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アンサルとアンヘルを中心とした、ファルカナス王国の南方地域、その一角を支配したファルカナス民主共和国。首都をアンサルに定め、そのアンサルの中央に掘っ立て小屋を建てたけど、これがファルカナス民主共和国の公庁です。今は一院制を採用して、議会を構成する議席数も13人と超小規模。でももう立派な国だね。


まだ国の公共事業である冒険者ギルドの問題や前領主の残した役人をどう使うかの問題が残っているけど、そんなことは置いておいて今一番重要なのはこのまま行けば王都から反乱の鎮圧という名目で騎士団が派遣されるということ。


王都からアンサルまで、騎士団の移動速度だとおよそ半月はかかる。早馬で6日の距離だから、一月後には来てそうだね。試しにジュリアさんとランベルトさんに、派遣される騎士団の規模がどれぐらいか予想してもらったら、ジュリアさんは3000人、ランベルトさんは5000人だった。ジュリアさんの方が楽観的なのか。


王国の騎士団という名の正規軍の規模は、1万人程度。しかしながら全軍をこちらに割くことは出来ないし、ここ十数年は戦争が起きていないとはいえ隣国との仲は決して良い方ではないし、問題が起きたからって王都を空にして全軍を指し出すアホではないと思いたい。……隣国か。


ファルカナス王国は、北と北東と南~南東に3つ、それぞれ別の国と国境を接している。同盟国と言えるほど仲の良い国は存在せず、わりと昔は北にある国とよく戦争をしていたらしい。じゃあこの北にある国から、ファルカナス民主共和国は支援を貰えそうだね?正確な地図すらないから連絡なんて取れないけど。


「いうとくけど、騎士団の他にも志願兵となる冒険者達がおるで?そっちの規模も3000人程度やろうから、合計で6000人規模の軍やろな」

「……ああ、うん。その可能性は大いにあり得るから、新聞の発行を急いでいるんだよ。可能なら、ここに来るまでの間に調略したい軍だね」

「……流石に進軍中の軍を調略するのは無理やで。一部の兵の離脱なら期待できるけどな」


議員になったジュリアさんは、本当に買って良かった人材だ。たぶんこの人が居なかったら、ファルカナス民主共和国は上手く回ってない。いや今現時点で上手く回っているとは言えないけど、ジュリアさんのお陰で何とかなっている。


「どちらにせよ、こちらには軍がないから相手の軍が到着した時点で負け濃厚なの。だから何としてでも、進軍を止めさせるしかない」

「一応、アンサルには冒険者が多いから1000人規模なら軍を編成出来るで?」

「指揮官が居ないから無理」

「ライラちゃん、指揮官も行けそうやけど?」

「それ、いざとなった時には部下に首を切られて相手陣営に持って行かれる奴でしょ。嫌だよ。負け戦の指揮官なんて。

……まあ、徴兵に応じてくれる人の人数次第かな」


ファルカナス王国の軍が、この街に到着したら私達の負け。だからその前に、民主主義の思想を他の街や地域に伝染させていく必要がある。


アンサルとアンヘルを手中に収めてから少しの時が経過して、念願の新聞社が設立され、週一程度の頻度で新聞を発行出来るようになった。紙が安いから、国費で新聞を刷れるね。我が国初の公共事業は、新聞の発行ということになる。将来的にはめっちゃ叩かれてそう。


そしてその新聞の内容は、如何に民主主義が素晴らしいものなのかを信者達に書かせました。税率が下がり、物価が安くなって生活が楽になったという内容も盛り込まれており、これを大量に近隣へばら撒くつもりである。何なら一部は、王都まで届けるつもりだ。


もはや新聞での民意誘導は隠せてないけど、どうせ民意誘導されてると気付くインテリ層は少ないから大丈夫。無料で最新の情報を読めるんだから、民意誘導ぐらいされて欲しいところだね。元は国民の税金だから、無料とも言えないけど。


これからも定期的に新聞は刷るので、広告も載せることにしようかな。もう民主主義とは一体……という状態になるけど、どうせ見直されるまでタイムラグがある。そのタイムラグの間に金を稼げるなら問題はない。議会は今、私の言うことを実行するだけの組織だしね。




ライラはアンサルとアンヘルを手中に収めると、まずは塩の専売を止めた。これにより塩が今までよりも安価に提供されることとなり、一気に需要が増える。アンサルとアンヘルはファルカナス王国の南方にあり、南西の海岸線に近い地域だ。そして海岸には塩を生産している村があり、ライラはその村を支配下に入れた。


元々アンサルとアンヘルに向けて塩を出荷していた村のため、村からしてみれば納品先の社長が交代した、程度の認識だった。売値も大して変わらなかったため、塩の集荷は通常通りに行われている。


その塩を、ライラは今までよりも安くで売った。さらに塩の生産と販売を誰でも出来るようにしたため、これ以降塩の価格は一気に下がることとなる。塩の生産をして生計を立てていた村は、徐々に生活が苦しくなり、当然このことに対して異議を唱えたが、問題として提起されることは無かった。


「なぜ我々から塩を買わないのだ!今まで通りの値段で良いと言ったのはそちらではないか!」

「ライラ様はそのままの値段で売ることに対して、問題はないと言っただけだ。そなたらよりも安価で塩を生産するところがあれば、そこから買うのが当然のことであろう?ライラ様は、必ずそなたらから買うとは言っていない。あくまで値段に対して、そのまま売る権利を認めただけだ」


ライラは生産者の権利よりも、安価に民が買える権利を優先した。このことはライラの人気を盤石なものにし、一党独裁体制をより強固なものにしていった。さらに新聞社を設立したことで、ライラは自由に民意を誘導できるようになる。


問題だらけではあるが、確実に民の生活は向上していた。そしてそのことをライラは、政治が良くなったお蔭だと刷り込むことに成功した。アンサルとアンヘルの民は、徐々にライラに毒され民主政治の、ライラの狂信者となっていく。やがて民主政治を押し売りするライラの姿に、民は何の疑問も抱かなくなった。それどころか、積極的に民主主義の押し売りに協力するようになる。

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[良い点] 好き [一言] ヒャッハー!民主主義は革命ダアッ! この作品読んでると政治も宗教みたいなもんに感じますね。
[良い点] うーむ衆愚政治w 独裁だろうと貴族制だろうと民主主義だろうと、結局「上手く回るか」次第だから、結果的に上手く回るなら政治的正解よねぇ……w
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