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第9話 『管理師』の能力

「…………――――ん、ん~……」

「目を覚ましたか?」

「……ご、ご主人様、申し訳、ございませんの……」


 既に日は暮れ、料理も出来上がり、暇を持て余した俺がローゼの寝顔を見ていると、彼女はようやく目を覚ました。


「俺が言わなくても、ローゼは自分で分かっているだろ?」

「はいですの。魔法(・・)が使えたのが嬉しくて、はしゃぎすぎてしまいましたの。これからは気をつけますの……」


 俺は、ローゼがはしゃいでしまったのは仕方ないと思っている。既にゴブリンの時にお説教をしているので、今回はお小言は言わない……つもりだったのだが、少々気になった。


「ローゼが使ったのは魔術(・・)じゃないのか?」

「わたくし、魔術士のクラスになっていませんの。だから魔術は使えませんの。それでも魔法であれば、適正と魔力があれば使えますの」


 俺には魔力がアホほどあるのだが、どうやら適正がなかったようで、魔術どころか魔法にも縁がなかった。それでもこの世界にきた当初は、『もしかしたら』に賭けて魔法だか魔術だかの練習を散々した……というか、元嫁にさせられたものだ。

 だが無理だと分かって諦めてしまった為、魔法と適正の事など綺麗サッパリ記憶から消えていた。


(でも今のローゼは攻魔術士だから、魔術を使えると思うんだよな。ってか、この事はやっぱ伝えたほうがいいかな?)


 そう、まだゴブリンの襲撃を受ける前、俺はローゼのステータスを確認し、彼女のクラスを変更していたのだ。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 遡ること約半日前、半透過で緑色のディスプレイが映し出されていた。


名前:アンネローゼ・フォン・シーベルグ

種族:人族

年齢:14歳

性別:女

職業:貴族令嬢/奴隷

クラス:【初級】伯爵令嬢 レベル21


スキル

・礼儀作法 レベル4

・舞踏 レベル2

・刺繍 レベル1

・向上心 レベル6

・魔力制御 レベル3

・魔力欠乏症耐性 レベル4

・奉仕 レベル1

・献身 レベル1


主からの供給による時限スキル

・体力増強 残91%

・魔力増強 残99%


加護:攻魔の才


【隷属主】ヨシュケ・ムトゥー



 初めてローゼのステータスを見た際、気が動転していた俺はスキルなどをすっ飛ばしていた。だから今回は、しっかり確認する事に。

 改めてステータスに目を通した俺は、ローゼが伯爵令嬢クラスで得たのであろうスキルに驚いた。それは、魔物が外を闊歩するこの世界で、なんとも役立たなそうな物が並んでいたからだ。

 しかし一番の驚きは、向上心というスキル。そしてそのレベルの高さだった。


「まあなんだ、ローゼの思い込みの激しさは別として、確かに向上心はあるよな。あれって、スキルで底上げされてるんだな。ある意味で納得だ」


 そもそもスキルは、どのクラスでもクラスチェンジ可能レベルまでの間に、必ず1つはクラス固有スキルが取得できる。

 【初級】伯爵令嬢レベル21のローゼは、クラスチェンジ可能レベルの20を超えているので、礼儀作法・舞踏・刺繍、この中のどれか1つを固有スキルとして取得し、残り2つは運良く取得できたのではないか、俺はそう推測した。


 固定スキル以外でも運や努力した結果、クラスに適したスキルが取得し易くなる為、複数のスキルを取得できる場合がある。

 また、滞在クラス意外のスキルでも、これまた運や努力でスキルが取得できる事が稀にあるのだ。ローゼの場合、運か努力かわからないが向上心を取得し、魔力欠乏症耐性と魔力制御も得たのだと思われる。――スキルは本来、ぽんぽん気軽に取得できるものえはない為、ローゼはかなり強運の持ち主だ。


「そう考えると、向上心が元々あったローゼだからこそ、スキルが生えたのかもな。それに魔力制御。魔力が殆どなくて魔術が使えないのに、めちゃくちゃ努力してたんだろな。ローゼは頑張り屋さんだ」


 そんなローゼは、不可解なスキルも取得していた。


・奉仕 レベル1

・献身 レベル1


「奉仕と献身って、絶対に伯爵令嬢のスキルじゃないし、そんな事を頑張ってた訳ないよな……」


 常識的に考えて、伯爵令嬢は従者に献身的に奉仕される身分だ。逆である事は考えられない。となると、どう考えても隷属化で生えたスキルだろう。


「それから、主からの供給による時限スキルも、十中八九俺の影響だよな……。ってか、体力がなさそうなローズが元気なのって、多分これの所為だよな? でも、いつ俺がローゼにそんなのを供給した?」


 俺は思い当たる事がないかと記憶を探る。


『ヨシュケさんとアンネローゼちゃんの契約成立よ~』


『急にお腹の中が熱くなってきましたの。しかもそこから体中に魔力がみなぎってきてるような感じがしますの』


 あ、これだ、と俺は気付いた。

 俺はローゼの純血を散らした後、女神アンネミーナから”管理師”のクラスを与えられた。そして得たスキルの影響だろう、流れでローゼと隷属契約が成立。さらに契約成立後、ローゼは魔力を得ている。しかも下腹部でそれを感じていた様子を見せていたのだ。


「あれって、直前に俺が放った(・・・・・)やつだよな?」


『与助さんのお名前に相応しい内容になってます~』


 不意にアンネミーナの言葉を思い出した。

 俺の日本人時代の名である与助とは、与えて助けると言う意味で、付与と補助とも言える。


「名前に相応しい内容って、そういう事だったのかよ……」


 俺の問に答えず、説明もなしに一方的に喋っていたアンネミーナだったが、一応ヒントのような事は口にしていたのだった。


「でもなんで『管理師』なんだ? それなら『付与士』とか『補助士』で良かったんじゃねーのか?」


 自身のクラスについて、少しだけ理解を深めた俺だが、本当の意味での理解には至っていなかった。だからこそ考える。なぜ『管理師』なのかを。


――――!


「確か俺には【隷属特化】の”管理”ってスキルがあったよな? そのスキルで隷属化した奴隷を管理できる、すなわち『管理師』……って事なのか? まあそれは今考える事じゃないな。――それはそうと、管理っていってもどう管理できるか分からんな。単純に命令を聞かせられるって事? で、レベルが上がると命令できる内容を『命を懸けて俺を守れ』とかできる、とかかな?」


 説明不足な女神の所為で、俺はとにかく推察するしかなかった。


「命を懸けるとかはともかく、管理ってくらいなんだから、クラスを俺の都合の良いのに書き換えられて、管理し易くできるとか――」


 俺はそんな夢物語のような事を考えつつ、ローゼの『クラス:【初級】伯爵令嬢 レベル21』の項目を、脳内で無意識に触っていた。すると、ポップアップウインドウのようなものが開き、クラス一覧が表示されたのだ。


【中級】伯爵御令嬢


【初級】攻魔術士 魔術士 遊女


 中級は選択肢が一つであったが、初級は複数の選択肢が表示された。しかし、どれもグレイアウトというか灰色で表示されており、選択可能であろう白文字での表示は、『攻魔術士』『魔術士』『遊女』の三択であった。――間違っても遊女は選択しないので、実質二択である。

 しかし、変に戦士系が選択できてもローゼには意味がないのだから、この二択は喜ばしいと言えよう。――もう一度言おう、『攻魔術士』『魔術士』の二択だ。


「あれ? 初級の魔術士系統って、魔術士一択じゃなかったっけ? 俺が知らないだけかもしれないけど、この攻魔術士ってなんだ?」


 俺の知識には、初級の魔術系統は回復や呪術系統などもひっくるめて、魔術士しかない。だが実際に提示されているのだから、あるがままを受け入れるしかないだろう。


「クリックしてもローゼのクラスは変わらないと思うけど、まかり間違ってステータスが書き換わったらまずいかなら。ここは慎重にいこう」


 ここで俺が『【中級】伯爵御令嬢』に触れ、ローゼがクラスチェンジをしたとしよう。どう考えても冒険者として役に立つとは思えない。『遊女』に至っては、『便女』『便姫』『性女』へと繋がる最悪な系統だ。

 碌でもない未来しか見えない罠のような選択肢に、何があっても触れる訳にはいかない、絶対に!


 試しにクラスの内容を確認するなら、役に立つ『攻魔術士』だろう。……いや、本当に慎重になるのであれば、『魔術士』を選ぶべきだと俺も理解している。

 しかし、ローゼの持つ加護”攻魔の才”が活かせそうな、『攻魔術士』という未知のクラスがあるのだ。どんなクラスなのか確認したい気持ちが俺を突き動かす。

 そして俺は己の本心に従い、恐る恐る『攻魔術士』の文字に触れる。といっても、実際に手を伸ばさなくとも、脳内でクリックする感じで大丈夫な事には気付いた為、俺の体は動いていない。



名前:アンネローゼ・フォン・シーベルグ

種族:人族

年齢:14歳

性別:女

職業:貴族令嬢/奴隷

クラス:【初級】攻魔術士 レベル1


ユニークスキル

・魔力回復上昇【隷】 レベル1

・消費魔力減少【隷】 レベル1

・奉仕【隷】 レベル1

・献身【隷】 レベル1



(ちょっ! あの女神、マジ鬼畜だ)


 声を出さなかった自分を褒めてあげたい。


 予想どおりというか最悪の懸念どおり、ローゼのステータスが書き換わった。

 クラスの説明が出るでも、『変更しますか?』などの警告が出る事もなく、即座にクラスチェンジしている。

 慎重に行動して良かった、と俺は胸を撫で下ろす。


「それにしても、『管理師』の能力は凄いな。多分、隷属してる者のみなんだろうけど、神殿のチェンジの間に行かなくても、クラスチェンジができるんだな」


 通常、クラスチェンジは神殿にある”クラスチェンジの間”でなければできない、と言われている。それが限定的であれ、何でもない場所でできるのだ。これだけでも『管理師』の能力がずば抜けていると言えるだろう。


「何より、選択できるのが凄いよな」


 クラスチェンジは、個々のそれまでの活動によって選択肢が変わる。しかし、相応しいクラスが復数選択され、その中からランダムで決定してしまうのだ。――その観点で言うと、ローゼにとって『遊女』は相応クラスになるのだが、俺の中でそれは無かった事にした。


 それはさておき、例えば戦士系の一般クラスから初級へクラスチェンジを試みたとする。

 軽戦士を目指して頑張ってきた結果、軽戦士と重戦士が選択肢として挙がり、いざクラスチェンジをしたら重戦士になってしまった、というような事は多々ある。

 そういった場合に再チェンジはできるのだが、様々な要因で復数のデメリットがあり、渋々ながら望まぬクラスを続ける者は多いのだ。


 それらを考えると、望み通りのクラスになれるメリットは大きい。特に今回のローゼは、よくわからないが通常では選択肢にも出てこない攻魔術士になれた。ある意味大勝利である。いや、攻魔術士の説明がなかった現状、大勝利かは不明だが……。


「でもまあ、普通はクラスチェンジしただけでスキルは得られないのに、なんか知らんがローゼは二つ、それもありがたいユニークスキルを貰ってるんだよな。これは当たりクラスって事だよな?」


 奉仕と献身スキルに【隷】が付いてユニークスキルに変わっているが、それはどう受け止めれば良いのだろうか。


「もしかすると当たりクラスだったんじゃなくて、『管理師』でクラスチェンジした結果なのかな? スキル名に【隷】って付いてるし……」


 なんにしても現状は、悪い結果になっていない。――【隷】から目を逸しつつ。

 しかし、不明な事はまだまだ多いのも事実。たまたま今回は良い方向の結果が出たが、逆の結果になっていた可能性もある。検証しなければならない事は多々あるが、焦らず慎重にやっていこう、そう俺は思った。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 といった感じで、俺はローゼのステータスをいじれるのだ。眠っている美少女をガン見しながら、あーじゃないこーじゃなと言いつつ。

 そんな『管理師』の力により、今回はゴブリンとの戦闘で助かった。

 だがよくよく考えると、そもそも魔術の練習をさせなければ戦闘になっていなかっただろう。そう思うと、良かったのか悪かったのか微妙な気分になってしまう。


 それはさておき、ローゼに事実を伝えるべきか、俺は頭を悩ませる事に……。


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