悪魔じゃないよ!
さあ、みんなそろってココロ先生のついせきです。
マルティンはココロ先生がうらから出て、野菜畑を通って丘のふもとへ向かったことまでは確認をしていました。
ココロ先生が出かけてから少し時間が経っていましたが、先生はなぜか一歩一歩ふみしめるように、ゆっくりと歩いていたらしいので、追い付けるかもしれません。
問題は、その方角にはココロ先生が行きそうな場所が山ほどあることです。
緑の丘のふもとには、おおぜいの人がくらす村があります。
“かぜはなの家”に通う子どもたちの半分くらいの家もここにあります。
そのずっと向こうには、ココロ先生がいつも買い出しに使っている港がありますし、港のある町には数えきれないほどの家やお店があります。
村と丘のあいだには、ムギちゃんの住まいでもある、バケリおばさんのパンカフェだってあるのです。
「ほかには、何があったかしら?」
フィーユちゃんが首をかしげます。
「全部当たると夜になってしまうから、重要なところだけ当たるようにしよう」
マルティンが言います。
「重要な場所って?」
フラハがたずねると、マルティンは「例えば、地図にのるようなところじゃないかな」と答えました。
フラハは、少しだけ迷いましたが、“ないしょの地図”をみんなに見せることにしました。
ココロ先生の持ち物だった地図に記されているのなら、ココロ先生が用事で立ち寄る可能性は高いはずです。
「すごいよ。これは重要な証拠かもしれない。ココロ先生はこのあたりにずっと住んでるのに、わざわざ地図を用意するなんて、あやしいといえるよ」
マルティンはスケッチブックを見るときと同じ目で、地図をにらみつけました。
「だから言ったもんね、ココロ先生は、スパイの妖精なんだもんね!」
ミミクも鼻息をあらくしながらのぞきこみます。
「でも、この地図、セイロンさんのお茶畑やお茶工場をかき忘れているの」
フラハはそれでずいぶんと苦労をさせられたことを思い出しました。やれやれですね。
「先生にとって、セイロンさんは重要じゃないのかもしれない。失礼、スパイにとって、取るに足らないって意味だよ」
マルティンは透明の眼鏡を、くいっと直します。
「マルティンさんはココロ先生をうたがっていらして? この地図に、わたくしのパパとママの裁縫店が記されていない時点で、この地図がスパイの役に立たないのは明白ですわ! なんっていったって、ココロ先生のすてきなドレスは、わたくしのところで作られたものなんですし、うちの台帳にはみんなの身長体重にスリーサイズものっているのですから!」
フィーユちゃんは得意気です。
「あたしのうちにスパイが来ませんように……。お母さんが、パンにくしゃみをいれたことがばれませんように……」
ムギちゃんは何かお祈りをしています。
「ねえ、これは何? お茶畑のある辺りに、何か書いてあるんだけど。これが、セイロンさんのところのマークじゃないの?」
クローディアが地図を指し示します。山や川、道を表す線とは別に、「黒くて太く短い線」がちょろっと書かれています。
「書き損じに思えるけど。うっかり、ペンや鉛筆が当たると、こんなふうになるよ。モモは、この線が何に見える?」
マルティンは、思慮深いモモに地図をバトンタッチしました。
「む、これは……! 見たことがある!」
モモは地図を見て、目を「かっ!」と見開きました!
ひょっとしたら、おそろしいスパイの暗号なのかもしれません。
みんなはその地図が毒ヘビか何かかのように、あとずさりました。
「サ、サイディアさんの……」
「サイディアさんの?」
みんなはモモの言葉をオウム返しします。
サイディアさんは、ココロ先生の助手です。もしかしたら、かれもまた……。
「腋に生えている毛にそっくり! ぐにゃぐにゃで短い毛みたいなマークだ」
みんなはずっこけました。
「ばかみたい。セイロンさんと腋の毛に関係は無いわ。マルティンの言う通り、書き損じね」
「でも、クローディアさん。セイロンさんは大人の妖精ですわ。きっと、腋に毛が生えてますわ」
「だからといって、地図のマークに腋毛を使ったら、地図中が毛印だらけになっちゃうでしょ」
「それもそうですわね……。それにしたって、どうして大人は毛を腋になんて生やすのかしら? 見えないところに生えても、髪のように結んだりできるわけでもなし」
「ファギオさんは、髭をリボンで結んで、ほうきみたいにすることもあるのよ」
「じゃあ、腋にもリボンを? うちは、腋用のリボンなんて作ってませんわよ?」
クローディアとフィーユちゃんは首をかしげます。
「ぼく、知ってるもんね!」
ミミクが声をあげます。みんなはちょっといやそうな顔をしましたが、フラハが「教えて」とうながしました。
「ココロ先生はねえ、腋の毛がうらやましいから、マークをかいたんだもんね!」
「それは、ちがうよ」
モモが言いました。
「なんでちがうの? パパが、女の人には腋の毛が無いって言ってたもんね!」
「たぶん、うそかも」
「パパはうそつきじゃないもんね!」
ミミクは顔を真っ赤にして反論します。
「残念だけど、あたしのお母さんには生えてる……。もじゃもじゃだよ」
ムギちゃんが言うと、ミミクの顔が今度は青くなります。
「も、もじゃもじゃ!? うそだもんね!」
「にわかに信じたくない話だ。つまりはその……」
マルティンは何かを言いかけましたが、首をふって打ち消しました。
「わたしが思うに……ついたほうが良いうそもある、ってことかも。それか、うそのほうが良いこともあるってことかも」
モモは腕を組んで目をつぶり、首をかしげる考えごとのポーズです。
むずかしいことを言ったせいか、かのじょの頭はどんどんとかたむいて、バランスをくずして転びそうになりました。
「うそつきのほうが良いってこともあるの?」
ミミクがたずねます。
「うそつきが良いかどうかはともかく、うそのほうが、実際よりも良く言ってる場合はよくありますわね。みえっぱりは、はずかしいことですけど!」
「ばかみたい。正直がいちばんよ」
「うそをつくと、大きな声でおこられるよ……」
何人かが否定的な意見を言うと、ミミクはまた真っ赤です。
好きに色を変えられる魔法があるとしたら、鳥や花もうらやむでしょうね。
「あのね」
声をあげたのはフラハです。
「ココロ先生がスパイの妖精なんて、うそのほうが安心するし、うれしいわ」
フラハは胸がどきどきしていました。
みんなとちがうことを言うのが、ちょっとこわかったのです。
でも、ココロ先生のことを信じていましたし、どうしても言っておきたかったのでした。
「あ、あたしもそうだよ! だって、こわいもん……」
ムギちゃんがフラハの手を取ってぶんぶんふります。
「わたしも、そうかも」
「わたくしも、スパイよりは名女優のほうがありえると思いますわ」
「絵だって、うそをついて本物よりきれいにかく技術があるよ。きれいなココロ先生には無意味だけど」
みんなが次々と同意しはじめました。
「ぼ、ぼくも、うそのほうがいいもんね」
ミミクも小さな声で言いました。
「ばっかみたい。あんたが言いだしたことでしょ」
クローディアに指摘をされると、ミミクは首をすくめて身体も小さくしました。
「でも、わたしもあんたが言ったことがうそのほうが、いい。こわい話やよくない話なんて、全部うそでいいのよ」
クローディアはそう言うと、おこったように地面をずんずんふみしめて歩き始めました。
考えてばかりいても、仕方がありません。
探偵は推理も大事ですが、情報無くしては推理もできません。
聞きこみ調査には、人が多いほうが有利です。
情報の集まる場所を調べるのが効率的でしょう。
みんなはたがいに意見を出し合って、バケリおばさんのパンカフェで聞きこみをしたあとに、ふもとの村で手分けしてココロ先生のゆくえを調べることにしました。
みんなは張り切って調査を開始しましたが……パンカフェでは耳寄りな情報は得られませんでした。(その代わり、イーストさんにふるまってもらった菓子パンで胃袋をぱんぱんにしました!)
気を取り直して、聞きこみをしながら村へと向かいます。
「ココロ先生? 見かけてないね。あの親切なかたを見かけたら、肩にとまっておはなししているはずだもん」
おしゃべり文鳥が言いました。
「おいらはおどるのに夢中で分からないよ。みんなもおどってく?」
こちらはダンスの妖精のデンシさん。今日もオウムみたいな衣装が決まっています。
「ようやく、ミルクが止まりましてねえ。でも、ミルクの湖ができたから、地図に書き足しておいてもらわないといけませんねえ」
ウシさんです。
『先生はここを通ったけど、その先は知らないわ。わたしたちも、遠くへ歩いていけるようになりたいわ』
フラハにそう教えたのは野バラです。
野バラがついでに種運びのお願いをしたので、フラハはバラの種をもらって、遠くへ植えることを引き受けました。
ろくな情報が得られないまま村に到着しそうですが、探偵団はあきらめません。
大好きなココロ先生の無実を証明しなくてはなりませんから!
ところが……。
「やめてくれ~。やめてくれ~」
男の人の声がします。
フラハの“こまってる人センサー”が反応しました。
みんなにも聞こえているようです。
「助けてくれえ~。かんべんしてくれえ~」
とてもこまっていそうな声ですね。
ですが、親切なフラハどころか、ほかの誰もが助けに入るのをちゅうちょしたのです。
なぜなら、道端でおこなわれていたことが、あまりにもおそろしいことだったからです……。
「二十四本、二十五本……」
いかめしい声が数を数えています。助けを求めるのとは別の声です。
道のはしに、ふたりの男の人がいます。片方は妖精のようです。
背中に大きくて立派な羽が生えています。ココロ先生のよりもでかい羽です。
その妖精は、大男で、頭は砂漠の太陽くらいにぴかぴかで、身体は岩石みたいにがんじょうそうで、顔は気むずかしくて、おこってるように見えます。
そして、これまた丸太のようなたくましい腕で、しゃがみこんで頭を押さえている男の人から、髪の毛をむしり取っているのです!
「あの妖精は、何?」
フラハは膝が、がくがくとふるえました。
「知らないの!? あれは、脱毛の妖精の“カルヴィーツィエ”さんだよ。こ、こわい……!」
ムギちゃんは腰を抜かしてしまい、フラハのうしろにかくれそこないました。
「あ、あの妖精は、人の頭から毛を抜くのが役目なんだよ」
「パ、パパパパパ、パパが言ってましたわ、悪魔のほうがましだって!」
「ぼ、ぼくのこれは髪の毛じゃなくてかつらだもんね! だから、こっちに来ないで!」
みんなもふるえています。
フラハは悲しくなりました。妖精は、みんなのために役目をこなすはずなのに、あれはひいき目に見てもいじめか拷問です。
あんなのが妖精だなんてありえません。ココロ先生がスパイなくらいに、うそっぱちなことです!
フラハはふるえる足をしかりつけて、カルヴィーツィエさんと男の人のもとへと行きました。
そうして……言ってやりました!
「どうして、そんなひどいことをするの!? 本当はあなた、悪魔ね!?」
「……妖精の子か。われは脱毛の妖精だ。ゆえに、毛を抜いておる」
「いやがっているわ」
会話をしている最中も、カルヴィーツィエさんは毛をむしっています。
「われはこの所業のためによく、悪魔とよばれる。だが、この抜いた毛には重要な役割があるのだ」
悪魔みたいな妖精が広げてみせた手のひらには、髪の毛がいっぱい乗っています。
「髪の毛をどうするの?」
「赤ちゃんを知っているか?」
「知ってるわ」
悪魔妖精の問いかけに、フラハはうなずきます。
赤ちゃんは子どもよりも小さくて可愛いもので、みんなで守ってやらなくてはいけない、とても弱くて大切な存在です。
口うるさい長老ガラガラヘビすらも、ひ孫の赤ちゃんヘビが来ると、とてもやさしくなるのです。
「人間の赤ちゃんは、生まれたときには毛が少ない。それをふさふさにしてやるために、大人から毛をむしって、赤ちゃんに植えてあげるのだ。ゆえに、この男には悪いが、毛を拝借しているのである。毛はめぐる。毛も望んでおる。われには毛の声が聞こえるのだ」
「知らなかった……。大切な、大切な役目だわ」
フラハは感動しました。
それから、男の人の肩に手を置いて「しょうがないの」と言いました。
男の人は「そんな……」と絶望をしましたが、フラハは元気づけてやるために、ココロ先生ゆずりのにっこり笑顔を見せて、「だいじょうぶ、はえる、はえる」とはげましました。
「でも、あなたの顔はこわいから、もうちょっとやさしそうに抜いたほうがいいと思う」
フラハは提案をします。
「われは笑うのは苦手だが、やってみよう」
そういうと、脱毛の妖精は口の両はしを耳まで釣り上げて、「ぐわはははは!」と笑いました。
こわい。悪魔です。今夜からは頭もかくして寝たほうが安心かも知れません。
「やっぱり、静かにやったほうがいいかも。こわがらせないように、見てないときにこっそりと」
「名案である。寝ているあいだか、風呂で頭をあらって目をつぶっているすきなどに抜くことにする」
いかめしい顔がうなずきます。
「よかったわ」
「われも、役目の改善ができてうれしくおもう。小さき妖精よ、感謝する」
妖精のふたりは、がっちりと握手を交わしました。
「そうだわ。あなたを手伝った代わりに、わたしたちのことも助けてほしいの」
「なんでも申すがよい。毛を抜くことにかけては世界一だ」
「抜くわけじゃないんだけど……」
フラハは“ないしょの地図”を引っぱり出して見せました。
「このマークはどういう意味? 腋の毛に似ているらしいのだけれど」
「うーむ?」
大きな妖精が、フラハの持った地図をのぞきこみます。
「わしの思うに、これは腋の毛ではない。……もんで乾燥させた茶葉か、ひじきに見える」
フラハは「あっ」となりました。
「茶葉だわ! だってこの辺りには、セイロンさんのお茶工場があるもの」
「ははあ、セイロンか。セイロンに用事か? 紅茶に毛でも入っていて、苦情を言うとか? そういえば、あいつも毛を余らせていたな……」
「わたしたちは今、ココロ先生を探しているの」
「ははあ、ココロ先生。あの、とても抜く気になれない、美しい髪をした妖精」
「それから、とってもやさしい人なのよ」
「ぞんじておる。われは、大昔からこの近辺でむしっておるので、かのじょが子どもだったころから知っておる」
「先生にも、子どものころがあったのね……」
フラハは、ココロ先生が子どもだったころは、どんなだったのだろうと思いをはせました。
きっと、とてもやさしい子どもだったにちがいありません。
「あの子はおまえに少し似ていた。かがやきかたはちがうが、同じように美しい髪で、さっきの笑顔も、そっくりだった。もう少し眠そうなら、うりふたつだ。さては、おまえはココロ先生の子どもか?」
カルヴィーツィエはにっこりと笑いました。
さっきみたいなおそろしさのない、本物の笑顔に見えます。
でも、フラハは反対に、めいっぱい、これまでで一番悲しいという顔をしました。
「もしそうだったら、最高にすてきだと思うのだけど……」
「ちがうのか。そんな顔をするな。大人はいいが、子どもがそんな顔だと、われもつらい。ココロ先生の居場所を教えるから、笑ってほしい」
「知ってるの!?」
フラハが笑顔にもどってたずねると、脱毛の妖精カルヴィーツィエは、ミミクのほうを見ました。
「なんでこっちを見るの!? 悪魔はあっちいけ!」
ミミクは腰を抜かして、近くにいたクローディアの足につかまりました。
クローディアはミミクの手を引っぱって立たせてやろうとしますが、ポニーテイルを押さえるために片手でやったために、かのじょも足をすべらせてしまいました。
「われは悪魔ではない」
「じゃあ、どうしてぼくを見るんだ! 知ってるよ! おまえは、ぼくを悪魔の仲間にしようとしてるんだもんね!」
「悪魔は、生まれながらにして悪魔だ。それに、悪魔はふつうのうそつきのところには、来ない」
カルヴィーツィエはずんずんとミミクのそばまで歩くと、かれの髪の毛をさわって確かめました。
ミミクはもう、目にたっぷりと涙をためています。みんなはクモの子を散らすように逃げてしまい、残ったのはクローディアだけです。
「悪魔は、うそをつきたがっている者か、心の中でうそをつく者のところにやってくる」
カルヴィーツィエは、ミミクの両肩をつかんで立たせ、クローディアの手をそっと取って、かのじょも立たせました。
「ココロ先生は、ミミクのご両親のところにいらっしゃるのだ。われの役目と入れちがいになったゆえに、確実だ。では、もっと髪を集めねばならぬので、立ち去るとしよう」
そう言うと、大きな妖精は、のっしのっしとお茶畑の方角へと向かって歩き始めました。
それから立ち止まって、フラハのほうをふり向くと「悪魔には気を付けられよ、ふしぎな髪をした、小さき妖精よ」と言いました。
「もう探偵ごっこなんていやだ! パパ! ママ!」
ミミクがさけびました。それから、村の自分のおうち目がけて一目散にかけ出します。
あの悪魔……失礼、カルヴィーツィエさんがおそろしすぎたからですね。わたしも帰りたい。
もちろん、みんなもミミクに続いて、息を切らせて走ります。
フィーユちゃんのパパとママの居る裁縫店も、ミミクと同じ村にありますし、“かぜはなの家”のお母さん役のココロ先生も、ミミクの家にいますからね。
フラハだけは「やれやれ、だわ」なんて言って、ムギちゃんの手を取ってやって、マラソンに参加しましたけど。
さて、探偵ごっこのおしまいが近付いてまいりました。
ミミクのおうちの前には、ミミクのパパとママと、ココロ先生がいます。
「ミルクティー、ごちそうさまでした」
にこにこ笑顔の前で、ちょこんと両手を合わせるココロ先生。
「いえいえ、先生にはいつもごめいわくばかりをかけて……」
「大したお構いもできず……」
ミミクのパパとママはぺこぺこ頭を下げています。
「パパ、ママ!」
そこへミミクが飛び込んできます。
「ぼく、見たんだもんね! 悪魔が、知らない男の人の髪の毛をたくさんむしってたんだ! それに、ぼくの髪の毛もつかんだ!」
ミミクは、まくしたてるようにさっきのできごとを話します。
パパとママの腕を交互にゆさぶって、それから「こわかったんだよ!」と大きな声で泣き始めました。
「またこの子は! ココロ先生、言いましたでしょう? ミミクは、うちでもずっとうそばかりついているんですよ!」
ミミクのママは、ミミクの腕をはらいます。
「今に、悪魔になってしまうぞ!」
パパのほうは、ミミクがつかまれないように、腕を頭まで持ち上げてしまいました。
それから、ちょっと自分の頭をさわったようです。
「うそじゃないよ! ぼく、うそつきじゃない! みんなも、見たもんね!?」
ミミクがたずねると、みんなはうなずきます。
「ほかのお子さんまでまきこんで! ココロ先生、本当に申しわけありません!」
ミミクママは平謝りです。
「ミミクくんは、子どもたちの中で、いちばんおはなしづくりが得意なんですよ~」
ココロ先生はにこにこして言いました。
「おはなしって……。うそはうそでしょう。それに悪質ですし、人のまねばかりしたがるんです。先生は、ちょいと甘すぎかもしれませんな」
ミミクパパは「おほん」とせき払いをして言います。
「あらあ……」
ココロ先生はほおに手を当てて、こまり顔になりました。
「ミミクくんは本当のことも言ってるのに……」
「何が本当ですか!? 先生まで、子どもたちの作り話に付き合って!」
ママがきんきん声で文句を言います。
「うそつきでもいいから、聞いて! ぼく、こわかったんだよ!」
ミミクはもう一度、大きな声で言いました。
「おはなし、聞いてあげてくださいね~」
ココロ先生はそう言うと、ずっとうずうずしているモモとマルティンのほうに向いて、両手を広げてみせました。
「こわかった……」「ぼくもこわかった」
モモとマルティンは、ココロ先生の胸へと飛び込みます。
「こわかったおはなし、あとで聞かせてね」
やさしい手が、すっかりおびえきったふたりの頭をなでました。
ミミクのパパとママは、先生たちを見てだまってしまいました。
それからふたりは、ミミクの手を取って、「おはなしを聞かせて」と言いました。
そしてフラハは、ミミク一家を見て、「わたしにも両親がいたら、あんな風に温かくだき合ったりするのかしら」と考えたのでした。
「フィーユちゃんも帰っちゃったし、あたしも、急におてつだいがしたくなったから、帰るね……」
ムギちゃんが言います。
「良い考えね。また明日ね、ムギちゃん」「またね」
フラハはお友達とお別れしたあと、“残りのひとり”を見て、肩をすくめました。
クローディアはひとりでぽつんとしていて、お空の雲を見上げたりなんかしちゃっています。
「手、つないでみる? いける?」
提案するも、無視されてしまいました。
「本当、やれやれだわ」
フラハは聞えよがしにため息を吹き付けてやると、ココロ先生のところまで行って、そっと耳打ちをしました。
なんて言ったと思います?
「考えごとがしたいから、今日の夜は、ココロ先生のお部屋を貸して」とお願いしたのです。
うそじゃありませんよ。フラハには、本当に考えごとをする必要があるのですから。
ココロ先生は、フラハのお願いに、「うーん」とうなったりも、こまった顔を見せたりもせずに、「わたしはクローディアの部屋で寝ることにしますね~」と言ったのでした。
今日の夜は、冷たい風が吹いても平気でしょうね、きっと。
* * * *
* * * *
☆妖精の世界のひみつ、その十四☆
「われの仲間は、タンポポ畑の綿毛ほどにたくさんいる。じつは、そちらの世界にもよく出向いておるのだ」




