93 ずる
掃除時間、のの、廊下を掃きながら、
「もうすぐ夏休みだね」と、話しかけてくる。「みきちゃんは、なにか予定ある?」
「うん。八月にコンクールがあるし、その一週間後には、海」
「あぁ、ねねもいってたな、それ。海いいなぁ」
みきも箒を手に、廊下のタイルをさっさと掃いていく。とはいえ、暑さで動きが少々にぶい。
「三泊四日だったよね」
「そう。ゆかのお父さんの別荘に泊まるらしい」
「わ、すごい。島に別荘にプライベートビーチって、さすがにスケールが違うね」
「いやもう、ほんとうに」
みき、おおきく肯く。誘ってもらえたのはうれしいが、とはいえ、気が引けるところもかなりある。
それにしても、と、のの、
「あーあ、うちも見たかったなぁ、みきちゃんの水着姿」
「そんないいもんじゃないよ。最近、運動できてないし」
「またまた、謙遜しちゃって」
いいつつ、ロッカーからちりとりを持ってくる。みきはモップをとってきて、バケツに水をくむ。
「旅行から帰ってきたら、もう予定はないの?」
「え、うん。いまのところは」みき、廊下を拭きながら、「お盆だし、お墓参りとかはいくだろうけど」
「そっか。じゃあどっかでデートしようよ」
「いいよ。どこいくの?」
「うーん」のの、腕を組んで、「せっかくなら、おとななデートがしたいよね」
「なにそれ」
ののもモップを手に、反対側から拭いてくれる。みき、額に汗がにじむ。
「えー、でもやっぱり、水着が見たい!」
「なんでそんなにこだわるの、水着」
「プールいかない? みんな誘って」
「いいけど、デートじゃなかったの?」
「デートもする。プールにもいく」
「ふうん。欲張りさんだね」
と、はやいうちに、掃除がおわってしまった。教室のなかの掃除も、ずいぶん進んでいるから、手伝うこともなさそうだ。
ひとまず、バケツを片づけにいく。
「みきちゃんってさ、うちにはあんまりツッコんでくれないよね」
「え、そう?」
「うん。デートもすんなり受容れちゃうし」
「あぁ、あれ、冗談だったんだ……ふうん……」
「え⁉ うそ⁉ うちっていま、なにか重大なミスを犯しちゃった⁉」
「ふふ」みき、笑って、「ほら、ツッコまないほうが面白いからね、ののちゃんは」
「魔性だ……」
流し台までいくと、掃除中のうめがいた。たわしを手に、ごしごし磨いている。
「あ、ふたりとも、おつかれさま」
「おつかれ、うめちゃん」と、のの。「ねぇねぇ、おすすめのデートスポット知らない?」
「えっ⁉」うめ、目をぱちくりさせて、「か、彼氏できたの……?」
「どうだろ、みきちゃん」
「いや、わたし男じゃないし」
「じゃ、彼女だ」
「え、えーっと」
「あのさ」と、みき、苦笑して、「うめちゃん巻き込むのは、ずるじゃない?」
「どうしても引きだしたくて、ツッコミ」
「うーん……?」
うめ、いまいち状況がつかめない。
「あ、でも、隣町の水族館とか、カップルに人気だよね」
「おぉ、たしかに! けっこうアリかも」
「ふたりでおでかけするの?」
「うん。デートだからね」
「そっか。たのしんできてね」
やさしい笑顔でいわれて、のの、
「なんか申し訳ないかも」
「ほら。いったでしょ、ずるはよくないよ」
とりあえず、どこかで水族館にいく約束は、した。
【大矢かうな ギター担当】
軽音楽部の一年生。
元気いっぱいの明るい子。
成績はよくもわるくもない。期末試験ではがんばって勉強し、なんとか上位に食い込んだ。同級生や先生に褒められたので、つぎもがんばろうと思っている。




