第13話 脱出
「ステア、今日でラスト1日だ」
「この森から出れるですか?長かったのですよ」
俺が誕生してから、約90日。ステアと出会ってから約60日が経過した。この60日間、本当に何もなかった!!!
毎日毎日、只々歩き続けるだけの日々。リースのおかげで魔物に遭遇することもほとんどない。道に迷う事なんかあるはずがない。そのまま何となく歩いていたら60日経っていた。最初は1人旅。途中からステアがついてきてくれたおかげで暇な日は無かったが、それにしても変化のない1か月だった。
一応戦闘訓練と魔法の運用については結構練習した。新しい能力もいくつか手に入れたが継承者に関係することでは無いから正直どうでもいい。
隣に目を向けるとシャキシャキしているステアがいる
ステアも流石に朝に強くなった。耳元で朝だと叫ばなくとも俺と全く同じタイミングで目を覚ます。戦闘かなんかで疲れた日はその限りでは無いが。
因みに俺を起こすことが出来なくなったリースは少しだけ不服そうだった。そこまでオカンになりたいのか?それともドSなのか?
それはさておき、さっきステアに言った通り今日で最終日だ。いつも通りの進度で行けばの話だが、ここまで来ると出現する敵も雑魚ばかりだ。敵に進度を乱されることは無いだろう。以前ほど手ごたえのある魔物はすっかり見かけない。ステアも楽しくないようでつまらなさそうな顔をしていた。この森を抜けてきた俺らはかなりの戦闘力を誇る。ある程度の魔物でないと相手にならなくなってしまった。
何気にこの生活も楽しかったのだ。1人ならここまで楽しめなかっただろうけど。仲間がいて、冒険にも似たワクワク感のある旅だった。
「どうしたのです?」
「うん?」
「何もないのに笑ってたのですよ?にやにやしてたのです」
顔に出てたみたいだ。地味に恥ずかしい。
「今日でこの生活も終わりか、と思ってね。何気にこの生活にも思い入れがあって……」
「私もなのです。マンティコアに襲われたときは絶望しかなかったのですよ。でも、その後の生活は楽しかったのです!ロドスさんのおかげなのですよ」
「ははっ、ありがとう」
取り留めのない会話をしているうちにも朝の準備は進んでいく。もう慣れたもので無意識も同じ動作を出来る自信がある。
ジャスト10分。出立の準備が整った。
「さて、最後の朝だな」
「なのです。意外と感慨深いのですよ」
ここまで来られたのも殆どリースのおかげだったりする。道を誘導してくれたのも、食材を探してくれたのも、その調理の仕方を教えてくれたのも全てリースだ。魔法の習得も俺1人じゃ不可能だった。
(リース、ありがとう)
(感謝は受け取っておきますが、まだ1日残っていますから。油断はしないでくださいね)
(勿論だ。最後までサポート頼む。それにこの森を出た後もどうせ世話になるだろうしな)
安全地帯まで出るまでは気は抜かないようにしておこう。
「ステア、そろそろ出ようか」
「分かったのです」
最後の寝床として使っていた洞穴を背に歩き出す。いつもと同じような寝床だったが1つだけ違う点があった。人が生活していた跡があったのだ。と言っても森の外周部なら採取や魔物の討伐で入ってくる人も多いだろう。恐らくそう言った人々が寝床として利用しいたに違いない。これも人里が近い証拠だ。
「ステア、人里に出たら何かしたいことある?」
「したいこと、と言うより獣人が差別を受けないところに先ず行きたいのです。まだまだ国によっては人間以外を差別しているような国も沢山あるのですよ」
そんな国があるのか。確かに人間に以外を排除したいというのは、自然界で絶対的な弱者である人間ならではの考えかもしれない。共存に対して恐怖を感じる人間も少なくないだろう。
(リース。近辺で獣人差別のない国と言うとどこだ?)
(ここから一番近いのは黒国ですね。逆に獣人差別が大きい国は聖国です)
先代が統治していたという国か。まだ俺の正体を明かすつもりは無いが過ごしやすいのであれば、行ってみるのも良いだろう。
(ところでその、聖国というのは?)
(継承者、それも白の継承者と言う、黒の継承者と対になる者が治めている国です。それに黒とは違い継承者には王となる義務が課せられます。人間至上主義を掲げており人間以外の生き物の排斥を目的として動いております)
(そんな国が存在することを先代は認めていたのか?)
聞いた話によると先代の黒は敵対するもの、特に他種族共存に反するものには容赦をしない人物だったと聞いている。
(手を出さなかったのではありません。出せなかったのです。この世界で今現在、超大国と言えば2つしかありません)
(なるほどな。戦を仕掛ければこちら側もただでは済まなかったということか。ところでその聖国はここからどれぐらい離れているんだ?)
(大陸がそもそも別です。それもあってこの2国は戦争したことはありません。にらみ合いは続いているようですけどね)
メリットが少ないうえに、デメリットは大きいと来たか。ハイリスクローリターンな戦いをわざわざ挑むことも無いだろう。それにその聖国が遠いなら、俺が獣人と一緒にいても訝しげな眼で見られることも少ないのではないだろうか。
よし、当面の目標は黒国だな。
「取り敢えず、黒国に行こうと思う」
「嬉しいのですよ!前々から行ってみたいと思っていたのです!所で、ロドスさんは王になるです?」
先代が治めていた国だから、俺もその後を継ぐって思っているのだろう。
「いや、俺は王の座を継ぐつもりはない。勿論国の為に動いたり、そういう人たちと関係を持ったりすることはあるかもしれないが王にはならない。ずっと旅を続けるつもりだしな」
それを聞いてほっとした様子だった。俺が王になったり仕官したら捨てられると思っていたのかもしれない。
「一緒に来るか?もし黒国でいい住処を見つけたらそこに永住してもいいんだぞ?差別が無いというのはそれだけで住みやすくなるだろうし」
「出来ればついていきたいのです。当然ダメと言われればお別れするのですよ。でも、邪魔にならないのであれば最後まで一緒に行きたいのです」
「当たり前だ。付いて来てくれると俺もうれしい」
1人よりは2人の方が、孤独よりも集団の方が、俺は楽しい。そっちの方が色々なことを楽しめる。出来ればほかの仲間も増やしたい。2人旅もいいがもっと賑やかでも楽しいかもしれない。
「じゃあ、旅の最初の目的地は黒国だな」
黒国についたら何をしようか、ステアと話し合う。
初めて文明に触れるから、衣食住のどれもを楽しみたい。特に食は重要だ。
そんな感じで夢を広げていると、リースが話しかけてきた。
(主、もう直ぐですよ)
(もう直ぐって、もしかしてもう外か!?)
(はい)
やっとだ。やっとこの森から出られる。
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