表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風吹く、あの緑の丘へ  作者: みやびつかさ
1.はじめましてとおつかい
1/42

はじめまして、フラハちゃん

 今日はとてもいいお天気です。

 ずっと遠くまで見通せる青い空に、ふわふわの白パンそっくりの雲がうかんでいます。

 緑の(おか)の上では、のっぽの風車(ふうしゃ)がのんびりと(うで)を回しています。

 風車の足元を見ると、春のような(かみ)の色をした女の先生を、ちいさな子どもたちが囲んでいました。


 その女の先生は、みんなに“ココロ先生”とよばれていて、やさしくて、親切で、いつもにこにことほほえんでいるかたですが……ふしぎなところがひとつありました。

 ドレスの背中(せなか)から、大きな羽が()えているのです。

 ちょうど、トンボとチョウチョの羽をあわせたようで、ガラス細工のように()きとおって、(にじ)色の光をたたえたすてきな羽です。

 かのじょは人間ではなく、“妖精(ようせい)”なのでした。


 みなさんの知っている先生にしては、ちょっと変わったすがたですが、子どもたちにふしぎがる様子はありません。

 子どもたちは先生よりも、そのうしろに(かく)れるようにして、はにかんでいる女の子のことが気になるようですよ。


「今日はみなさんに、新しいお友達を紹介(しょうかい)します」


 ココロ先生はそう言うと、白いワンピースを着た女の子の肩にそっと手を置きました。

 女の子は先生の背中に垂れた髪の中に隠れたまま、なかなか出てこようとしません。

 子どもたちは、新しいお友達が()ずかしがりやなことにはなれっこでしたので、女の子が出てくるのを楽しみに待ちました。


 先生も待っていましたが、女の子がもっと(おく)へ隠れようと、アナグマのあなほりのように先生の(こし)をかいたものですから、くすぐったくなって()げてしまいました。


 そうなると、女の子はみんなの前に出ざるをえません。

 その子もまた、少しだけ変わった姿をしていました。先生のように背中に羽はありませんが、髪は風色(かぜいろ)で、(ひとみ)季節色(きせついろ)なのです。

 それから、お(はだ)はすべすべで、太陽のようでした。

 子どもたちは、「わあ、きれいな子」と声を上げて歓迎(かんげい)をしましたが、かのじょはもう一度、先生の髪の中に隠れようとします。


 女の子は、自分が恥ずかしがりやだということに、たった今気が付いたばかりなのでした。

 なぜなら、こんなにたくさんの“子ども”に会ったのは、初めてだったからです。


「ほら、だいじょうぶですよ」


 ココロ先生はそう言って、はなれてしまいました。

 女の子は口元をきゅっと引きしめて、先生の服の代わりに、何も持っていない自分の手をにぎりました。

 かのじょはどうしようかと、こまっていましたが、丘の上を原っぱの香りのする風が()いて、同じ色の髪がさらさらと音を立てたので気持ちが落ち着きました。


 女の子はほっぺを少し夕焼けにして、目をしっかりと開いて、みんなのことを見回します。


「はじめまして。わたしは、(すな)の妖精のフラハです。黄色の丘から来ました」


 フラハはみんなによく聞こえるように、大きな声で言いました。

 ですが、みんなは首をかしげながらフラハのことを見つめています。


「妖精なのに、フラハちゃんには先生みたいな羽が無いの?」


 誰かがたずねました。

 そうです。フラハは砂の妖精でしたが、背中に羽が生えていないのです。

 ですが、フラハは黄色の丘に住んでいたときには子どもだけでなく、ほかの妖精の仲間も見たことがなかったので、それがおかしなことだとは、少しも思っていなかったのです。

 指摘(してき)をされて、フラハはこまってしまいました。

 子どもたちの中にも、よく見ると、先生と同じように羽の生えた子が何人かいるようでした。


「羽が生えていなくても、みんなと同じですよ。先生はそうじゃないかなと思います」


 ココロ先生は静かに笑っています。みんなは口々に「そうかも」、「そうかな」、「そうだよ」と言いました。

 たしかに、妖精の子も妖精ではない子もたくさんいるのですから、同じことかもしれません。


「フラハさんは今日から、この、“かぜはなの家”の仲間になります。みなさん、仲良くしてくださいね」


 “かぜはなの家”は、風の吹く緑の丘のてっぺんにある、大きな風車のついた広いおうちで、妖精のココロ先生が色々なことを教えてくれる場所です。

 みなさんの知っている学校のようなもので、近くの村から子どもたちがここにかよってきます。

 それから、自分の家が無かったり、分からなくなった子がくらしている場所でもあります。


 ところで……この風の吹く緑の丘は、みなさんの住んでいるところの「となり」にあります。

 となりといっても、となりの家や町のことではなく、“となりの世界”で、この世界は、魔法(まほう)や妖精のある、ふしぎな世界なのです。


 今日からみなさんとわたしは、この妖精と子どもたちのいる学校で何が起こるのか、このフラハがどうなっていくのか、そっとのぞいていこうかと思います。


 見てください。子どもたちが集まって、フラハの手を取り合い、めいめい自己紹介(じこしょうかい)をしていますよ。

 ココロ先生は、そんな子どもたちの声に耳をすませながら、今日もにこにこしていました。



*  *  *  *


  *  *  *  *

☆妖精の世界のひみつ、その一☆


「妖精にも人間と同じように、大人と子どもがあるんです」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ