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演説

この小説は通貨以外、日本の単位に換算して書かれています。

この街の住人って暇なのかな。15歳の小娘が突然政治活動を始めたら、わりかし人が集まったんだけど。いや100人の同志にノルマ5人を課したけど、1000人ぐらいいるね?人口1万人程度の小さな街だから、経済活動止まってるね?野次馬効果って凄い。


「みんな来てくれてありがとう!今日は民主主義について、簡単に説明するね!

凄くざっくりとした説明だけど……みんなの中から領主や役人をしたいという人を集めて、投票で偉い人を決めていくんだ。

もっと簡潔に言うと、生まれで偉さが決まらない仕組みのこと!だからもし民主主義になれば、この場にいる全員が一番偉い人になる権利を得るってこと!そして、その一番偉い人を選ぶ権利を持つってこと!」


演説は極力馬鹿っぽく、馬鹿に伝わるよう行う。民主主義は、全員が国のトップになれる可能性を秘める。まあ、だからと言って本当になれるものではないのだけど。私も大した人間ではないけど、この世界では初めて民主主義について述べた、民主主義の第一人者にはなれる。この肩書は、一生酷使する予定だから大切にしたい。


「投票というのは偉い人をやりたいと言った立候補者の中から、みんなが選ぶ行為のことだよ。多くの人から支持を受けた人が、みんなの代表として偉い人になるんだ。だから絶対に生活が良くなるし、こんな不当な税率や生活で不便なことは全部解消されるよ」

「不便なこと……塩の専売がなくなるってことは、塩が安くなるということかい?」

「その通り!今の塩、すごく高いよね。でも私がみんなの代表になったら、塩の専売は止めるようにするよ。だから100グラムで200ゴールドの塩が、30ゴールドぐらいになると思うよ」


今のこの国の主な収入はいわゆる所得税の他に、専売や関税なども含まれる。特に塩の専売は、国にとっては生命線だからとても高いし、勝手に売ったら死刑になる。鞭打ち30回とか普通の人間は耐えられるわけないから、実質死刑だよね。


こんな横暴が蔓延っているから、民の生活は一向に良くならない。というかこの5年で、どんどん苦しくなっていると思うよ。だからまずは、塩の専売がなくなるよというアピールをする。ちゃんと言いつけ通りに質問出来た子には、後で100ゴールドをあげよう。


不自由がなくなるというインパクトは中々に大きかったらしく、今日集まってくれた人々は確実に民主主義がどういうものなのか、朧気ながらも分かったと思うし、それをどんどん広めてくれるだろう。さあ次は出版だ。今日の演説の内容をまとめて、チラシ感覚で配ろう。隣町のアンヘルや、各村々にまで伝えよう。


立札がどんどん立てられているから、そのうち領主の耳にも入るだろうけど……禁止したり私を逮捕しようとしても、もう出来ないだろうね。既に人気が出ちゃった。


それに、人々の口に戸を立てることは出来ない。いずれ民主主義は、このファルカナス王国全域に伝わることになる。目指すべき形は、軍と民の衝突。それさえ起きれば、一気に民衆の感情が民主主義寄りとなる。


さて。稼いだ5億ゴールドは5億ゴールドでさっさと使わないと、誰かに盗まれちゃう。民主主義を広めるに当たって、1番効率が良いのは新聞社を設立することだろう。案の定、紙の製法に関しては確立している異世界だから、本は安値で売っているし、活版印刷に似た技術もある。何なら情報を集めた瓦版みたいなものは存在しているけど、それは不定期だ。定期的に新聞というものを発行している新聞社はまだ存在しない。


この新聞というものが、民主主義においてはとても重要だ。そして世界初の新聞社の発行する新聞という肩書は、絶対に保持しておいた方が良い。これもまた、利用出来る分だけ利用するつもりだし、民意誘導に一役買って貰う。


その新聞社を設立するにあたって、私は前に約束をしていた商人へ手紙を書く。あの人は自身の値を5億ゴールドと言い切ったんだ。だから、5億ゴールドで買わせてもらおう。




3年前、ライラが12歳の時に商人の集団が領主と取引を行いにアンサルへ来た。その際、まとめ役の女商人はライラが看板娘をしている飯屋に立ち寄る。この女商人はアンサル出身であり、この飯屋のことも、仲の悪い夫婦が切り盛りしていることも知っていた。


数年前に立ち寄った時にはいなかった少女が笑顔を振り撒いて接客している姿を見て、その女商人はまず境遇を聞いた。とてもあの夫婦の娘とは思えないほど、容姿が可愛らしかったからだ。


「なあ、君は一晩いくらなん?」

「お客様、誠に申し訳ないのですが、そういうことは一切しておりません」


茶色のウェーブのかかった髪、藍色の目。顔は少女としての可愛らしさを保ちつつ、どこか大人な雰囲気を漂わせている少女。誘いを断ったライラは、逆に女商人へ質問をする。


「キャロリーヌ商会の方ですよね?」

「そうやで。うちはキャロリーヌ商会のジュリアや。また来るから、今度は買わせてーな?」

「……キャロリーヌ商会は、何でも売っているんですよね?」

「お!嬢ちゃん何か欲しいんか?タダは無理やけど割安で売ったんで?」

「ではジュリアさんはいくらでしょうか?人生丸ごとで、1億ゴールドぐらいですか?」

「…………は!面白いこと言う嬢ちゃんやな。うちを買うなら、嬢ちゃん割引を適用しても5億ゴールドは下らへん。これでもうち、王都で2番目の商会の上から3番目なんやで?」


その質問の内容は、女商人であるジュリアをいくらで買えるかというもの。ジュリアは王都で2番目の大きさとなるキャロリーヌ商会に属しているが、王都では2番目というだけで国全体で見ると商会の位置は3番手になる。また上から3番目とは言うが、トップとその次を除けばキャロリーヌ商会は十数人の幹部がいる状態であり、ジュリアはその一人に過ぎない。


むしろ幹部の中では最年少であるため、かなり軽んじられている立場だ。5億ゴールドは日本円にして50億円であり、法外な値段であると言える。


「じゃあ、5億ゴールドを渡せばジュリアさんは私のものになってくれるんですね?今は無理ですけど、いつか必ず用意します」

「別にお金を用意せんでも、ライラちゃんなら可愛いしお付き合いするで?」

「あ、単純に商人としてこき使える取引上手なジュリアさんが欲しいだけで、女としてのジュリアさんは求めてません。そもそも女としての価値なら5万ゴールドぐらいですよね?」

「あんさん思っていたより口悪いな!?若いからって調子に乗ってたら婚期なんてすぐ逃すで!?」


ジュリアは見た目こそ若いものの、実年齢はこの時点で26歳と結婚年齢が低いこの世界では少し行き遅れている。ライラが15歳になった今、彼女は29歳だ。


そんなジュリアに、ライラは手紙を書く。内容は「ジュリアを買いたい」の一言だけだった。

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