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第15話 謎だらけ

「なあローゼ、俺は魔術がからっきしで興味なかったけど、魔杖ってのは高価なんだぞ」

「そうなんですの?」


 急に魔杖がほしいと言い出したローゼを、俺は思い留まらせたかった。

 過去に、もしかしたら良い魔杖であれば俺も魔術が使えるかな、などと思って武器屋に行った事もある。しかし、例え良質であろうとも所詮はただの木の棒、そう思っていた魔杖は、鍛え抜かれた剣を超えるような値段だったのだ。

 ローゼの身請けでかなり貧乏になった今の手持ちで、そんな魔杖など買えるはずもない。ましてや、素性の知れない旅商人のおっさんが持っている魔杖など、それこそそれっぽく見えるだけの魔杖風の木の棒だろう。そんな物に金を使う気はサラサラない。


 唐突だが、俺は長年ヒモ生活をしていたが、酒を飲んでギャンブルをして女に暴力を振るうなどしていた訳ではない。上位クラスへのチェンジができず、単に冒険者として実力がつかなかった所為で、この世界に絶望して何もやる気にならなかっただけだ。


 そんな俺はある日たまたま、知人であった女性冒険者の世話になった。

 日本人時代に親から虐待されていた俺は、元来気弱で他人の目を気にし、どうすれば怒られないで済むか、どうすれば相手の機嫌をよくできるか、などを考えて行動する癖があった。そんな俺は、世話になった女性に体で恩返しをするのが良いと気付き、結果的にそこからヒモ生活が始まったのだ。

 何もできない俺が自分にできる精一杯のお礼、それが女性を抱く事――実際は家事全般で女性を助けていた――で、そんな日々を繰り返していた。

 その結果、女性を抱くのが日常となり、冒険者に復帰した後も娼館通いをしていたのだが、基本的に女性には優しいのである。と同時に、金にはなかなかシビアでもあった。


「おっさん、魔杖とか持ってたりする?」

「1本だけあるよ」

「あるんだ……」

「では、それをくださいですの」


 ローゼが悪びれた風でもなく、ナチュラルに魔杖を買おうとしはじめた。――無一文の癖に。

 そういえば、サーイキーの商業区で買い物をした際、早く旅に出る事に意識が向いていたため、貨幣や物価の価値などをローゼに教えるのを忘れていた。


 以前ローゼにちょこっと聞いたのだが、商人が邸までやってきて『これが欲しい』と言えば自分の物になる、というのが彼女の中での買い物だ。支払いは親が行なっていたのだろうから、何に幾らの価値があるか当然知らない。

 ローゼ的には、『目の前に商品がある、欲しい、自分の物』というのが買い物で、一般人には理解できない、まさにトチ狂った価値観をしているのであった。


「だから待てって! ローゼは少し黙ってなさい」

「なんでですの?」

「いいかローゼ、魔杖ってのは得意な属性だったり、パーティ構成や戦闘スタイルなんかで必要な要素が変わるんだ。今のローゼは、自分がどんな魔術が使えるかすら分からないだろ?」

「攻撃魔術であれば、全属性使えると思いますの」

「――――!?」


 ローゼがしれっと恐ろしい事を口にし、俺は呆然としてしまった。


(全属性使えるってなんだ?! もしかしてこの子は天才なのか? あ、そういえば”攻魔の才”を持ってるんだったな。()()術の天()なんだから、それくらい当然だよな……って、それはない! 攻撃魔術の天才だから全属性使えるなんて事になったら、それこそチートだろ)


 そもそも加護の示す”才”は、天才の才ではなく才能の才なのだ。


「どうしたんですの、ご主人様」

「…………」

「ご主人様?」

「あ、いや、まあ何だ、仮に全属性が使えたとしても、魔杖の種類もワンドやロッドとかいろいろあるし、用途によって選ぶ物が違うからな。まずは確実に使える魔術や、何を底上げしたいとかをしっかり把握したほうが良いと思うんだ」


(よしんばローゼがチート少女だとしたら、それこそちゃんとした魔杖を持たせたいからな。適当な買い物で金を減らすような事はしないぞ)


「だからな、旅をしながらローゼに合う魔杖がどんなものか探して、それからきちんとしたのを買うべきなんだ」

「うぅ~……」

「それにほら、使えない俺が言うのもなんだけど、魔杖はあくまで魔術を発動する際の補助で、なくても魔術は使えるし。むしろ魔杖なしで魔術を発動させるのは、魔力制御の良い練習になる……って聞いてるぞ」


 魔術が使えない俺は、参考程度聞いた話を伝えるしかできないのだ。


「そうなんですの?」

「あくまで聞いた話だけどな」

「わたくし、魔力が殆どなかった所為で、魔杖なしで少しでも体内の魔力をいじると、すぐに魔力欠乏症になって倒れてしまっていたんですの」


(魔力が余りまくりで魔術の使えない俺には、魔力欠乏症は未知の世界だな)


「なので、如何に体内の魔力を使わず、自然界の魔素を魔力に変換して魔術を行使するかを考えてましたの。そして、魔力消費が少なくなる魔杖は必須だと思ってましたの。実際には魔術の発動はできませんでしたの……。それでも魔杖があれば、少ししかない体内の魔力をいじれましたの」

「いやいや、魔杖がなくてもすでに散々魔術を撃ちまくってたじゃん」

「――――! そういえばそうでしたの!」


 ローゼは魔力が殆どなかった頃の魔術練習を思い出していたのだろう、少し悲しそうな表情を浮かべていた。しかし、魔杖がなくても魔術を撃てた事を思い出したようで、「魔杖など要らないんですの」と手の平をクルックルさせる始末だ。


(おっさんの持ってる魔杖がどんなのか知らんが、とりあえず出費は抑えられそうだな)


「あー、ところでおっさんは何処へ向かうんだ?」

「チョイキッタの町で商談を行う予定だよ。なんだったら私の馬車に乗って行くかい?」

「それは残念。俺らはシューレーンの町に向かうんだ」

「ああ、ダンジョンかい?」

「そうそう」

「でもあそこのダンジョンは、新人冒険者向けで青年が行くような町じゃないよ」


 シューレーンの町は、新人にもってこいのダンジョンがある。ローゼのレベル上げと魔術の練習に丁度良い環境が近場にあるのだから、行かない手はない。


「ローゼがこれから冒険者デビューするから、あそこのダンジョンは丁度良いんだ」

「なるほど。……あそこは新人娼婦も多い町なんだよね」

「――――!」

「私も行きたいところだが、商談を反故にする訳には……」


 おっさんの言葉にローゼが反応したのは俺も気付いたが、あえて気付いてないフリをする。


(ってか、余計な事を言うなおっさん!)


 内心でツッコミを入れた俺は、まだ不慣れで覚束ない新人娼婦が、たどたどしく接してくるのもいいんだよなー、などと言ってるおっさんに「んじゃ」と別れを告げ、ローゼの手を取って歩き出す。

 余計な時間を食ってしまったが、どうにか日が出ている間に辿り着けるだろう。


 新人冒険者の集う町、シューレーンへ。




――なんて思ったのだが、どうやら俺の勘違いで、次の町はシューレーン町とチョイキッタ町に分岐するナーモナイ町で、シューレーンはその更に先だった。


「すまんなおっさん」

「気にしなさんな」


 意気揚々と歩き出した俺は、結局おっさんの馬車に乗車させてもらう事に。


 ちなみにおっさんの幌馬車は、生意気にもちょっとしたサスペンションが備わっているようで、思ったより乗り心地が良い。おっさん自身もちょっと良い身なりをしているので、それなりの商人なのだろう。

 俺もいつかは何らかの商売、可能であれば旅商人をしてみたいと思っていたが、それはいつの事になるのやら……。

 貯金の大半を投資したローゼを見つつ、俺はため息を吐いてしまった。


「どうかなさいましたですの? ご奉仕したほうがよろしいですの?」


 キョトンとした顔から何か閃いた表情になって、「ご主人様のお洋服を脱がせる練習が足りてませんの。早速練習をしますの」とか言ってるローゼを軽く手で制する。すると――


「でしたら、自分でお洋服を脱ぐ練習をしますの」

「幌馬車といっても、ここは屋外なんだけど……」


 ローゼは俺の言葉など聞かずに、いつものようにモゾモゾしはじめた。

 まずはボタンを外せ、と教えているのだが、ボタンを外すのが苦手なローゼは、頑なにボタンを外す事を避け、毎度毎度芋虫のようになる。


「痛っ!」

「どうしたローゼ?!」


 不意に芋虫……ではなくローゼが痛みを訴えた。

 どうやら幌馬車の床板の一部がバリだっていたようで、ローゼの足が擦れてしまったっぽい。

 俺は【収納】から回復ポーションを取り出そうとしたのだが、在庫切れで購入できていなかったのを思い出した。


「まいったな、ポーションがないや」

「これくらい大丈夫ですの」


 ローゼはそう言うが、俺としては美しいローゼの白い足に傷がある状況が我慢できなかった。


「こんなときに回復系のスキルがあれば……」


 俺が思わず無い物ねだりのような愚痴を零すと、柔らかな光がローゼの足を包む。すると、軽く出血していたローゼの白い足から傷が消え、滲み出ていた血もなくなっていた。


「えっ?」

「ふぇっ? 痛くなくなったですの」

「えっとー、ローゼは回復系の魔術も使えるの?」

「使えないですの」


 予期せぬ状況に戸惑う俺とローゼ。


「――――ハッ!」


(もしかして、ユニークスキルにあった【超】の体力回復ってヤツか? でもこれって、俺自身にかかってるパッシブスキルだと勝手に解釈してたんだけど……)


 ふと思いついたのが、”管理師”として授かったスキルの一つ、体力回復。だが、どうにもそれではないような気がする。


(もしかして、【隷属特化】の管理スキルに、隷属した者の体調管理的な感じの能力があって、それが作用したのか?)


 これも可能性の一つにすぎないが、こちらのほうが納得できる。とはいえ、これもあくまで推測でしかない。

 ”管理師”クラスは、未だに謎だらけだ。

 一方で、ローゼの傷を治せたのも事実。しかし、正しい発動方法や条件もわからないのもまた事実で、どの程度まで治せるのかも不明だ。

 俺としては、確定情報がないので今ひとつ信用できない。


(わざとローゼに傷を付けて、もし治せなかったら一大事だよな)


 有り難い力を得ていると思うのだが、確かめたくても確かめられない痛し痒しな現状だけに、俺は素直に喜べなかった。


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