商人
この世界にも、当然だけど公務員がいる。主な仕事は領主の補佐で、基本的には税の徴収だ。抜けがないか徹底的に調べて、少しでも多く民から税を搾り取ろうとしている。
文明レベルが低いと、当然だけど徴税が難しくなる。この街を乗っ取るとして、その後に徴税をする人がいないと国として運営することは出来ない。しかしながら、現時点で領主に仕えているような人間をそのまま使い続けるのは難しい。だから私は、商人から適当に頭数を揃えようと考えた。
「……うちが買われたんは、計算の出来る商人を集めさせるためか」
「うん。ジュリアは結構な数の人脈があるよね?そうじゃないと、20代半ばで幹部にはなれないでしょ?」
「そんなことはあらへんで?というかうちはまだその話を了承したわけじゃないで。その宝石類、どうせ盗品やろ?しかも5億ゴールドには届いてへん」
「……足りない分は、追加で金貨を渡すよ」
ファルカナス王国でそこそこ有名な商会に所属しているジュリアさんは、私に会って宝石を見るなり盗品だと見抜いてきた。逆に盗品だと見抜けなかったら不安になるから、それは良い。5億ゴールドに届いてないのは私が単純に出し渋っただけなので、追加で金貨を乗せる。
……もうじき30歳になる女性とは思えないほど外見は幼いけど、たぶん長命種の血も入っているのかな。コネクションが多い商人を、手に入れたくない組織の長はいないと思う。
「で、うちには何をして欲しいん?」
「あれ?領主に突き出さないの?」
「商人としてこれから更に上の存在になるなら、うちは今から利権で雁字搦めになっとる宮中に頭下げてお金を払わなあかん。……それを今からぶち壊して新しい利権を作り上げようとする人がいて、それが実現可能な範囲に思えて来るなら協力するのは当たり前やろ。毎日の演説、大盛況らしいやん?」
「昨日この街に帰って来たわりには情報収集が早いね。それならこの後でやろうとしていることに、少し協力もして欲しいかな」
盗品と見抜いた上で、ジュリアさんはそれを受け取る。初めて会った時、彼女は私を買おうとして、かつ彼女は自身を5億ゴールドで売ると言った。この人の本業は人身売買というか、要するに奴隷を売ったり買ったりしている人だ。そして悪銭だろうが何だろうが、動くなら金は金だと受け入れる人であることは確認済みです。
その上で今ここで私に協力をするということは、将来的に莫大な利権を得られるであろうということまで頭が回る人物である、ということも確認済み。そこまで頭が回らないなら、領主に突き出して報酬を受け取るのが一般的な選択肢になるのかな。
5億ゴールド分の金銀財宝を渡して、ジュリアさんを終身雇用する契約を結ぶ。とりあえず死ぬまで1日に5時間ぐらいは私のために働いてもらおうかな。私からの依頼がないときは暇になるだろうし、条件は盛れるだけ盛り込む。
そして2人の間で契約の魔法を結ぶ。魔法があるお蔭で、契約が破られないというのは素晴らしいね。無事契約したら、早速ジュリアさんに頼み事を言う。
「安い槍を大量に欲しいんか。質にこだわらないなら、ある分だけ買って来るで」
「じゃあ1000本ぐらい用意しておいて。そろそろ領主の私兵と衝突しそうだし」
「……その衝突は、させるんやろ?怖いわー、この小娘」
「分かる時点でジュリアさんも相当じゃない?あと、新聞社の設立をしたいからそれも協力してね」
ジュリアさんに領主の私兵と衝突することを伝えたら、怖いわーと言われたけど流石のジュリアさんもこの衝突が仕込まれたものであるということまでは予測できなかった模様。とりあえずランベルトさんが100本くらいの槍を確保できそうで、ジュリアさんが1000本ぐらい用意するなら戦争するには十分かな。
領主軍には魔法使いもいるし、精強ではあるけど内部にも私の演説に耳を傾けている人が何人か出てきているようだし、何なら一人、5年前から民主主義の集会に参加してくれている最古参の面子が内部にいる。情報は筒抜けなので、いつ動くかも分かる。これが大きい。
そもそも、こそこそと集会を続けられていたのは領主軍の内部に協力者が居たからだ。10歳の私に求婚をしてきたガチ屑ロリペドキザ野郎は、それ以降私の下僕です。
「それにしても……よく3年前の約束を覚えていましたね」
「あんなインパクトのある提案してきたのはライラちゃんだけやし、可愛い女の子との約束事は絶対に忘れへんで。
それにしても綺麗に育ったなぁ。一晩で10万ゴールドは出せるで」
「一晩で10億ゴールドなら受け付けますよ」
「…………10億かぁ。うーん」
「真剣に悩まないでくれます!?」
ジュリアさんに容姿を褒められるけど、相応の努力はしているので可愛いのは当然です。可愛いは作れる。指導者としての才能というものがあるなら、その大半は容姿なんじゃないかな。後は演技が得意なら何とかなるなる。
さて。領主であるナガーロさんはちゃんと追い出さないとね。殺すとどうしても私の印象が悪くなっちゃうから、可能であれば追放という形が1番ベストになる。流れ矢で死んでくれても別に良いけど、王都にこの話を持ち帰って貰って王国の騎士団を動かしてほしい。
民が民のために政治をする。この状態を王国の中枢が重く見れば騎士団は遅かれ早かれ派遣されると思うけど、出来れば早い方が良いから生き証人としてナガーロさんは生きてね。この騎士団の派遣が早ければ早いほど、民主化の動きの活発化が早くなるということだし。
……傍から見ると館を燃やされて財産はほとんどを盗まれた挙句、生まれ故郷から追い出された人だけど私の親友を壊したので同情の余地はないね。どんな善人でも、現政権で上の方の地位の人にはこれから転落人生を歩んでもらうけど……この国に私以上の善人はいないから問題はないね。