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黒の継承者は太平を望む  作者: 米の王
第1章 黒の継承者
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第0話 黒の死

 バラクザード王国。通称「黒国」と称される国家。世界屈指の大国である。その国の王城、謁見の間は、今夥しい生物で埋め尽くされていた。

 本来は神聖かつ粛然とした空気が満たすこの空間は嗚咽と悲壮感に溢れている。ここに集まっている生き物は人間だけでない。獣人、山小人、森人、魔物、悪魔、聖霊、ありとあらゆる種が一堂に会している。そして、その誰もが、ある1人の人物に敬服し跪いていた。

 その表情に絶望感を滲ませている者が大半。だが、1人として言葉を発することは無い。暫くの沈黙が空間を支配し、静寂すら煩わしく感じるようになった頃、崇拝の対象となっている人物が口を開いた。


「皆、私の為に忙しい中集まってくれて感謝する。……私の寿命も残り少しだ。後10分もせずに消滅するだろう」


 一言一言に全員が注意を払い、傾聴する。


「私がこの場に立って30年近くがたった。種族間のまとまりもなく、本当に名前だけの国家だったことを覚えている。いつ滅ぼされてもおかしくない、いつ滅ぶか分からない状況だった。だが……」


 言葉が1つ1つ紡がれていくたびに、感情の奔流は激しさを増し嗚咽だけでは収まらず、涙を流し始めるものもいる。

 今話している彼がバラバラだった種族をたった1人でまとめ上げこの世界屈指の大国に育て上げた張本人だ。この国を治めている王である。


「本当に立派になったものだ。……案ずることは無い。お前たちは十分に成長した。例え私が、継承者がいなくてもこの国を導いて行けるだろう」


 言葉の節々には赤子をあやすかのような優しさが籠められている。だが、その言葉を受けても周りの様子は芳しくない。

 皆の言葉を代表するように、王の側近が答える。巨大な漆黒の角と翼、鬼のように歪んだ顔が特徴の悪魔だ。本来、他種族との共存を望まないであろう彼も、この王に魅せられてその生を共にしてきた。最古参かつ、この国最大の戦闘力を誇っているが故に、王の側近として戦士団団長の位に座している。だが、その屈強な悪魔の顔は咽び泣く幼子の様に歪められ、嗚咽を漏らしている。


「この国を作り上げたのは、王自身です。王がいたからこそ我々は、ここまで生き抜くことが、出来たのです。この国家は陛下がいるからこそ、ここまで強固な国としてこの世界に建っているのです。陛下の居ない国など……」

「どうしようもないことを、クドクド言っても仕方ないだろう?我ら、黒の血脈がいない間この国を支えることが出来るのはお前らしかいない。それに、これは昔から私がこの国の王として君臨したときから分かりきっていたことだ」


 王が語ることは、この世界では当然の事実だ。だが、側近の悪魔はそれすら認めることが出来ないように、頑なに否定し続ける。いや、この場にいる者どもの心を代弁しているだけなのだろう。当然の事実を認めることが出来ないのだ。

 いかに、自分たちにとって陛下が大きな存在だったのかを理解してしまったがゆえの行動だ。


「我らが慕っているのは決して黒そのものではございません。我らの王は陛下ただ1人だけなのです。次代の継承者様も、確かに陛下と同じ力を有しております。ですが……」

「それが聞けただけでも十分だ。王名利に尽きる」


 ほとぼりが冷めたように、再び静寂。


 どれだけの時間がたったのか分からない。だが、永遠と思われるような無音にも、終わりは訪れる。


「もう直ぐだ。次代の黒がこの国の王として君臨するかどうかは私にも分からない。だが、私は、私よりも優秀な、この国の王足る人物が君臨してくれることを願っている。それまで、どうか私の宝であるこの場所を導き支えていってくれ」


 誰もが、その言葉に決意を新たにした。中には泣き崩れるものもいる。絶望に表情を歪ませるものもいる。しかし、その決意だけは皆に共通しているものだろう。自分が敬う人にここまで言われてしまったら、その命を遂行するしかない、という心の表れだ。


 だが、王はその様子に何となく納得がいっていない様子。

「……最後くらいは笑ってくれてもいいんじゃないか?そんな顔で見送られたら天に昇れるものも昇れないじゃないか」


 ぎこちない、不器用な笑みが空間に満ちていく。最早笑顔と呼べるものではない。


「ははっ。何とも不器用な奴らだ」


 だが、皆が、心の底から浮かべる笑顔は何とも言えない強さと、美しさがあった。


*


天黎記407年第11代バラクザード王国国王ノヴァ・ロドス 没


 後世の書物ではこの人物についてこのように記されている。


 「天黎記における、万象の王である」と。

 戦闘力、統治能力、指揮能力、謀略、外交、王としての全ての能力において最高位の力を有し、そしてそれだけの力を持ちながら、稀代の人格者であった。戦争が日常茶飯事に勃発していた時代、仮初とはいえ一時的な平穏が訪れたのは彼の力だろう。当然水面下での工作は絶えないが世界全体が国家ではなく、1人の王に畏怖し反感を買わないように自粛した。

 そんな強大な力を持つ彼が死んだことで世界は、戦火へと身を投じていく。後に第二次戦乱記と呼ばれる時代への突入である。

この小説を読んでいただき、ありがとうございます!

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