はじめまして、フラハちゃん
今日はとてもいいお天気です。
ずっと遠くまで見通せる青い空に、ふわふわの白パンそっくりの雲がうかんでいます。
緑の丘の上では、のっぽの風車がのんびりと腕を回しています。
風車の足元を見ると、春のような髪の色をした女の先生を、ちいさな子どもたちが囲んでいました。
その女の先生は、みんなに“ココロ先生”とよばれていて、やさしくて、親切で、いつもにこにことほほえんでいるかたですが……ふしぎなところがひとつありました。
ドレスの背中から、大きな羽が生えているのです。
ちょうど、トンボとチョウチョの羽をあわせたようで、ガラス細工のように透きとおって、虹色の光をたたえたすてきな羽です。
かのじょは人間ではなく、“妖精”なのでした。
みなさんの知っている先生にしては、ちょっと変わったすがたですが、子どもたちにふしぎがる様子はありません。
子どもたちは先生よりも、そのうしろに隠れるようにして、はにかんでいる女の子のことが気になるようですよ。
「今日はみなさんに、新しいお友達を紹介します」
ココロ先生はそう言うと、白いワンピースを着た女の子の肩にそっと手を置きました。
女の子は先生の背中に垂れた髪の中に隠れたまま、なかなか出てこようとしません。
子どもたちは、新しいお友達が恥ずかしがりやなことにはなれっこでしたので、女の子が出てくるのを楽しみに待ちました。
先生も待っていましたが、女の子がもっと奥へ隠れようと、アナグマのあなほりのように先生の腰をかいたものですから、くすぐったくなって逃げてしまいました。
そうなると、女の子はみんなの前に出ざるをえません。
その子もまた、少しだけ変わった姿をしていました。先生のように背中に羽はありませんが、髪は風色で、瞳が季節色なのです。
それから、お肌はすべすべで、太陽のようでした。
子どもたちは、「わあ、きれいな子」と声を上げて歓迎をしましたが、かのじょはもう一度、先生の髪の中に隠れようとします。
女の子は、自分が恥ずかしがりやだということに、たった今気が付いたばかりなのでした。
なぜなら、こんなにたくさんの“子ども”に会ったのは、初めてだったからです。
「ほら、だいじょうぶですよ」
ココロ先生はそう言って、はなれてしまいました。
女の子は口元をきゅっと引きしめて、先生の服の代わりに、何も持っていない自分の手をにぎりました。
かのじょはどうしようかと、こまっていましたが、丘の上を原っぱの香りのする風が吹いて、同じ色の髪がさらさらと音を立てたので気持ちが落ち着きました。
女の子はほっぺを少し夕焼けにして、目をしっかりと開いて、みんなのことを見回します。
「はじめまして。わたしは、砂の妖精のフラハです。黄色の丘から来ました」
フラハはみんなによく聞こえるように、大きな声で言いました。
ですが、みんなは首をかしげながらフラハのことを見つめています。
「妖精なのに、フラハちゃんには先生みたいな羽が無いの?」
誰かがたずねました。
そうです。フラハは砂の妖精でしたが、背中に羽が生えていないのです。
ですが、フラハは黄色の丘に住んでいたときには子どもだけでなく、ほかの妖精の仲間も見たことがなかったので、それがおかしなことだとは、少しも思っていなかったのです。
指摘をされて、フラハはこまってしまいました。
子どもたちの中にも、よく見ると、先生と同じように羽の生えた子が何人かいるようでした。
「羽が生えていなくても、みんなと同じですよ。先生はそうじゃないかなと思います」
ココロ先生は静かに笑っています。みんなは口々に「そうかも」、「そうかな」、「そうだよ」と言いました。
たしかに、妖精の子も妖精ではない子もたくさんいるのですから、同じことかもしれません。
「フラハさんは今日から、この、“かぜはなの家”の仲間になります。みなさん、仲良くしてくださいね」
“かぜはなの家”は、風の吹く緑の丘のてっぺんにある、大きな風車のついた広いおうちで、妖精のココロ先生が色々なことを教えてくれる場所です。
みなさんの知っている学校のようなもので、近くの村から子どもたちがここにかよってきます。
それから、自分の家が無かったり、分からなくなった子がくらしている場所でもあります。
ところで……この風の吹く緑の丘は、みなさんの住んでいるところの「となり」にあります。
となりといっても、となりの家や町のことではなく、“となりの世界”で、この世界は、魔法や妖精のある、ふしぎな世界なのです。
今日からみなさんとわたしは、この妖精と子どもたちのいる学校で何が起こるのか、このフラハがどうなっていくのか、そっとのぞいていこうかと思います。
見てください。子どもたちが集まって、フラハの手を取り合い、めいめい自己紹介をしていますよ。
ココロ先生は、そんな子どもたちの声に耳をすませながら、今日もにこにこしていました。
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☆妖精の世界のひみつ、その一☆
「妖精にも人間と同じように、大人と子どもがあるんです」