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第17話 呪い

「ごめんなさいですの……」


 寝起きの開口一番、ローゼは申し訳無さそうに謝罪してくる。

 理由は、俺の体を拭かずに寝てしまったからなのだが、俺としては意図して彼女を寝かせたので、何の問題もなかった。

 ただせっかくローゼに貸しができたので、ナーモナイ町を出る時とシューレーン町に入る際、偽装証明証を使用する事に文句を言わない、という約束を取り付けておいたのだ。


 それはそうと、昨日の日中は旅商人のおっさんと会ったりしていて、ローゼのステータス確認ができていなかった。なので、昨夜は彼女が先に寝てしまったのをいいことに、しっかりスキルの確認をしておいたのだ。



名前:アンネローゼ・フォン・シーベルグ

種族:人族

年齢:14歳

性別:女

職業:貴族令嬢/奴隷

クラス:【初級】攻魔術士 レベル2


ユニークスキル

・魔力回復上昇【隷】 レベル1

・消費魔力減少【隷】 レベル1

・奉仕【隷】 レベル1

・献身【隷】 レベル1


スキル

・礼儀作法 レベル4

・舞踏 レベル2

・刺繍 レベル1

・向上心 レベル6

・魔力制御 レベル3

・魔力欠乏症耐性 レベル4

・忍耐力 レベル1

・集中力 レベル1

・妄想力 レベル1



主からの供給による時限スキル

・体力増強 残69%

・魔力増強 残42%


加護:攻魔の才


【隷属主】ヨシュケ・ムトゥー



 ローゼを隷属化させてしまった際に見たステータスから、『攻魔術士』のレベルが1上がっているだけで、スキルは1つも上がってない。しかし、【忍耐力】【集中力】【妄想力】と、3つもスキルが増えていたのだ。

 何がどうしてスキルが増えたのか不明だが、【忍耐力】は何事にも役立ちそうだし、【集中力】は魔術士には不可欠なので良しとしよう。だが【妄想力】はどうなのだ、と俺は首を捻ってしまう事に。

 とはいえ、短期間にスキルが増えた事実は良い事なので、俺は深く考えないようにした。


(にしても、スキルってこんな短期間に、簡単にぽんぽん生えてくるもんじゃないんだけどなー)


 それはさておき、気になったのは”主からの供給による時限スキル”だ。

 道中で、『体力増強 残91%』『魔力増強 残99%』になっていたのは記憶している。あの時は、まだ魔術の練習をさせていなかったので、歩いた分の体力が減って、魔力が減っていなかったのだろう。

 そして今回、魔術の練習をさせた事で、大幅に魔力の残量が減っている。これはなんとなく理解できる。だが体力の減りが早いのは理解不能だ。


 歩いた距離などを考えると、旅立ち初日のほうが多い。単純に『歩く』という行動だけであれば、体力の残量はもっと多い筈だ。もしかして魔術を使うと体力も減るのかと疑問に思うも、俺は魔術どころか一般クラスでも使える魔法すら使えない。その為、魔力と体力の関係に関する知識が皆無であった。


 そしてもう一点。”主からの供給による時限スキル”による残量が0になった場合の事だ。

 現在は魔力が50%を切っているが、今はまだある。これがなくなった場合、ローゼがどうなるのか不明だ。そして、残量が0になってローゼが困る状況になった際、どうやって補充するか、それがわからない。

 あえてローゼに魔力を使い切らせて確認する、というのもありだが、補充方法がわからない現状で無謀な挑戦はしたくない、というのが臆病者な俺の考えだ。


 相変わらずわからな事だらけだが、少しずつ解明していくしかないだろう。



「ところでご主人様?」

「なんだ?」

「なんだかご主人様が小さくなってる気がしますの。わたくしの勘違いですの?」

「…………」


 ナーモナイ町から出ていつものようにてくてく歩いていると、俺を不思議そうに見ているローゼがそんな事を言ってきた。俺はその言葉に、『そんな事はない』と言えなかった。ローゼの感じた事は、決して勘違いではなかったからだ。


 女神アンネミーナが、一週間で俺を15歳当時の体に戻すと言っていた。そして今は、あれから3日半と少々経っている。既に一週間の半分以上が経過している状況だ。

 それは、175cmの70kgが155cmの40kgになる丁度半分、165cmの55kgになっているという事である。あからさまに見た目が変わっているのだから、ローゼが不思議に思うのは仕方のない事だった。

 今の俺は黒い半袖のシャツを着ているのだが、袖口が肘の辺りにある。黒の長ズボンは裾で折り返して長さを調節し、メタボ気味だった腹がへこんできているので、腰紐はギュッと縛っている状態だ。


(現状でこれだと、もっと小さくなったら言い訳もできないよな)


 場当たり的な生き方をしていた俺は、面倒を先送りにする癖がある。なので今回もすっとぼけるつもりだったが、数日先にはもっと小さな体になるのは確定しているため、先送りできる問題でないと気付く。


(どうするか……そうだ!)


 俺はある案を思いついた。


「俺はローゼに内緒にしてた事があるんだ」

「内緒、ですの?」

「ああ。これは誰にも言いたくなかったんだが、ローゼにはバレてしまう事だから、本当の事を言うよ」

「なんですの?」

「実は俺、呪いをかけられたんだ」


 俺は思いついた事を口にした。


「どうして呪いをかけられたんですの?」

「ローゼと出会う直前、かつてのパーティと向かった依頼先で、『15歳の頃の体になる』という呪いをかけられちゃったんだ」


 本当は呪いではなく女神の加護なのだが、アンネミーナの事を言うのは(はばか)られ、呪いという事にしてみた。

 俺からしてみると、チビガリな15歳当時の体に戻るのは、若くなるメリットよりも、虚弱で貧弱な体になるデメリットのほうが大きい。ならばそれは、俺にとって呪いと言えよう。

 これは嘘ではなく、俺が呪いだと思ったのだから呪いなのだ。


「それは良かったですの」

「え? どうして良かった事になるの?」

「ご主人様は若く見えても33歳ですの。立派な大人ですの」

「まあそうだな」

「でも15歳になれば、わたくしと同年代になりますの。それに数ヶ月でわたくしも15歳になりますの。同級生のお友達ですの!」


(なるほどね)


 この世界にも、規模の違いはあれど学校は存在している。しかしローゼは、邸から出る事なく家庭教師から学んでいた。それは同年代の者と出会う事もなく、友達や同級生などいない生活をしていたという事だ。

 冒険者として仲間ができる事も嬉しかったようだが、同級生のお友達というのは、更に嬉しい存在なのだろう。

 俺としては、『大変ですの。呪いを解かねばなりませんの!』と慌てるローゼを予想していたのだが、どうやら取り越し苦労だったらしい。


「ご主人様は仲間でお友達ですの」

「そうだね」


 右手で俺の左手を握ったローゼは、その手をブンブンと振りながら楽しそうに歩いている。なんだかなーという気分だった俺だが、こんな関係も悪くないと思えた。

 とはいえ、ただ歩いていては時間が勿体ない。ローゼには歩きながら魔術の練習をさせる。


 初級クラスのスキルしかない俺は、攻撃も弱いが防御も弱い。身体強化のスキルが働いているようだが、チート的な戦力を得た訳でもなく、ちょっとマシになった程度だろう。

 なので、壁になるような防御系の魔術が使えないかローゼに聞いてみた。だが”攻魔の才”の関係なのだろう、防御魔術になる壁系の魔術は使えないとの事だった。


(攻撃に関してはローゼの成長をアテにできても、防御方面はちょっと不味いかな? 俺は盾も使えるけど、守りに専念するわけにはいかないし、何をやっても所詮初級クラスだしな……)


 攻撃魔術は、初級クラスから火力としては高い。ゴブリン戦では直撃させられず、直接の戦果はあげていないローゼだが、着弾の勢いでゴブリンを吹き飛ばした威力は素晴らしかった。

 しかしローゼは制御にまだまだムラがあり、狙い通りの弾道を描けなかったり、威力や発動タイミングが安定していない。現状は戦力として絶対の信頼を置けないのだ。


「魔力残量は大丈夫か?」

「大丈夫ですの。わたくしもしっかり考えてますの」


 今日のローゼは、野球のボールくらいの土の玉を射出しているのだが、女神のような微笑みを浮かべ、街道沿いの木をお構いなく折り倒している。いくら魔術は初級クラスから威力があるとはいえ、ローゼの魔術の威力はかなり高いように思えた。

 だから俺は、ローゼがまた暴走していると思い、魔力欠乏症で倒れるのを心配して声をかけたのだが、適当に見えても彼女は彼女なりに考えているようだ。



「若い人たちがたくさいますの」

「ここは新人冒険者が集まる町だからな」


 ようやく目的地であるシューレーンの町に着いた俺とローゼは、門の前にできた列に並んでいる。列に並んでいるのは、ほとんどが10代の若者だ。


「みなさん、わたくしのライバルですの」

「まあ、ライバルと言えばライバルだけど、別に敵って訳じゃないんだから、そんない敵意を剥き出しにしなくていいんだぞ」


 ローゼの冒険者に対する認識は、『自分たち意外はすべて敵』とでもなっているのだろうか、いつもは大きなパッチリお目々を細め、ガルルーと周囲の者たちを威嚇するように睨んでいる。


(威嚇する小動物的ローゼもかわいい)


「ご主人様、早く冒険者ギルドへ行きますの」


 今回もすんなり門を通過し、ローゼは約束どおり文句は言わなかった。しかし、気が急いているのだろう、ギルドに行こうと俺の手を引っ張って先に進もうとする。


(ギルドの場所も知らないくせに……)


「いや、この時間だと新規登録は終わってるから、宿を探そう」

「まだ明るいですの」


 冒険者は、新規登録した際に必ず初心者講習を受けなければならない。その為、新規受付は午前中しか行われていないのだ。


「今日は早く就寝し、明日は朝一番で冒険者ギルドに行きますの!」

「そうだね」

「ご主人様も早く寝たほうが良いですの。――では、おやすみなさいですの」

「ああ、おやすみ」


 適当な宿を見つけて入り、夕食をちゃちゃっと済ませたローゼは『性技の訓練をしますの』と言う事もなく、さっさとベッドで横になってしまった。この辺りの自分勝手な行動は、ローゼがお嬢様として培ったものなのだろう。俺としても面倒がなくて助かるので、何も言わずに寝かせてやる事にした。

 そしてローゼは、かなり寝付きがいいようで、あっと言う間に寝息を立てて眠ってしまう。


「ローゼの笑顔はかわいいけれど、寝顔も最高だよな」


 そんな事を独り言ちた俺は、昨夜に引き続き今夜もローゼの寝顔を眺めつつ、悶々としていた俺は一人で黙々といたして(・・・・)しまう。


(ローゼを置いて娼館に行けないとはいえ、33にもなって何やってんだろ俺……)


 何気に二夜連続で一人虚しく賢者タイムを味わった俺は、早くこの生活を改善できるようにしよう、そう心に誓った。


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