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幽焼け氏主催のデスゲームで最終結果が四位だった人の困惑

作者: 清水薬子


 バーチャルユーチューバーである幽焼け氏主催の「なろう系ラノベに『こんなラノベ俺でも書けるわwwww』と言った人を100人集めてラノベを書かせるデスゲーム」に参加していた清水薬子と申します。

 この企画は、五万文字十万PVを生存ラインという一つの目標として掲げ、各自で作品を投稿するというものでした。デスゲームですので、生存ラインを下回った作品は『死亡』するという面白い企画でした。


 さて、そんな企画に参加した執筆歴一年の私はいろいろと考えました。

 正直に言って、PVをアテに執筆をすると精神的に落ち込んでしまうので、ここは十万文字を目標に書いていこう。

 ストーリーのキーワードは『悪役令嬢』で書いてみることにしました。

 『悪役令嬢』を選んだ理由は、参考になる作品は沢山ありますし、私も過去に何作か読んだことがあるからです。


 さて、作品を書く前に思いつく限りの展開や要素を書いていきます。

 悪役令嬢といえばまず『恋愛的創作物』です。恋愛につきものなのはお邪魔虫……というか、愛し合う二人を邪魔する存在です。



 ここで、ふと考えました。

 恋愛もので二人の仲をかき乱す存在って、主人公に恋するような男の子……すなわち『悪役令嬢』ならぬ『悪役令息』なのではないでしょうか。

 振られて思いを鬱屈させる、そんなかませ犬的な男の子。

 乙女向け作品でそこそこ見かけるような気がするキャラクターです。


 面白そうだ、書いてみよう。

 そう思い立って完成した一話は、なんだかしっくりとこない。

 これは何が楽しいといけるのか、考えに考えてあることに気づきました。

 ややこしいのです、それはもう、致命的に。

 まず、主人公の行動原理がはっきりと明示できていない。

 これからどう行動するのか。

 何が魅力なのか、それどころかタイトルもイマイチ。


 迎えた作品投稿(スタートライン)前日。

 私は頭を抱えていました。

 参考に読みにいった作品はどれも面白く、自分と比較して悔しくなります。

 「こんなラノベ、俺でも書けるわ」?

 とんでもない、一話すら書けていない自分はなんというゴミ屑なのでしょうか。

 悩んでいても非情に時は過ぎ、時刻はデスゲーム開始まであと一時間。

 気持ちはさながらデスゲーム開始を告知され、見せしめとして無残に殺されるモブキャラです。

 何を書けば? どうすれば?

 困りに困り果てた私は、開き直ることにしました。


 そうだ、主人公を創作が好きな作家にしよう。

 それなら、『悪役令嬢』などの流行りに明るくても違和感はないし、好奇心を動機に行動させられる!

 そうと決まれば話は早い。

 タイトルは「悪役令嬢は作家になりたい」で行こう。


 そこまで考えて、私はまた頭を抱えます。

 どこかで見たことがある気がするタイトル。

 引かれる人はいるだろうが、「ふーん」程度です。

 副題で他と区別をつけよう、そこで私は創作や執筆に関することわざを見てみることにしました。


 それでもイマイチです。これといったものがない。

 ネットの海を彷徨いながら、ぼけーっとしていると私の目はとあるフレーズを捉えました。

 「ペンは剣よりヒ◯ノシスマイク!」

 「ペンは剣よりも強し」なら知っています。しかし、後半はなんだ?

 気になった私はクリックして程よくデスゲームを忘れながらネットサーフィンをしていた頃、ようやく本題を思い出しました。


 そう、私はデスゲームで生き残るために作品を書くのです。

 副題がぱっとしないなら、ことわざにパワーワードを入れてみることにしました。

 「ペンは剣よりも強し」この響きが気に入ったので採用。

 「悪役令嬢は作家になりたい〜ペンは剣よりも強しなら◯◯はもっと強い!〜」


 これはゴロがいい、口に出すのもなにか楽しい響きがあります!

 さて、◯◯になにを入れようか。

 創作のなかでも何かグッとくるもの……それも、何か人に認められないものの方が望ましいです。

 『最弱』とか『無能』のような何か……。


 そうだ、悪役令嬢が官能小説を書いたらどうだろうか?

 官能小説は大っぴらにできないものですし、普通に創作しているよりも多くのトラブルがストーリーに設置できます。


 こうして、「悪役令嬢は官能作家になりたい〜『ペンは剣よりも強し』ならエロは世界を救えるはず〜」というタイトルに決定しました。


 タイトルが決まったのなら、主人公の設定です。

 『悪役令嬢』はウェブ小説で良く見られるので、そういう界隈に明るい作家志望というスタートにしました。

 作家だと既に夢が叶っていて、良くも悪くも現実を見てしまいそうな気がしたのであくまで作家志望にさせます。

 目指しているけどなれない。

 二度目の人生というものがあれば、きっとどんな困難でも負けないキャラクターになります。


 するとどうでしょう。

 するすると書けます、書けるわ、書けちゃってる!!


 舞台設定は中世……ではなく、思い切って資料が多い近世に。

 創作の価値が低い時代にして、異世界から来た主人公の異質さを際立たせます。

 主人公の活動に便乗するキャラ、影響を受けるキャラ、反発するキャラを作り、大雑把に書いていきます。

 さて、ここで主人公の立ち位置を掘り下げることにしました。


 主人公は創作者です。

 他の創作者に対して、どんな気持ちを抱くでしょうか。

 妬み、嫉み、嫌悪、劣等、……そして敬意。

 優れた作品を羨望しながらも敬意がある、なんだか好感が持てます。

 なにせ、創作が発展していない世界です。

 折角、生まれた同じ仲間を攻撃するなんてナンセンス。

 逆説的に、創作を虐げる相手に対して不退転なキャラになりました。


 ストーリーもキャラも明瞭に。

 分かりやすく、先が見えるのにハラハラする小説。

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 書いていて分かりました。


 一話ごとにストーリーの落としどころをつけ、文字数は二千字以上三千字程度を意識。

 ややこしくなりそうなところは思い切ってカット。

 問題発生では主人公の不屈さを描写、解決では丁寧に世界観や舞台設定を解説、日常ではキャラクター同士の交流や魅力を演出。

 メリハリです。

 一話ごとにメリハリと主題に気をつけるのです。

 勝った……。

 一話を投稿し、五話までのストーリーを書いている私は五万文字達成は不可能ではないと確信します。


 そんななか、サイトのホームを覗くとそこには赤文字!

 感想です、早くも感想が来ました。

 クリックして見ます、なんと感想は長文のものでした。

 ひとしきり読んで、潤む視界をそっと拭いながら返信します。

 SNSの読了ツイートエゴサもしながら、執筆を続けます。


 そんなことをしている間に第一回中間報告の日が来ました。

 毎日報告していた私に抜かりはありません。

 日課とかした報告を幽焼け氏に叩きつけ、私は悦に浸っていました。

 ランキングに入っていないかもしれませんが、五万字突破を目標にしていた私は「まあ、私ぐらいは超えて欲しいものですね」とさながら貴族のように高みの見物です。


 結果は五位。

 思っていたよりも上でした。

 一位はなんと、同じジャンルの悪役令嬢もの。

 負けられない戦いがそこにありました。

 一日二回投稿をしていた私は、思い切って三回投稿をしてみることにしました。


 迎えた第二回中間報告。

 四位です。

 文字数は十万を超えたので、私はもはや悟りの境地にいました。

 十万PVは無理だろうけど、五万字超えたからあとは纏めて完結させるだけです。

 生存は出来なくても、完結させてやろう。

 他の参加者に向けての挑戦状も兼ねてやるつもりでした。

 執筆歴一年の、ちっぽけなプライドです。


 そして10/19の夜に完結させ、「あとは野となれ花となれ」の精神です。

 幽焼け氏に報告をした私は呑気に朝ごはんを食べていました。

 日課のホーム画面チェックをすると、何件かの感想が来ています。

 完結すると、お祝いに読者が感想を送ってくれるのでそれかな? と深く考えずになんとなしにアクセス解析します。


 いつもなら二千を超えることはなかったのに、何故か桁が爆発的に伸びています。

 完結ブーストか。

 そう深く考えていると、あっという間にその日だけで二万アクセスを獲得してしまいました。

 夢か? 幻か? そんな風に訝しんでいると、なんと日間ランキングに乗っていたのです。


 え? えぇ? 今、ランキングに乗っちゃうの……?

 生まれて初めてのランキング入り。

 嬉しさよりも困惑が勝ちます。

 困惑した私を他所に、アクセスは十万を軽く超えてしまいました。


 報告は既に終了し、迎えた最終結果報告。

 順位は四位をキープ。

 他に完結させた作者はいなかったため、きっと視聴者の記憶に強くなかったと思います。

 そして、報告を聞いている間にも伸びるアクセス、ブクマ、ポイント評価。

 嬉しいけど、なんか複雑な気持ちでした……。


 もし第二回のデスゲームに参加する方がいらっしゃいましたら、初動よりも完結のタイミングを気をつけた方がよいと思います。

 さもないと、私のように困惑した気持ちで最終報告を受けることになります。

ちなみにまだレビューを貰っていない……そしてまだランキングにいる……何が、一体全体、何が起きているんだ……!?

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