封建契約
この世界には封建契約というものがある。公爵や伯爵、男爵という貴族がこの世界にもいるんだけど、そいつらは上位の存在と主従関係を結んでいる。具体例を出すとアンサルの町長だったモリスが男爵、私が追い出したナガーロは伯爵だね。
ナガーロ自身はアンヘル以外に直轄領を持ってなかったみたいだけど、それはこの周辺に街が無かったせいもある。ファルカナス国王にナガーロは仕えていて、ナガーロにモリスが仕えていた感じ。でもこの主従関係、そこまで大層なものではない。
国王と伯爵領を持つ伯爵は封建契約を結んでいるけど、この内容は国王が伯爵を外敵から保護をする代わりに、伯爵側が徴兵や税の一部を渡す契約。そして伯爵同士、大して仲が良くないから戦うこともある。この国はまだ平和な方らしいけど、北にある帝国とか随分と内戦が酷いらしい。早く革命しなきゃ。
あとジュリアさんに貴族社会について多少教えてもらったけど、中くらいの街1つで男爵領ぐらいだそうだ。そして男爵自体は結構な数がいるらしく、モリスは結構な数の中の1人ということだね。一方で伯爵の数はかなり少ない。伯爵は男爵領を基本は3つから5つぐらい持っていて、その中心部には中くらいから大きめの街がある感じ。なおナガーロはアンサルとアンヘルの2つが含まれる伯爵領しか持ってなかった模様。所詮は地方の弱小貴族だね。
王に直接仕える伯爵もいるけど、中には公爵に仕える伯爵もいる。公爵は大体伯爵領を3つ以上持っていて、家臣団に伯爵や男爵がいる。公爵本人の直轄領は、伯爵領1つ分ということも珍しくない模様。何だこの階級社会は。
ついでに、子爵とか侯爵に相当するのはないみたい。まあ国王、公爵、伯爵、男爵の4段階ということだね。北にある帝国は国王の上に皇帝がいるみたいだけど、こっちに介入して来たのが十数年前だしその時にファルカナス王国が勝っているしで大したことはないみたい。
南のウィルフレッド王国も似たような階級社会なのでかなり地球の中世ヨーロッパに近い封建社会です。まあでも国内で伯爵同士が戦争するとか、わりと末期感漂っているかも。だからこそ独立出来たわけだけど。
あ、ファルカナス民主共和国軍がファルカナス王国軍に勝ってしまったから野心を持っていた伯爵や公爵は封建契約を打ち切って新しい国の国王を名乗ったりしているようだよ?まあ頼れない国王に高い税を納めるぐらいなら独立するわな。当然残っている王国騎士団が派遣され、大規模にドンパチしそうな雰囲気だとか。
貴族社会は複雑怪奇。そして貴族社会の名残は、当然アンヘルとアンサルにも残っている。ナガーロ伯爵に追いやられていた一派や、数十年前はここの伯爵だった奴らの子孫が湧き出て来て、政権を寄越せと言って来る。何でこの狭い国内で内戦が起こるんだよ!
「あー、没落した貴族とか、人脈をフル活用して兵をかき集めそうやな」
「……もう一回選挙しようか。前の選挙は仮だったし、改めて今後の舵取りを任せる人を選ぶ選挙は必要だと思う。任期とかも決めたしね」
「……ついでに、供託金も決めたやろ?なるほどなあ。上手い具合に金を徴収する気やな?」
「まあ没落したとはいえ、貴族でこの土地を統治したいなら民から選ばれたという実績が欲しいでしょ。絶対貰えないけど」
仕方ないので2回目の選挙を実施。前の選挙は民主主義国家を樹立するための、国造りのための仮の選挙で、この選挙はこれからのファルカナス民主共和国を導く存在を決める選挙だと宣伝して回る。そして今回の選挙から、供託金という制度を導入。立候補する人間は、全員10万ゴールドというそこそこの大金を国に預けないといけない。
そしてこの供託金は、選挙で選ばれたり一定の投票があれば返されるけど、全有効投票数から立候補者数で割った数字以下の得票数だった場合に国に全額没収される。有効投票数が1万で、立候補者が10人だった場合、1000票以下なら没収ということだね。
つまりは平均以下だった場合に全額没収ということになる。日本の制度とはかなり違うけど、要するに選挙で対立候補からお金を毟り取りたいから作った制度だ。私が負けることは想定していない。前回の有効投票数の内、94%を集めたのが私だからね。
当然反発意見は出たし、金持ちじゃなかったら立候補も出来ないのかという声も出たけど、ちゃんと詭弁で押し通す。
「この程度の額の供託金を、借りる人脈や稼ぐ能力がないのに国の指導者になると言われても国民が困るよ!それに選挙で勝つ自信がないのに、国を導く覚悟もないのに、立候補出来る状態の方が問題だと私は思う!」
既に国民全員が国の指導者になれる可能性を秘める民主主義国家という空虚な妄想は、実現性のないものとなった。あとこの選挙に、旧貴族の方やナガーロに追い詰められていた政敵も参戦してくれたので、小銭美味しいです。選挙の結果?有効投票数の91%を得て私がトップだったので何も言うことは無いですね。流石は民主主義の提唱者。圧倒的である。
後の9%の内、4%を獲得したのがアンサルの街の町長だったモリスだった。91%に落ちた最大の理由は、アンサルの街を含めて選挙したからだろうね。しかしまあ、異常な得票率だ。まあ現代の日本でいう公職選挙法を思いっきり違反しているから仕方のないことなんだけど。もうそろそろ私の犯罪数、現代の日本準拠だと二桁に乗ったと思う。




