90 確保
みき、出先から帰っていると、見覚えのある影をみつけた。公園で、女子高生と小学生が、シーソーで遊んでいる。
「あ、おねーちゃーん!」
と、気づかれた。新藤さつきだ。もうひとりは、後輩のシー。
「こんにちは」と、みき、近づいて、「ふたりで遊んでるの?」
「うん! シーちゃん捕まえたの」
「はい、あっさり捕まりました」
聞くと、たまたま散歩で足を伸ばしていたシーを、さつきが見つけたのだという。
で、確保してから小一時間、シーをあちこち引っぱりまわしているらしい。
「おねえちゃんも、シーソーやる?」
「うん、いいよ」
ということで、さつきとみき、ふたりでシーの向かいに座り、ぎっこんばったん。
さつき、たのしそうにケタケタ笑っている。
「くづねぇも来たらよかったのに!」
「くづねぇ……くづきちゃんか。おうちにいるの?」
「ううん、おかーさんとおでかけ。ジュクの見学だって」
「へぇ」
「かきこうしゅう……受けるんだって! らいねん、ジュケンだから」
みき、まじめだなぁ、と、ひとごとのように思う。来年に受験が控えているのは、じぶんもおなじなのだけど、まだ実感がわかない。
「だから、あんまり遊べないんだって」
「そっか。ちょっとさみしいね」
「うん。つまんない」
みき、ちょっと苦笑い。きもちはわからないでもないが。
「おねえちゃんたちは、なつやすみ、遊べる?」
「どうだろ。八月のさいしょは部活があるけど……」
「ぶかつ?」
「うん。わたしたち、軽音楽部なんだよ。バンド組んでるの」
「え、すごい! 楽器ひけるの? シーちゃんも?」
「そうだよ。上手なんだから」
「いえいえ、そんな」シー、かぶりを振って、「ついていくので精一杯です」
謙遜しているが、シー、はじめて数か月とは思えないほど上達している。もとの器用さもありつつ、なにより、努力家なのだろう。
それから、たまに部活の話をしながら、しばらく遊んだ。いい時間になったので、さつきを家まで送って、みきとシーも帰ることにする。
「コンクールって」と、帰り路で、シー。「八月はいってすぐ、でしたよね」
「うん。そう考えると、あんまり時間ないね」
前田先生が応募していた、コンクール。期末試験もおわったし、いよいよ、そこに向けた練習が本格化する。
本番は、八月三日。いまが七月もおりかえしたところなので、だいたい二週間くらいの猶予がある。
とはいえ、演奏曲は、文化祭で披露したものから選んでいる。本番まで、練度をあげることに集中すれば、恥ずかしくない演奏もできると思う。
「コンクールのあとは、なにか予定、ありますか?」
「え? うーん、いまのところは、とくに」みき、ちょっと悩んで、「たしかに、なにか目標があるといいのかもね。演奏できる機会があれば、練習にも身がはいるし」
「はい。それに文化祭、たのしかったですから……」と、シー、目をほそめる。「コンクールがおわっても、またどこかで、演奏できたらうれしいです」
まえむきなことばに、みき、ちょっと心が弾む。そのねがいは、どうか叶えてあげたいと思う。
「ま、考えとくよ」と、みき、肯いて。
「いまは、コンクールに集中、ですね」
「期待してるからね」
ほどほどでおねがいします、と、シー、いつもみたいに飄々と答える。七月の太陽はまだ高く、うっすらとした日暮れの気配に、あざやかな風が吹いた。
【夏井みき ボーカル、ギター担当】
軽音楽部の部長。
毒舌だが、頼れるリーダー。
成績が良く、素行も〇。軽音楽部のなかではいちばんの優等生だが、隠れてバイトをするなど、したたかさもある。




