょうか、かれらもすでに“ココロ先生、いつもありがとうパーティー”のことはごぞんじでした。



 さあ、目的地が近付いてまいりました。

 季節は夏。緑の丘のすみにある果樹園では、甘くたわわに実ったくだものたちを重たくぶら下げた木々が、収穫(しゅうかく)の順番を、今か今かと待っています。

 ここでは、わたしたちの世界の果樹園よりも、いっぺんにたくさんの種類のくだものを育てています。

 そして、くだものの妖精たちの力で、いつでも多くのくだものが食べごろなのです。


 フラハは頭の上に夏ミカンが落ちてこないかと気を付けながら、妖精たちをさがします。

 夏ミカンの林を過ぎると、次は“せっかちブドウ”と、“あわてもののナシ”の林です。

 これらは本当は、もっと夏盛りになってから実をつけるのですが、妖精の魔法のおかげで、すでにはちきれんばかりになっています。


 魔法のあとを追えば、必ず妖精に会うことがかなうでしょう。

 四人の妖精が、くだものの木や支柱の刺さった畑を指し示しながら、今月の仕事の成果について語り合っています。


「見なよ、ぼくたちの役目からはずれてるメロンも、もうひび割れているぞ」

「妖精は力を使えば使うほど、魔法がより強力で便利になるものだからな。おれは、レモンも担当できるようになったぞ」

「ぷりぷり……。みんな、羽にも魔法にもみがきがかかってきたわね」

「そろそろ、マンゴーやパパイヤにも手を出してみようかな~」


 赤い服、オレンジの服、ピンクの服、黄色の服を着た妖精たちは満足そうです。

 みんな背の高さは子どもくらいでしたが、羽は大人の妖精くらいに立派です。


「こんにちは、くだものの妖精さんたち」


「むっ、フラハさんじゃないか」

 オレンジの服を着た妖精がふくれっつらをしました。

「おれたちをひとまとめによぶのはよしてくれ。おれたちは、個性を大切にしているんだ」


「ごめんなさい、オレッポさん。今日は、あなたたちに力を貸してほしくて来たの。だから、きげんを悪くしないで」

「オレッポはぼくだよ」

 赤い服を着た妖精が言います。

「失礼しました、プルッポさん」

「プルッポじゃなくてプルッパだし、プルッパはそっちだぜ」

 オレンジの服を着た妖精が、ピンクの服を着た妖精を指差します。

「じゃあ、黄色の服のかたがピネさんね?」

「ぷりぷり……ピネはそっち。かのじょはプリッピーよ」


 おや? ちょっとへんな気もしますが、ピンクの服を着た妖精が、赤い服を着た妖精を指差しました。


「それで、お願いって何かなー?」

 たずねたのは黄色い服の妖精です。


「あら? あなたがピネちゃんよね?」

 フラハはこんがらがってきました。


「そうだよ」

 ピネちゃんは、けたけたと笑います。

 かのじょはパイナップルの妖精で、黄色い服に、緑の髪をしていて、しかもくせっ毛の髪を頭のてっぺんでしばっているので、とても分かりやすいのです。


 フラハは、ややこしいほかの三人のことは置いて、“ココロ先生、いつもありがとうパーティー”の計画を伝えました。


「最高じゃん。お菓子やジュースの材料は、あたいらにまかせてよ。ダンスパーティーも欠かせないから、デンシにも声をかけなきゃな」

 ピネちゃんは身体で“最高”を表現するのが好きなので、返事とともにダンスをしました。

 かのじょにつられて、パイナップル畑のしげみもおどります。


「わたしたちは、もう知ってたけどね」

 ピンクの服の妖精が、ぷりぷり笑いながら言います。


 フラハはふしぎに思いました。先ほどのウシやカメもそうですが、みんながすでに計画を知っているのです。

 ほかの子たちも教えて回っているにしたって、ここは丘のはしっこですし、フラハは相当に急いでここまで来たはずなのですが……。


「いいか。ヒメリンゴのような鼻をしたのがおれで、オレンジのぶつぶつのようなそばかすがあるのがプリッピーで、太っておしりの大きいのがプルッパだ」

 ええと……赤い服を着たオレッポ? が言います。

「赤い服がピネで、黄色い服がモモの妖精で、ピンクの服はヒメリンゴの鼻をしてるのさ」

 おやおや、ちがいます。かれが言っていることはめちゃめちゃです。

「ぷりぷり……わたしがピネだよ」

 ピネを名乗ったピンクの服の妖精は、鼻は赤くありませんし、太っています。


「ピネはあたいだっての」

 またピネです。


 フラハはわけが分からなくなって、頭がぷりぷり……ではなく、ふらふらしてきました。


「こいつらの言うことは気にしなくていいよ。冬に夏ミカンを実らせたり、真冬にリンゴを赤くそめる魔法のために、でたらめになる練習をしているのさ」

 パイナップル頭の妖精がおどりながら言いました。

「あたいの担当予定のくだものは、全部が暖かい国で生まれたものだから、役割や魔法を増やすために、でたらめにならなくてもいいってわけ」


「魔法を使うためには、でたらめにならなきゃいけないの?」

 フラハはびっくりしてしまいます。自分が魔法を使えないのは、まじめだったせいかもしれません。


「そういうわけじゃないよ。単に、その役割や魔法に合った、やりかたがあるってだけ。“妖精の教科書”にも書いてあるじゃ~ん?」

 ピネちゃんはダンスをしながら返事をします。

「妖精の教科書なんて、持ってないわ……」

 またびっくり、がくせんとしました。

 そんな大切な物を持っていないのでは、妖精として半人前なのはあたりまえです。


「教科書、貸したげよっか?」

 ピネちゃんは頭のしげみから分厚い本を取り出しました。


「えっと、えっと……」

 フラハはどうすればいいか分からなくなりました。

 今は大事な計画を進めている最中ですから、自分のことはあと回しにすべきか。

 でも、魔法や羽についてのことも分かるかもしれませんし、半人前のままでは計画に差し支える可能性もあります。


 ココロ先生に感謝を伝えるためのパーティーと、いちばん大切な贈り物の新しいドレス。

 すてきな思い付きまでも、(みずか)らを押しつぶし始めました。


 フラハの手は宙を泳ぐように、出たり引っこんだりしました。


うわさの(・・・・)妖精は中途半端(ちゅうとはんぱ)な奴だな」

 オレンジの服の妖精がいじわるく笑います。


「うわさの妖精って、なんなの?」

 フラハは、むっとして言い返しました。


「“うわさ()の妖精”が、うわさをしてたぜ。妖精のくせに、羽も魔法も無いやつが緑の丘にやってきたって!」


「……どうして、そんなひどいことを!」

 フラハはとても傷つきました。

 とても気にしていることなのです。できればひみつにしておきたいことなのです。


「ひどいかもしれないけど、それが、あの妖精の役目だからね~。あたいも、最近は頭が常夏(とこなつ)になって、頭からバナナやパイナップルが生えてきた、なんてへんてこなうわさを流されちゃったし!」

 ピネちゃんは気にしていないのか、楽しそうにおどりを続けながら言いました。


「うわさ話の妖精は、どこにいるの?」

「さっきまでここにいたけど、次はパンカフェに寄ってから、“かぜはなの家”を通って、緑の丘からよそに行くって言ってたよ」


 フラハは身体中が冷たくなるのを感じました。

 うわさ話の妖精が、ココロ先生に会ってしまうかもしれません。

 ココロ先生をおどろかせて、よりよろんでもらうためには、先生にはひみつで計画を進めたかったのに……。


「追いかけなきゃ」

「無理無理。うわさ話の妖精は、神出鬼没(しんしゅつきぼつ)で、ひと(ばん)で丘を八つも越えるくらい足が速いからね」


 もう、計画はめちゃめちゃです。

 でも、自分で考えて言い出したことですし、いまさらなかったことになんかできません。


「で、教科書はいいの?」

「いらない!」



 フラハの手が、ピネちゃんの持った教科書を叩きました。

 教科書は、地面に落ちてしまいました……。



「……」

 ピネちゃんは、おどりをやめて、フラハのことを、じっと見つめます。


 それから、まじめな顔で言いました。


「あんたみたいに変なやつ、見たことないよ」

「わたし、変じゃない! 羽や魔法が無くても、変じゃない!」


「ちがうって。そんなふうにおこりながら、だれかのありがとうパーティーをしよう、って考えてる子を見たのは初めてだって話さ」

 ピネちゃんはそう言うと、ふたたびおどり始めました。


「変なやつ!」

「おれたちよりも、でたらめだ!」

「ぷりぷり……計画は失敗まちがいなし!」


 ほかの妖精たちが口々にばかにします。

 フラハは言い返せませんでした。


「だれかに幸せになってほしければ、自分も幸せになるのをわすれちゃだめ。教科書の第七ページに書いてあるじゃんか」


 教科書をひろって、ピネちゃんに言われたページを開いてみます。

 確かに書いてあります。でも、なんだかへたくそな字です。


「これ、だれが書いたの?」

「だれがって、あたいだけど」

「あなたが!?」


 これまた、びっくり仰天(ぎょうてん)です。

 教科書は学者や専門家(せんもんか)が書くものでしょう?


「妖精の教科書は、自分で書くものなんだよ。あたいのは面倒くさくて、ほとんど真っ白だけど」

 言われてみれば……あとのページは真っ白です。


「羽や魔法がほしければ、どうやったらいいの? わたし、今、すっごくでたらめなことをしているはずだわ」

 でも、フラハの背中には、羽は生えてきません。


「それは、あいつらが、でたらめなことを楽しいと思ってるからじゃん? 妖精が妖精らしくなるには、自分で自分らしいと思うことを、すなおに楽しめなきゃだめなのさ」


「うわさのへんてこ妖精は、おこるのが楽しいの?」

 赤いやつが、またいじわるです。フラハは首をふります。

「じゃ、まじめくさるのが楽しいんだな」

 オレンジのやつが笑います。これにも首をふります。

「ぷりぷり! 計画のことをほっぽりだしてるのに、まじめも何もないわね」

 ピンクのやつです。


 フラハはとうとうだまりこんでしまいました。


 何もかもほうりだして、黄色の丘でくらしていたころにもどってしまえばいいと思いました。

 緑の丘に来てから、すてきで幸せなことをたくさん知りましたが、今ほどみじめな気持ちになったことは、生まれてこのかた初めてでしたから。

 黄色の丘でいじわるをされたときよりも、迷子になって港で泣いていたときよりも、です。


「どうしたらいいの?」

「第一ページ! “こんがらがったら、とりあえずおどれ”。これはあたいのだけじゃなくって、こいつらの教科書にも書いてあるよ。ダンスの妖精のデンシさんの金言(きんげん)を写させてもらったのさ!」


 気がつけば、ピネちゃんだけでなく、ほかの妖精までおどり始めています。

 フラハも、もしかしたらと思い、腰をひねったり、腕をふったりしてがんばってみましたが……とうとう楽しい気持ちになることはありませんでした。


 それから、「自分で言ったのだから、やりとげないと……」とつぶやくと、おどる妖精たちをほうって、とぼとぼと果樹園をあとにしたのでした。



*  *  *  *


  *  *  *  *

☆妖精の世界のひみつ、その十八☆


「自分はつねに自分の専門家であれ。これは大昔にいた“学者の大妖精”が考えた言葉さ」

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