第11話 ステアの力
もうそろそろ起きる時間だな。最近は慣れたからか、リースに起こしてもらわなくても自分で起きれるようになった。最初の頃はひどかった。目覚めるまでに10分ぐらいかかっていたのだ。0歳児だからね。仕方ないね。
体内に生活リズムが完成していなかったからだろう。リースに何度起こされても、「あと五分」を繰り返したていた。若干切れてるリースは何よりも怖かった。
(主、さっきから散々な言いようですね)
「ひっ」
噂をすれば影が差す。余計なことは考えないようにしよう。そう言えば昨日から何故かリースの呼び方がマスターから主に変わった。理由を尋ねてみたが、「まだお教えしません」といってはぐらかされる一方だ。ただ最初に何故マスターと呼ぶのか訪ねた時はまだお教えできませんと言っていた、この変化は良い変化と受け取っていいのだろうか。
隣に目を向けると、まだステアはぐっすり眠っているようだ。先に進む必要がある。1日足りとて無駄にするわけにはいかない。寝かせておきたいのは山々だが起こすしかない。
ここまで気持ちよく眠っているのを起こすのは何か心苦しいな。世間が思うオカンならこんなときどうするんだろうか。一喝の下に睡眠欲なんて切り捨ててきそうだな。
「ステア、もう朝だぞ」
声を掛けつつ、揺さぶる。よっぽど眠りが深いのか、起きない。暫く揺すり続け、最後には耳元で「朝ですよー!」と叫んでようやく、身動ぎした。ゆっくりと起き上がる。因みに俺はオカンにはなれなかった。
「おはようございますなのです」
目はとろんと垂れ下がり、欠伸ばかりしている。目を擦りながらペタンとアヒル座りをしている様子は世界中の紳士たちの美しい心に大打撃を与えるのではないか?
アホなことばかり考えてないでさっさと準備しよう。今日はいつもと少し変わった変則的な動きの予定だからあまり悠長にするわけにもいかない。
「あと10分ぐらいで出るぞ。必要なものがあったら準備しておけよ」
「分かりましたなのです」
流石に目醒めたみたいだな。いやもう、これで寝てたら置いていく可能性出てくるから。よくこの調子で60日程度の期間しかないのに中央部まで来れたな。身体能力の差か。
因みに、俺が準備するものは、寝具や就寝中の警戒のために置いておいたアイテムの回収ぐらいだ。特に朝にしなければならないことは無い。強いて言いうならば歯磨きや、洗顔だろうか。石鹸らしい石鹸も、歯ブラシもまともなものは無いから即席で準備した簡単なものだが。こういう時は本当にリースがいてよかったと思う。可能な限り自然を利用する方法を伝授してくれる。仕方ないとはいえ清潔感が無いのは何か嫌だしな。
「ステアも使うか?」
「ありがとうございますなのです。使うのです」
ジャスト10分。2人とも各々の作業が終わり出立の準備が整った。歩きながら雑談もかねて話す。
「今日はステアの能力と戦闘について詳しく知りたい。先に進むのも大切だが、今日は二の次だな」
「分かったです。頑張るのですよ!ロドスさんにいい所見せるのです!」
気合いが入っているのは良いことだ。この調子で今日1日進んでいけばいいのだが。
〈リース、ステアの戦闘力を測るのにちょうどいい魔物がいたら教えてくれ。あまり強すぎるものだと俺がカバーできない可能性があるから、手ごろなもので頼む〉
〈かしこまりました〉
そう言えば、何か最近ステアの対応が良くなったというか、言葉の節々が丸くなったというか。偶に毒舌が混じるからそのたびにダメージを受けているのだけど。これは親しくなったと思っていいのか?
(そうですよ)
……。ガクガクブルブル。
(心読んだ?ねぇ、推察できる言動なんか1つもなかったと思うけど)
(……なんででしょうね)
妻の尻に敷かれる夫ってこんな感じなのかな。
隣のステアが訝しげな眼で見ている。……話題を、変えなければ。
「ステア、そ、そう言えばここに来るまでって戦闘しながら?それともひたすらに回避?」
「殆ど回避してきたのですよ。逃げられないときは戦ってたのです」
それにしては武器も何もない。獣人族は生来魔法を使うことが難しい種族だと聞いた。獣人族に伝わる特有の魔法は使えるのだが、今俺が使っているような属性魔法は苦手だと。
「何か戦闘に使え得るような物はあるか?」
「あるのですよ。猫獣人は基本的に爪を発達させて攻撃するのです。発達と言うか今の状態、爪が収まっている状態がどちらかと言えば異常なのです」
爪術がメインか。人間が使うものでは無いからどういう感じなのか予想がつかない。追々見せてもらうことにしよう。
「魔法は何か使えるか?」
「普通の魔法は無理なのです。でも猫獣人に伝わる魔法なら使えるのですよ。爪纏魔法と言うのがあるのです」
「名前からして、爪術に追加効果を付与するのか?」
「その通りなのです。私が纏わせられるのは雷、炎の2種類なのです」
雷か。そう言えば属性魔法の中に雷は無かった。何かしら修得方法は存在するのかもしれないが、リースが言ってこないということは現時点では習得できないと言う事なのだろう。
貴重な新属性だ。いつか俺の魔法属性が聞かない敵に遭遇するかもしれない。雷属性だけが弱点と言う敵も少なからず存在するだろう。それに火ではなく炎と言うのも気になる。これも俺は持ってない属性だな。
「他の属性は覚えていないのか?それとも覚えることが出来ないのか?」
生涯で覚えられる属性の数が2つに制限されている可能性はある。
「まだ覚えてないだけなのですよ。他には氷属性があるのです」
どの属性も俺の知らない、持っていない属性ばかりだな。
「氷属性を覚えることはできるか?」
「今すぐは難しいのです。どうしても適性があるので覚えやすいものと覚えにくいものがあるのですよ。ごめんなさいなのです」
「気にしなくていいよ。炎と雷だけでも、俺が使えない属性だから頼もしい。ああ、忘れていた。出来ればでいいんだが、ステータスを見せてもらえないか」
「いいのですよ」
名前:リカイッド・ステア
年齢:15歳
性別:雌
種族:獣人(猫)
称号:
能力:〈???〉
魔法:「付与魔法」
技能:「爪術」「身体強化」「夜目」
備考:
結構知らない能力もあるな。特に技能の方は俺も個人的に習得したいものばかりだ。
役職被ってなくてよかった。同じような人が2人集まるとどうしても対応力には欠ける。連携はしやすいが今は、種類の方が重要だ。
暫く雑談をしていると、リースが口を開いた。
(近場に5体程ゴブリンが群がっていますがどうされますか?)
ゴブリンか。ステアが1人で相手をするには多いがある程度俺が間引きした後なら十分安全に戦えるだろう。
(分かった案内してくれ)
「ステア。近場にゴブリンを見つけた。5体ほどいるが最初俺が間引きするから残ったのを倒してもらってもいいか」
「分かったのですよ!いい所見せるのです!」
気合十分。空回りしないといいが。
ふとステアが不思議そうな口調で訪ねてきた。
「所で、なんでゴブリンがいるってわかったのです?私ですら全く気づけなかったのですよ」
今更だが、ステアにはリースのことを話していない。いくら何でも頭の中に自分ではない誰かがいるなんて言われたら怖いだろうし、イタイ人と思われたくない。りいーすにも相談して黙っておこうという話になっている。
だが、訊かれたうえでウソをつくのは何となくいやらしい気がする。信じてもらえなかったらその時はその時だな。嫌われなけりゃ勝ち。
「信じにくいのだが、頭の中に俺をサポートしてくれる人格―もう一人の人間―のようなものがいるんだ。リースと言うんだが、彼女がいろいろな所でサポートしてくれている。実はステアを見つけることが出来たのもリースのおかげだったりしたりする」
「なるほど!リースさんありがとうございますなのです」
うん?
「疑ったりしないのか?現実的に考えてこんな妄言信じがたいと思うんだが」
「継承者様を疑ったりしないのですよ。それにウソだとしても私を助けてもらったことには変わりないのです」
いい子!
(いい子!)
後ろめたいことばっかしてるクソ共にこの清純さを見せつけてやりたい。きっと改心して自首することだろう。
(リース、ねえねえ今どんな気持ち?)
(少し主にイラっとしますが、とても嬉しいですよ。私も受け入れられないだろうと思ってしましたから)
だが、黒の継承者だから、というのは最早恐怖すら感じるな。慕ってくれるのは有り難いし嬉しいんだが、盲信に近いものがある。俺が言ったことを全て鵜呑みにするようなことが無ければいいんだが。飽くまで先代は先代であって決して俺じゃない。
「まあ受け入れてくれるのは嬉しいよ。ありがとう」
「これぐらい余裕なのです!」
やっぱ何言っても信じてしまいそうだな。
(主、もう直ぐゴブリンと接触します)
(了解、お手並み拝見と行こうか)
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