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黒の継承者は太平を望む  作者: 米の王
第1章 黒の継承者
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第1話 目覚め

 閉じた瞼の中が急速に明るくなってきた。それと同時に意識も覚醒していく。ゆっくりと目を開けると真上から注がれる光に顔が歪んだ。どうしてか、木の葉の擦れる音、風の音、鳥の囀り、そのどれもが新鮮に感じられる。宙に浮いているかのような感覚が全身を包み込んでいるのが分かった。

 ここは……。それに、俺は……

 暫くすると、さっきまでのふわふわとした感覚は鳴りを潜め、現実に引き戻された。一抹の不安を覚え自分の状況を確認する。

 どうしてか、意識はあるのにここが何なのか、自分が何者なのか、記憶までも、そのどれもに靄がかかったような、空白があるかのような気がする。それに、何故か思考がまとまらない。自分のことについて深く思考に入ろうとすると、軽く抑圧されるようだ。

 加えて、不思議なことにこんな状況でありながら大きな不安があるわけでもない。

 まあ、取り敢えず起き上がって、いまの自分の置かれている状況だけでも把握するか。 

 見た感じ、棺みたいな箱に入れられているっぽいな。それにしてもこの棺、真っ黒だ。周りの景色は……見渡す限りの森。

 棺を中心に祭壇のようなものがあるがその範囲を超えれば後は鬱蒼と茂る木々が広がるだけ。今自分がいる場所は少しだけ高所にあるようで少し遠くまで見渡せる。木々がそこまで高くないのもその要因だろう。

 見渡す限りの森。最早樹海だな。

 ここがどこなのか把握したかったんだが、この様子じゃ無理かな。だが、この規模からしてある程度有名な地域だろう。となると、候補は「レファスト大森林」か。もしそうだとしたらこの森から脱出するのにどれだけの時間がかかるのか、考えただけで恐ろしい。

 どれだけの広さかと言うと、端から端まで歩いておよそ1年程度だ。しかもこの森林はほぼ円形だから何処から入っても反対側までは1年かかる。森の中を進むわけだから馬車も使えない。徒歩だとしても普通の平野を行くのに比べると牛歩の歩みになってしまう。

 この祭壇が森の外周部にあることを祈るしかないか。

 ふと、空を見上げると太陽が丁度真上にある。

 正午、か。結構動きやすい時間帯だな。夜中にでも目覚めていたらどうなっていたことか。どうしても情報を得るためには視覚に頼ってしまうのが生物の性だからな。暗闇の中じゃ、視界どころか正気を保っているのすら難しい。

 そう言えば、不幸中?の幸いだが、裸じゃない。畏怖かはしっかりしたものを身に着けていた。

 黒の、所々に刺繍のあるローブだ。いかにもな魔法使いだな。

 それはさておき、ある程度最低限の情報は入手できたが、本当にどうしたものか。ぱっと見、生死にかかわるようなものは見当たらないが......。というか、どうして俺はここに?

 そこまで言って気が付いた。記憶がないにも関わらず知識がある。

 知識と言うか、知ろうとしたことを知れるという感じだろうか。さっき、この森が「レファスト大森林」かな、っと思っていたらレファスト大森林についての情報が自動的に頭に入ってきた。「レファスト大森林」そのものも、ここがどこなのか考えたら勝手に頭に浮かんだ。

 ……この能力があれば自分自身のことについて知れるのでは?

 そう思い至って、念じてみる。

 さっきのように何か情報が浮かんでこないか待ってみるが……何もなしか。自分のことについて知りたくても、ただ、無駄な思考が堂々巡りするだけだ。何か、少しでも情報が得たいのだが。いい手段は無いだろうか。


「あっ……そうだ」


 俺個人については何も情報は無かったが、この森については知ることが出来た。つまり、この祭壇については何らかの知識を得られる可能性はある。俺自身では無くて、俺に関係するであろう所から少しずつ情報を集めてみれば上手くいくかもしれない。

 関係するところと言っても目の前にある祭壇ぐらいしか見つからないが。

 見た感じ、所々蔦に覆われているが、黒色の建材で構築されているようだ。さっきまで俺がいた棺も濁りの無い黒―漆黒と言う方が正しいのかもしれない―で構成されている。特に装飾が施されているわけでは無いが色のせいで何となく高級感がある。棺の周りには円状に六角形の柱が立ち並んでいる。

 名前が分かれれよかったのだが、分からないから観察してみた。これで何か出てこないかな?


「おっ」


 ピコン、という音と共に目の前に半透明のボードが浮かび上がった。ボードの上には「補助人格起動」と無機質な文字がある。

 あれ?どゆこと?なにこれ。

 この祭壇について調べようとしただけなのに。

 この祭壇自体が何かしらキーの役割を果たしていたと考えるのが妥当か。この祭壇を調べることでこのボードが出現するのかも。

 ボードを観察してみると、「補助人格起動」の文字の下にはYES or NOとある。

 流石にYESを押したとこで、死にはしないだろう。自分でやっておきながら、不用心と罵られても仕方のない行為だな。

 ポチっとな。


(始めまして、マスター)

(うわっ!!誰!?)


 急に頭の中に声が響いた。慌てて周りを見渡してみるが、誰もいない。やはり、鬱蒼とした植物たちが広がるだけだ。


(私に実体はありませんよ。あと、私と会話するときは頭の中で話しかけてください)


 また声が聞こえた。取り敢えず、言われた通り頭の中で話しかけてみる。話しかけるというよりは、会話を想像するという感じかな?


(実体がない?えーっと、それで結局、誰なんだ?)

(自己紹介がまだでしたね。私は自立型補助人格です。簡単に言えばあなたの生活や旅をサポートする者です。人格といってもマスターが二重人格と言う訳では無くて、頭の中にもう1人人間がいると思って頂ければよろしいかと)


 本当に頭の中で会話出来た。勢いでYESを押してしまったが、特に害は無いのか……。いや、警戒はしておくべきか。


(なるほど、それは分かったんだが、どうして、今、出てきたんだ?)


 出てくるのであればさっき、森について考えてきている時でもよかったはず。


(予想されているとは思いますが、あの祭壇、に限らずマスターに関係することを知ろうとすることがカギになっています。ですが、マスターのことを直接知ろうとしても制限がかかって私は顕現できません)


 俺自身の情報については何らかしらの制限がかかっているのだな。直接的に知ることはできないが間接的にはその限りではないと。


(なるほど、何となくだが理解した。因みに、俺をマスターと呼ぶのは何故だ?)

(……それについては、まだお答えできません。マスターが己のことについて真に理解したとき全てをお話ししましょう)


 話せないなら仕方ない。気になることも多いが急かしたところで、か。いつか分かることなら、その時でいい。


(話は変わるが、何か名前はあるのか?自立型補助人格というのは呼びにくい)

(私に名前はございません。好きに呼んでいただいて結構です)


 だからと言って、名前の候補があるわけでは無いんだよな。うーん、自立型補助人格、か。自立……フリースタンディング……。リース、にしようかな


(そうだな、じゃあ今度からリースと呼ぶことにしよう)

(分かりました。今後私はリースと名乗ります)


 良かった。これでマスターのネーミングセンスはゴミ以下ですね、なんて言われていたら立ち直れないところだった。

 なんて、それはさておき。


(話を戻すが、逆に今話せることにはあるか?幾つか質問があるのだが、さっきのように答えられないことがあるならそう言ってもらって構わない)

(分かりました。可能な限り質問には答えます)


何にせよ現状把握が最優先だ。


 

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