衝突
本格的な活動を始めてから半月ほどの時が経過し、とうとう街の中心で演説をしている私のところに領主の私兵がやって来た。憲兵みたいな存在だけど、私を拘束しろという命令を受けているはず。
しかし私のところへたどり着く前に、古参100人の同志の中でも体格の良い男性が立ち塞がる。憲兵達はその男性を槍で払いのけようとして……。
わざと槍先で攻撃を受けた彼は、出血した箇所を抱えるようにして崩れ落ちる。うん、予定通りの演技ご苦労様です。領主の私兵は全員同じ訓練を受けているようなので、今のは誰が来ても彼を刺してしまっていただろう。
本来なら槍の側面を押し付けるような形で彼をどかしたかったのであろう領主の憲兵達は、若干の焦りが見える。守るべき民を、傷つけたからだ。そして憲兵達が私の拘束という最重要任務を思い出す前に、観衆の爆発が起きる。
今日の演説に来てくれていた800人以上の人が、一斉に領主の私兵達に襲い掛かったのだ。私の昼の演説を聞けるのは、ニートか冒険者の2択ぐらいだけど、冒険者は自前の剣や弓を持っている。そしてあっという間に、領主の私兵を拘束してしまった。いつか宣戦布告はしないといけなかったので、ちょうど良い機会だね。
「私たちは、私たちだけの国を作ろう!王様なんていない、全人類が平等な国を!」
そしてそのまま領主軍と戦争状態に入る。領主の私兵によって構成される軍なんて、100人もいないからこの人数差だとあっという間だね。
私が本格的に動き始めてから、僅か半月で一都市が民主主義で染まるなんて思わなかった。ちょっと早すぎた感はあるけど、どうせ一度出来た流れは止められない。領主のナガーロは王都まで逃げ延びることをせず、隣接する街のアンヘルに行った模様。そこでアンヘルの街を監督する人と合流した感じかな。
人口1万人の一都市国家として、ファルカナス民主共和国の独立も宣言。勝手に独立宣言した国家の国民になった方々はご愁傷様です。これから王国軍との衝突があるだろうから、私のために戦って死ね。
「さて、選挙を始めようかな」
「……その選挙って、誰でも国のトップに立候補できるねんな?」
「まだ議会も法もないからね。だからジュリアさんでも立候補出来るし……まあ、民から選ばれたという大義名分は必要だよ」
街の一般住民からしてみれば、何か領主に反抗している奴らがいるなと思っていたら、そいつらが領主を追い出して独立宣言をしたんだからもう大変。その上、いきなりこの国のトップを決めるよって言われて、ホイホイ立候補出来る人は少ないだろう。
案の定、立候補者は私と数人だけだったけど、選挙を行うために必要な紙はジュリアさんが刷るんだよね。上から順番に名前が書かれていて、投票する人は人の名前に丸をするだけの簡単な投票形式。その名前の一覧の、1番上に私の名前が来るよう手配して、いざ投票を開始したら私の得票率が94%とかおかしなことになった。なお投票率は50%をギリ超えるぐらい。まだまだ民主主義の思想が行き渡っていない証拠だし、展開スピードが早かった弊害だね。
とにかくこれで名実ともに私がトップになれたので、次はアンヘルで革命を起こすことに専念する。ここアンサルとアンヘル、周囲一帯の村々の人口を総計すると4万人になるので、ちゃんと手中に収めれば人口1000万人弱のファルカナス王国と対等に戦えるね。
ライラがアンサルの街で繰り返し演説を行った結果、徐々に住人は民主主義的な思想に切り替わっていく。元々、政治形態なんて考えたこともなかった人々が大半を占め、その人たちにとって民主制というのはとても魅力的なものに思えた。
彼女に任せれば、何かが変わるかもしれない。そんな雰囲気が蔓延していた中、領主の兵が彼女を拘束しようとする。政変を目論む人物を捕まえようとするのは至極普通のことではあるのだが、この集会に集まっている人達は彼女に何かしらの期待感を膨らませており、彼女を守るために立ち上がった男が槍で刺されたことでそれが爆発した。
あっという間に集まっていた観衆は、領主の兵を捕えてしまう。この日、彼女の話を聞きに来ていたのは850人であり、彼女を拘束しようとしていた人間は3人しかいなかった。ライラは起こった騒動を見て、今が契機だと考え領主のナガーロを追放しようと目論む。
領主の館が崩れ落ち、ナガーロ自身が館とは別の邸宅に住んでいたことも災いした。元の館であれば門と塀があるために防御力があったが、仮住まいの家は大した防御力もなく、あっという間に制圧されていく。
妻子を捨て、隣街まで逃げ延びたナガーロはそこで再起を図るため、アンヘルの監督者であり、自身の配下である男を呼び出す。ちょうどその頃にライラは独立宣言を行い、この世界で初となる選挙を行っていた。
「なんとお声がけをすれば良いのか……とにかく、ご無事で何よりです。しかしナガーロ様は、一刻も早くこの街からお逃げ下さい。私も後を追います」
「な!?なぜだ!なぜ私もお前も、逃げなければならないのだ!なぜあのライラという少女が持ち上げられる!ただの平民ではないか!」
「ナガーロ様……民から指導者を選ぶという考えが広まりつつある今、もはやこの周辺でライラの名を知らぬ者はいないでしょう。世が変わりつつあるのです。急速に」
アンヘルの街の監督者であるモリスは、ナガーロに早くこの街を出るよう伝える。部下である男からの指示に従い、大慌てでさらに逃げ延びるナガーロの後を、モリスが追うことはなかった。
ファルカナス民主共和国で初の選挙が行われ、ライラが初代大統領になった日の翌日。モリスはライラの考えに共感したと言い、アンヘルはファルカナス民主共和国の一部となる意向を民衆に伝える。アンサルとアンヘルは徒歩でも片道1日という位置にある都市であり、ライラの民主主義を掲げた立札は、アンヘルの至る所にまで設置されていた。
その数日後、アンサルとアンヘルの周囲の村々も事態をよく呑み込めないままファルカナス民主共和国の一部として組み込まれていく。この独立騒動が王都まで届くのは、さらに数日が経過した後だった。




