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黒の継承者は太平を望む  作者: 米の王
第1章 黒の継承者
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第14話 異変

「ステア、もう直ぐらしいぞ!ここから出るまであと少しだ!」


 意図せず大声になってしまった。


「本当なのです!?やっとなのですよ!」


 思わず速足になる。この森に誕生してから一番動悸が激しい。

 もう速足を通り越して駆け足になっている。体に木々が当たって痛みが走るがそんな事お構いなしだ。

 ステアも同じように、って速い!ちょ、速いって!こんなところで身体能力の差発揮しなくていいから!

 少しすると、木々が低く、低木がメインになってきているのが分かった。森の終わりが近付いてきている証拠だ。その瞬間前方に連なっていた森が突如終わりを迎えた。

 周りを覆っていた木も無くなり、目の前には広大な草原が姿を見せた。


「……なんというか、言葉が出てこないな」


 足首程度までの草が生い茂った平野は風の流れでその形を揺らしている。波のように揺らめく草原は太陽の光を反射し煌めく。森の中にいた時よりも、風の感じ方が、日の当たり方が、空気感がそのどれもが決定的に変わった。普通に暮らしていたら嫌と言いうほど見慣れる景色だろう。だが、この景色に感動すら感じている自分がいる。

 太陽の明るさに目を細めながら、深呼吸をし全身にその空気をいきわたらせる。心が歓喜し、体も清々しく生まれ変わったかのような気分だ。生まれて90日しかたってないけど。


「ふわー」


 隣ではステアが目を見開いて驚いている。

 そうか、獣人は己の集落の付近から離れることはめったにない。特に成人前の獣人族はなおさら。下手すると生涯集落の存在する地域から出たことのない獣人もいるのかもしれない。成人前のステアからするとこの景色は見慣れないどころか、初体験に違いない。

 いや、まあ俺も初めてだけど。俺の場合はリースのおかげで知識を経験に近い形でインプットできるから。


「これが森の外なのです!?」

「初めてか?」

「初めて見たのですよ!こんな景色、話にしか聞いてなかったのです!すっごく綺麗なのですよ」


 これだけ感動してくれるなら、一緒にこの森を必死に抜けてきた甲斐がある。この景色を見せてやることが出来て良かった。


「ロドスさん、ありがとうございますなのです。この景色を見せてくれてありがとうなのですよ」

「これから、もっといろんな景色を見に行くんだぞ?この程度で驚いてたら死んじまうかもしれないぞ」

「それでも、この景色は感動したのですよ」


 改めて景色を観察してみると。左手側にはうっすらと黒塗りの巨大な城が見える。前方、草原を抜けた先には山脈が。右手側にはどこまで続くのか分からない広野が続いている。小さな木々が生えているのは分かるが平原は地平の果てまで広がっている。

 今から向かうのは左手側のあの城のあたりだろう。視認できるのであれば迷う必要もない。森の中だとマップの力に頼るしかなかった。


「いつまでもこうしているわけにもいかないか。そろそろ出よう。目的はあの黒の城だ」

「行くのですよ!」


 感動に浸るのはやめて、出発だ。道中何もなければいいんだがな。


(リース。この地域で何か注意しなければならない魔物っている?)

(特にいなかったと思いますけどね。見慣れない魔物が多いと思いますのでそれだけ注意してもらえば大丈夫かと)


 森にしか生息していない魔物、平原にしか生息していない魔物色々いるだろう。


(因みにどんな魔物がいるんだ?)

(スライム系とラビット系ぐらいですかね。スライムは全身から溶解液を出す上に他の生物に対して敵対的なため弱者にとっては脅威となります。しかし内部の核を破壊できる程度の戦闘力があれば十分に対抗出来ます。ラビット系はそもそも敵対しません。こちらから攻撃した場合を除いて戦闘には入りません。加えてこの一帯は黒国の周辺地域ですからそこまで凶悪な魔物は出ないと思いますよ)


 それは良かった。まあ警戒は解かないが。俺は今までと違って自分でもマップを展開している。今まではリースに任せっぱなしだったが、視界が開けたことで余裕が出来た。マップの方に意識を向けすぎると対応力が低下するから自分で展開しながら森を進むのは難しいのだ。これからは自分でもマップを使いこなせるように練習しておきたい。


「一応戦闘に入れるように準備はしておいてくれ。何かあってからじゃ困るからな」

「了解なのです」


 黒国に向かう道中、先代の事や国のことについて色々なことを聞いた。まだ、リース自身のことについては話せないらしいが。それでも先代のことについては詳しく語っていた。察するに元々は先代の側近か何かとして活躍していたのかも。

 ステアとも話していると、獣人族の中の黒の継承者の評価も大体分かってきた。

 そんなこんなでのんびりと歩いていると―丁度道のりの半分程度まで来ただろうか―異変を発見した。

 マップに謎の反応があったのだ。


「一旦止まってくれ」

「何かあったのです?」

「少し待ってくれ調べてみる」


 異変と言うのは、今まで見たことのない点がマップに浮き上がっていたことだ。黒枠に灰色の点がある。灰色は他人を示すものだが、黒の枠の意味が分からない。


(この黒い枠ってなんだ?)

(……マズいかもしれませんね。黒が示すのは死亡状態です。魔物に殺されたのか自滅したのか分かりませんが、厄介ごとの匂いがしますね。どうしますか?)


 これだけ巨大な国家の傍で放置されている死体というのは不可解だ。この一帯は往来もあるはず。人目につかない場所と言っても限度がある。


(取り敢えず様子を見に行こう。俺らでどうにかできることなら何ら頭のアクションは取るつもりだ。何もできない状態なら一旦黒国に急いで、助けを求める)


 魔物に殺されている場合、俺らにも危害が及ぶ可能性がある。臨戦態勢を整えておかなければ。

 ステアにその旨を伝え件の場所まで急いだ。


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