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停戦

王国の騎士団が攻め入ってから3日目。王国軍は防戦一方に入った共和国軍を崩すことが出来なかった。まあ連日戦う羽目になるとは思ってなかっただろうし、騎士団の一部にも民主主義が流行ったのは相当響いただろうね。


騎士団は貴族や王族の息子娘がいるわけだけど、その中には家督を継げない次男や三男も存在する。彼らはおそらく一生軍に所属させられ、スペアとしての一生を全うするようだけど、それに対する不満点はやっぱりあるみたい。


ただ、それでも王国軍が降伏することは本来あり得なかった。だって向こうの方が数は多いし、こちらの陣地が元から準備していたものとはいえ、相手側の戦力を削れているわけではない。


さて。こちらの方が数は少なく、相手は多い。用意していた防御陣地は固いけど、こちら側から攻撃に出ることは不可能。そんな中、相手に大打撃を与える手段って何だろう?そうだね、火計だね。


森の一区画へ相手の右翼を誘導し、数少ない腕利きの冒険者達が一斉に火矢を放つ。ちゃんと私が定位置に油を撒いているので、よく燃えるしこちら側に被害は出ない。一か月以上前から軍が来ると分かっているのに、ただ待っていただけなわけないじゃん。


この森林一区画ごとデストロイヤー作戦により、王国騎士団に結構な被害は出た模様。騎士団側は兵糧の不安もあり、これ以上の継戦は不可能とみて停戦の使者が送られて来たけど、こちらの要求は装備と民主主義の人をこちらの国に属させることにした。……燃やしたとは言っても火計から逃れた騎士団は全然数が減ってないし、その中でも民主主義の人がいるなら回収しないとね。


ちょうど隣国の敵国であるジーノ公国の使者も来てくれていたので、彼らを立ち会わせる。停戦の申し入れを受けるに当たり、彼らの装備を丸裸にしたけど、ここまで言うことを聞いてくれるのは補給路が遮断されているからだね。元々は王国軍側だった冒険者集団の一部が、完全に退路を断ってくれたのは本当に大きい。




「レーニ将軍!?良かったのですか!?このまま大きな打撃も与えられずに撤退してしまえば、我々の面子は潰れますぞ!」

「仕方あるまい。右翼が完全に壊滅した上、左翼は反乱者が相次ぐ。この状況で中央軍だけで攻撃しても、悪戯に死体の山を築きかねん。……それに貴様も見ただろう。あの防御陣地を」

「……くそっ、せめて魔法騎馬隊が潰れていなければ」

「あの日の共和国軍の突撃は、確実に魔法騎馬隊を潰すためのものだろう。……好色爺とは言え、人を見る目はあった魔法騎馬隊隊長を欺いた奴がいるという時点で薄気味悪いものも感じる。これ以上続ければ、全滅していただろう」


今回の王国軍の総司令であるレーニとその副官は、ほぼ全ての装備を奪われ、徒歩で帰ることになった。馬すら渡した時点で、停戦という名の完全な敗北であり、彼らは意気消沈していた。


しかし出発時には7000人という規模の軍勢が、2500人しかいなくなっている時点で最早どうしようもない敗北であり、死ぬのも嫌だった彼らはライラの突き出した条件を呑むしかなかった。2人は王都へ帰りながら、今回の戦争の経緯を振り返った。


今回の戦争の始まりは、王国軍側の視点だと数人の軍からの脱走だった。衝突が間近となると軍から脱走兵が出るのはいつもの事だが、今回はそのタイミングが早く、脱走兵の数も膨らんだ。更に冒険者達の軍と騎士団の軍の仲が良くないのはいつもの事だったが、今回は殊更悪かった。


そのため、左翼をほぼ丸々冒険者の軍として固めてしまった。ファルカナス民主共和国の新聞が冒険者達の間で話題となっていることに、レーニ将軍は軍の仲が険悪になるまで気付かなかった。直接的な原因は冒険者主体の軍の司令官の報告が遅れたことだが、ライラの入れた冒険者達が巧妙に隠れて回し読みさせていたことも功を奏した。


そして中央の軍の精鋭中の精鋭、魔法騎馬隊の隊長を含む数名が売婦に殺された。これは騎士団側にとっては信じられない事件であり、同時に夜襲があったという偽報が流れたため、右翼と中央の騎士団の一部が同士討ちを始める。この同士討ちの被害は、夜中だったこともあり非常に大きかった。


一眠りも出来ずに、今度は中央軍へファルカナス民主共和国の常備軍を主体とした兵が襲う。彼らは決して深入りをせず、魔法騎馬隊だけを狙い打ちにして即座に反転、離脱した。それを追いかけた中央軍と右翼は、目の前に現れた防御陣地を見て固まる。あまりにも強固な防御陣地だったからだ。そこへ、投石機による岩や矢が降り注ぐ。


一旦撤退し、迂回しようと考えたレーニ将軍は左翼が反乱を起こしているという報告を聞き、勝利するにはもはや短期決戦しか望めないと判断した。出血を覚悟で攻撃を繰り返し、翌日には民主共和国軍を防御陣地から追い払うことが出来た。しかし追撃しようとしたところで、また同じような防御陣地が出現し、戦線は完全に膠着した。


夜になり、当然陣を張る王国軍だったが、民主共和国軍の使用していた防御陣地に中央軍と右翼の全員入れようとするとスペースが足りない。そのため、軍として妥当な距離を開いて別々に陣を張ったが、これが裏目に出た。


……最終日は、右翼が陣地を張った土地の周囲全ての森に火が放たれたところから始まった。左翼の一部の冒険者軍が完全に寝返り、後ろを取られていたことも災いし、右翼の大半は焼死した。両翼が潰れ、中央軍も精鋭は既にいない。目の前には、まだ余力があった状態でも大量の血を流したライラお手製の防御陣地。


どうしてこうなったのかと、レーニ将軍は悔やむ。生き恥を晒すよりかは、死ぬまで突撃を繰り返すべきだっただろうかと考えた。しかしこの中央軍すら壊滅的な打撃を受けると、最早ファルカナス王国軍は再起が難しくなるレベルの損害を被ったことになる。それだけは避けるべきだったと、レーニ将軍は自分に言い聞かせる。


王都に帰った後、レーニ将軍とその副官は軍からの除籍を言い渡され、新しい将軍が任命される。しかしもう一度軍を送り込む前に、ファルカナス王国の王都は混乱に陥った。

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