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第21話 悪役令嬢風再び

「それではご主人様、わたくしは講習を受けてきますの」

「しっかり聞いてくるんだぞ」

「はいですの」


 無事に冒険者登録が済み、念願の冒険者となったローゼは、新人冒険者が必ず受けなければならない初心者講習を受ける為、担当のギルド職員と受講室へと向かって行った。


「それではヨシュケ様、ギルド職員に冒険者としてご相談(・・・)がおありとの事、こちらに部屋をご用意いたしましたので、どうぞ」

「よろしくお願いします」


 新人冒険者が多く集まるシューレーンでは、人の出入りが少なくなる時間帯に、ギルド職員が冒険者の相談を受けるサービスを行っている。俺はそれを利用し、ヒルデと話しができるようにしてもらったのだ。


 それはそうと、ローゼの冒険者登録だが、問題なく(・・・・)冒険者証を発行してもらっている。

 そもそも冒険者は、貴族に限らず偽名で登録したりできるが、それでも最初は鑑定室でしっかり身元が暴かれるようになっていた。そうでなければ、罪人が好き勝手に身分証でもある冒険者証を発行できてしまうからだ。

 なんでもギルドにある鑑定晶は、罪人など問題のある人物が登録されており、必ず本人の素性が暴かれる仕様なのだとか。

 なのでローゼも、しっかり身元を明かした上で、必要情報を改竄してもらった。


名前:アンネローゼ・フォン・シーベルグ

種族:人族

年齢:14歳

性別:女

職業:貴族令嬢/奴隷

クラス:【初級】攻魔術士


 本来ならこのように明記されるのだが――


名前:ローゼ

種族:人族

年齢:14歳

性別:女

職業:冒険者

クラス:【初級】魔術士


 偽名というより愛称であるローゼを名前とし、家名は明記していない。

 職業からは『奴隷』を削除。

 奴隷は本来、身分証になる各種証明証から、自身が奴隷である事を削除してはいけない決まりがある。しかし幸か不幸か、俺との隷属契約では奴隷紋が首に印されない為、外見から奴隷である事が見て取れない。ならば公的な証明書になる冒険者証に、わざわざ『奴隷』の文字を残しておく必要はない、と俺はそう判断した。――そもそも、奴隷証明書なる物が発行されるらしいが、俺とローゼの間にそんな物がない。

 最後にクラスだが、ローゼはレアな『攻魔術士』だ。いや、むしろ聞いた事がない、謂わばオンリーワンクラスかもしれない。となれば、それもまた要らぬ注目を集めそうなので、『攻』の付かないありふれた『魔術士』としたのだ。


 この世界には鑑定晶と言うステータスを確認する水晶がある訳だが、鑑定する側が鑑定系統のスキルを所持していなければ、表示される情報は名前などの6項目だけなのだ。――鑑定持ちのギルド職員はほぼおらず、スキルなどが表示される事はまずない。

 そして冒険者証に登録されるのもこの6項目だけなので、スキルなども含めた完全なステータスは必要なく、鑑定結果から6項目が自動で冒険者証に記されるだけだ。

 しかし、冒険者には素性を偽った貴族なども登録するため、このステータスは受け持ったギルド職員によって書き換えが可能になっている。

 ただし通常は名前を書き換えるだけで、他項目はそのままというのが原則だ。

 それでも原則がそうであっても、絶対に許されない事ではないため、今回はヒルデが必要と判断した、という事で書き換えを行なっている。

 また、後に問題があった際、巻き込まれたくないギルドは不要な情報を抱えていたくない為、書き換えられる前のデータを保持しない。なので、ローゼの正式な情報を知るギルド職員はヒルデだけだった。


 さて、俺とローゼの2人だけといえど冒険者として組むのだ。それは即ちパーティという事になる。

 ヒルデから、パーティ登録も同時にしてしまえば良いと言われたのだが、俺はパーティ名など考えていなかった。するとローゼが、ニヤリと悪い笑みを浮かべて口を開く。


『シュッツシュバルツで決まりですわ』


(おや? ローゼの雰囲気が変わった。それに語尾がいつもと違う)


 左手を腰に当て、右手を伸ばして人差し指をビシッと俺に向けたローゼが、いつかの高飛車……というか、悪役令嬢風な口調でそう言った。

 俺は何故そのパーティ名なのかが気になり、その意味を問うてみる。――ローゼが悪役令嬢風なのはスルーだ。


シュバルツ()はご主人様の色。そしてご主人様は雑魚いですわ。そんなご主人様をわたくしがシュッツ(守る)。だからシュッツシュバルツ(ご主人様を守る)でしてよ。オーホッホッホ―』


 巨とは言い難いが、14歳にしては立派な双丘の下で腕を組み、軽く顎を上げて俺を見下すような視線を向けてきたローゼが、愉悦の表情を浮かべながら最後は高笑いをしていた。

 俺が『雑魚い』という扱いに問題はなかったが、やはりローゼが高飛車なのは気に入らない。なのでペシッとチョップを入れ、ローゼを通常形態に戻した。

 それでもパーティ名は受け入れる。俺としては何も思い浮かばず、考えるのも面倒だったからだ。



「やっぱり回復できましたね」

「そうだね」


 ローゼを見送り、再び二重防音が施された部屋にやってきた俺とヒルデ。茶の用意を済ませたヒルデが俺の対面に座ると、俺はヒルデが自分で切った腕に回復スキルを使った。元が軽く切っただけだったので、その傷口はすぐに塞がり元通りだ。


「ではヨシュケ様、私のスキル鑑定をお願いできますか。まずはステータス上の私を知っていただきたいので」


 隷属関係になれば、回復が自分に適用するのは当然だと思っていたのだろう、ヒルデはすぐに話題を切り替え、鑑定をしてくれと言いながら美しい笑みを湛えて右手を差し出してきた。

 俺は握手を求められているのだと思い、軽く握手して「よろしく」と言うと、すぐに手を離してしまう。


「あの、鑑定はもう済んだのですか?」

「今からするよ」

「え? では」


 困惑の表情を浮かべたヒルデは、再び右手を差し出してきた。

 俺にはヒルデの意図がわからない。


「その右手は?」

「鑑定晶を使わない鑑定は、対象人物に触れている必要がある筈ですが」

「いや、俺は触れてなくても鑑定できるよ」

「はぁあ? 鑑定晶を使わず、対象人物にも触れずに鑑定できるって、鑑定系の最上位のスキルよ」


 また言葉遣いが素になったヒルデが驚いているが、俺の鑑定はそういうものなのだから、驚かれても困る。

 そもそも”管理師”のスキルは謎が多く、俺自身も鑑定スキルを使いこなせている訳ではない。そして”管理師”関係は、一般的な事を当て嵌めるのはナンセンスだと思っている。


「隷属してないと『鑑定不可』って出るけど、ローゼには触れてなくても見れたから、完全に限定的なスキルだと思う。だから、誰これ関係なく鑑定できる便利スキルではないっぽいけどね」

「それでも凄いわね」


 そんな会話をしつつ、俺はヒルダの鑑定を始める。


名前:ブリュンヒルデ・イェーリング

種族:人族

年齢:19歳

性別:女

職業:冒険者ギルド職員/奴隷

クラス:【初級】事務 レベル6


スキル【統合】

・豪炎 レベル3

・風翼 レベル2


スキル

・奉仕 レベル1

・献身 レベル1


加護:先導者


【隷属主】ヨシュケ・ムトゥー



 ヒルデの年齢は19で、俺の実年齢より一回りちょっと下。――見た目は今の俺の方が若く見えるけど。

 だがヒルデは、整った顔の造りの影響で大人びた見た目をしている。なので、見た目よりは少し若い年齢だ。

 クラスは上級の魔導騎士と聞いていたが、転職時にクラスチェンジをしているのだろう。多分、俺がいじれば戦闘系のクラスに戻せるかもしれないが、これは本人に無断でしてはいけない。――ローゼは俺が管理しなければいけないので本人の意思は無視だ。

 スキルはバリバリの戦闘クラスだった名残なのだろう、いろいろ持っていたが、気になったのは『スキル【統合】』。俺には縁がなかったが、上位のクラスだと、似た系統や相性の良いスキルが合わさるのだろう。――これはヒルデに確認だ。

 奉仕と献身は、隷属されると必ず取得するっぽい。――実に厄介だ。

 加護を持っているのは聞いていなかったが、本人は知っているのだろうか?

 【隷属主】ヨシュケ・ムトゥーの項目は知ってた。むしろ、この項目がなかったら焦る。


 ヒルデのステータスを一通り確認した俺は、疑問点などを確認する事にした。


「ギルド職員になる時にクラスチェンジしたの」

「そうそう。他所のギルドなら、有事の際に職員の戦闘力がアテにされるけれど、ここはそんな危険がないからね」


 確かにシューレーンは、帝国で一番安全な地かもしれない。

 ダンジョンのある地は、シューレーンに限らずなぜか周囲に魔物が湧かない。その為、ダンジョンに入りさえしなければ、魔物に遭遇る事はまずない。

 そして、滞在している冒険者は基本的に新人だ。数少ない一般冒険者に困った連中もいるが、腕が立つならこんな場所にいない。

 よって、魔物の被害も人的被害も少ない、とても住みやすい地と言えるだろう。


「スキルの統合ってのは?」

「それは――」


 ヒルデの説明はこうだ。

 まず、ヒルデは火と風に適正があり、魔術の火と風属性強化のスキルがあった。

 そして、騎士として剣と槍のスキルがあり、それぞれの武器に魔術――例えば剣に火を纏わせて戦うスタイルだったそうな。だが元々は別々に発動していたスキルが、レベルが上がった事で統合した、という事らしい。


「一番使っていたのが、まず魔術で剣に火を纏わせて、剣で攻撃する際に【斬撃】や【刺突】とかのスキルを発動させる方法だったのね。それが【豪炎】に統合されてから、戦闘前に【豪炎】を使うだけで、斬れば【斬撃】突けば【刺突】が発動するからとても楽になったわ。それに威力も上がっていたし」

「それは便利だ」


(戦闘中にあれこれ煩わされないのって、かなりの利点だよな)


「でしょ! これはね、統合されたスキルの内、使用したい効果を組み合わせて記憶させておけるの。しかも5種類。ただし問題があって、何番にどの組み合わせを入れておいたか覚えていないと、間違った組み合わせが発動しちゃうのよね。まあ、慣れてしまえば問題はないんだけど」


(プリセットとかいう機能? やっぱゲームみたいだよな、この世界って)


 それはそうと、初級クラスのスキルを多く持っている俺でも、スキルの統合などなかった。

 やはり上位のクラスが強いのは、単純にレベル上限が高くて高レベルになれる事だけではないのだ。スキル自体も強烈で、なおかつそれが統合してパワーアップする。そういった様々な恩恵もあるから強いのだと、つくづく思い知らされた。


(俺もスキルだけはたくさん持ってるし、初級縛りが解除されたんだから、統合されて便利スキルになってくれると有り難いな)


「そういえば、先導者って加護があったけど、ヒルデは自分が加護持ちなのは知ってた?」

「当然よ」


 そもそも加護自体が珍しいのだが、『先導者』は加護の中でも珍しい部類で、様々な種類の効果があるのだとか。

 どれも名前に由来した『導く』効果で、カリスマ的な存在感で、そこにいるだけで人々が付き従う力。言葉に重みがあり、人心を掌握する話術に長けた力。武力が高く、圧倒的な力で人々を従わせる力。などなどがあるとの事。


「どれも最初からずば抜けている訳ではなく、早熟……って言うのかな、早い段階でレベルが上がり易いの。――私の場合は武力ね。でもその分、能力が頭打ちになるのが早いらしくて、遅くても20歳くらいで成長が止まってしまうらしいの。だから私は焦って失敗して、結局は引退に追い込まれたのよね」


 チュートリアルクリア前の俺が持っていた”神の拘束”と言う加護は、中級クラスになれない制限もあったが、経験値取得にブーストがかかるとても有り難い加護だった……と思う。

 ヒルデの”先導者”も、ブースト的な何かで成長が早かったのだろう。

 とはいえ、頭打ちになるのが分かっていたのだから、焦るのもある意味当然で、諸刃の剣的な加護であるのは確かだ。


「それはそうと、私はヨシュケ様の奴隷と表示されているの?」

「されてるね」

「となると、私はギルド職員を辞めないといけないわね」

「どうして?」


 ヒルダは望んで俺の奴隷になった訳だが、仕事を辞めさせるつもりなどない。俺としては、秘密を漏洩させないための処置であって、自由を奪うつもりはないのだから。


(まあ、たまにちょろっとお手伝い(・・・・)してもらう予定だけど)


「だって、ローゼ様がある程度成長したら、他の土地へ移動するでしょ?」

「そうだけど」

「だったら私もついて行く必要があるじゃない」

「なんで?」

「奴隷って、自分の主からあまり離れられないでしょ。ヨシュケ様がどれくらいの距離を設定したのか分からないけれど」


(やってしまった……)


 俺が決めた罰則は、情報の漏洩等に関係する事だけで、俺から離れたらどうこうは考えていなかった。

 しかし一般的な奴隷というのは、『主の敷地から出られない』『主の住む町から出られない』『主の指定した距離以上主から離れられない』など様々な決まりがある。だが俺は、そんな決まり事を一切設定していなかったのだ。

 まかり間違って、ヒルダを残したまま俺がシューレーンを出たら、その瞬間にヒルダが死ぬ、なんて事も可能性としてはある。


(マジで”管理師”クラスのマニュアルが欲しい)


「何日で退職できるかわからないけど、退職する旨をギルドマスターに申請しておくわね」

「そうしてくれ……」


 久々の冒険者家業が楽しみだわ、と言うヒルデを見ながら、俺は最近特技になりつつある頭痛を発生させるのだった。


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