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黒の継承者は太平を望む  作者: 米の王
第1章 黒の継承者
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第8話 救出

(マスター。謎の生命体を確認しました)


 えぇ……。今、丁度、「何もなければいいなぁ」って、思ったところだよ。空気読まなくていいよ……。回収はっやぁ……。


(う、うん。それで、謎の生命体ってのは?)


 マズイ、動揺が思いっきり口をついて出た。少しこちらを訝しんでいる様子だ。


(……おそらく、魔物ではないです。しかし詳しくどの種族かと言われるとわかりません。全く身動ぎしていないところを見ると、動いていないのか、動けないのか……)


 見に行ってみるか。危険があるかもしれないが、今の戦闘力ならどうにかなるだろう。最悪、切り札の【黒光】もある。様子を見に行くぐらいなら大丈夫なはずだ。


(よし、その場所まで案内してもらってもいいか)

(分かりました)


 急ぎ足で、現場で向かう。その道中もその生き物は微動だにすることなく、その場にとどまっている。怪我をしていて動けなかったり、気絶してたりするのかもしれない。重篤な状態にあるのであれば助けなければ。


(この距離であれば魔力感知か空間把握でなるべく危険のないうちに情報収集した方がよろしいかと)

(そうだな)


 意識を集中させ、自然に満ちる魔力を捉える。完全に捉え切ると、自分の周りの世界が頭に投影される。リースの能力であるマップを三次元化したような感覚。

 件の生き物がいるあたりまで感覚を伸ばす。視界には決して入ることのない場所も魔力を媒介に読み取るのであれば話は別だ。障害物や距離は関係なしに、魔力を感知できる範囲なら全て俺の領域だ。魔力が無い場所でも空間把握によって情報収集は可能。

 本当に便利な能力だと思う。


 頭に浮かんだ立体のマップの中には人のような形をした何かがいる。これは、人間?いや、獣人か?うつ伏せで地面に倒れ伏しているが……。


 どうするべきか、恐らく意識を失っているのであろう。しかし、誰かしらの罠である可能性も否定できない。

 別の生き物に擬態して油断を誘う生物も多く存在する。実際にそういった魔物にも何度か遭遇している。人型の生物と言うのは常々、赤の他人に対してすら油断や気の緩みを誘発する。


 ……迷う事じゃないか。本当に獣人や人間であるのならば早急に助けるべきだ。それに何故かは分からないが今回は助けに向かった方がいいと直感がささやいている。こういう時は知識や経験よりも感覚の方が頼りになる。

 知識も経験もないけど。0歳児だから。

 だが、何の策も用意せずに突撃するのは愚者のすること。最低限の警戒は必要だろう。


(他の魔物が接近していないか、罠である可能性があるか、注意しておいてくれ)

(……分かりました)


 やけに返答までに間があったな。何か思うところでもあったのか?

 他の魔物を刺激しないように静かに移動する。

 ひっそりとその獣人の下に向かう。見たところ獣人の少女のようだ。獣人は、主としての大きなくくりの中に更に小さな種族がある。猫獣人や妖狐、白銀狼人などだ。この子が何の種族かまでは分からないが恐らく肉食獣の系譜だろう。


 この様子からして、やはり気絶しているようだが。……うん?チッ。


(……これは、マズイな。リース、近場でなるべく安全な所は?)

(……ここから100m、2時の方向に洞穴があります)


 急いで洞穴に向かう。可能な限り丁寧に抱きかかえて、移動するときも限界まで揺れが伝わらないように。

 安全を優先したせいで、100mが遠く感じる。緊張や焦りも相まって、冷汗が止まらない。他人の生死が自分に全て委ねられているという実感。が恐怖となって襲い掛かってくる。

 

(ここだな)


 少し時間はかかったが無事に洞穴まで辿り着いた。

 寝床用に回収したウルフの毛皮を広げ少女を寝かせる。傷口に触れないように俯せに。毛皮が血にまみれていくがお構いなしだ。


 獣人の少女の背中には、何か大きな魔物に食いちぎられた跡があった。肩甲骨当たりは肉まで完全に喰われ、骨すら砕かれている。少女が倒れていたところには夥しい量の血液が流れていた。

 常人が見たら卒倒するであろう悲惨な光景だが、幸いにも俺は何故かマイナスな感情に制限がかかる。

 この能力?があって本当に良かった。


(俺の魔法で治ってくれればいいが。こんなことなら光属性魔法も練習しておくべきだった)


 馴れない魔法を使うせいか、いつもより動悸が激しい。初めて本気で使うのが他人。これまで怪我をしないように限界まで用心してきたせいでこの魔法を使うことは全くなかった。ましてや、ここまでの大きな傷には。


「ふう」


 大きく呼吸をし息を整える。


「光属性魔法・治癒、拡張魔法・威力」


 限界まで魔力を込めて魔法を発動する。翳した掌から光が溢れ出し、少女の傷口に注がれていく。少しずつではあるが傷口が塞がってきた。傷が深すぎて本当に微々たるものだが。


(ッチ!やっぱ魔力が足りない。慣れない属性に加えて、この規模の傷を治すのは至難の業だ)

(イメージを強く持ってください。限界まで原理とイメージを高めれば効果はかなり上がります!完全に治癒し状態を想像してください)


 まだ、足りないのか。クソが!集中しろ!


 願いが届いたのか確実に傷の治る速度は上がってきている。だが、まだ足りない。何でもいい、どうにかして絞り出せ!


 魔力なんか当の昔に枯れ果てた。歯を食い縛り、不退転の覚悟と、生命力をもってして何とか発動し続ける。魔力を消費している時とは打って変わって全身の血が引いていくような感覚が襲う。死の足音が少しずつ、1歩ずつ近づいてきているのが感じられる。


 怖い。恐ろしい。……だけど、この子を救うことが出来ないことが何よりも怖い。


 どれだけの時間がたっただろうか。リースの叫び声で現実に引き戻された。


(マスター。治りました!もう、十分です!)

(そう、か。良かった。だが、もう限界だ。少しだけ、寝かせて、くれ)


 安心したからか、全身から力が抜け落ちていく。


―リースside―


 自分の主が眠りについた。魔力欠乏によって気絶しているのだろう。


「マスター、あなたは先代とどうして同じ行動を……。あの方が言ったとおりになりましたね」


 そうつぶやく彼女の声は嬉しそうでもあり、悲しみを纏っているようにも感じられた。

 だが、次の一言は確実に、喜びと敬意を示すものであったことだけは間違いない。


「これからは、偽りでは無い私の忠誠を捧げます。主」

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良ければよろしくお願いしますm(__)m

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