89 わいろ
「おなか減ったぁ!」と、ゆか、試験終わりに。
「そだなー」しお、肯いて、「はやく部室いって、弁当たべるかー」
期末試験がおわり、しおとゆか、廊下でおちあった。みきは部室の鍵をとりに、国研までいっている。
「試験、どうだった?」
「いつもよりは……」ゆか、ことばを濁しつつ、「いつもよりは、ね?」
「いつもよりはなー」
どうあれ、勉強会の成果はでたらしい。
「しおは? 仲間? 裏切者?」
「ま、裏切者かもな」
「え~、いっしょに赤点になろうよぉ」
「なっちゃだめなんだって、今回は」
「そうだけどぉ」
いいつつ、部室まできたら、すでに一年生がいた。廊下で待っているさんにんに、しお、声をかける。
「おつかれさまです、先輩!」と、かうな、はきはきと。
「おー、元気だなー」
「試験おわりなのに~」
「けっこう手ごたえあるんです、じつは!」
「やるじゃん」
「ふうん……かうなちゃんも、裏切者なんだね……」
「えっ⁉」
どんよりしたオーラを放つ、ゆか。
「あのぉ」と、かうな、声をひそめて。「もしかして、ゆか先輩……」
「どうだろーな、いつもよりはよかったらしいけど」
「ちゃんしお先輩は、どうでした?」と、シー、訊ねる。
「まー、余裕です」
「おぉ、すごい!」
ちなみに、一年生のさんにんとも、手ごたえアリ、といったところらしい。赤点の心配はなさそうだ。
「うちはちょっと、あやしいところもありますけど……」と、ねね、自信なさげ。
「そうなのー?」
「古典がむずかしかったんです!」かうな、肯いて、「わたしもその教科だけは自信ないなぁ」
「あーでも、古典の担当って山田ちゃんでしょー? 採点ゆるいよ」
「たしかに! 山田先生はそのあたり、やさしいですよね」
「うんうん。最悪、わいろを送れば……」
「なに吹きこんでんだ、おまえ」
と、鍵をもったみきが、背後に立っている。しお、首を傾げて、
「しおちゃん、なにもいってない」
「かわいくないぞ」
「お、やるか?」
鍵をあけて、部室にはいる。机を並べて、みんなで昼食にする。
お箸をもって、ゆか、
「鳥羽先生も、ゆるく採点してくれないかなぁ」
「鳥羽先生って」かうな、菓子パンの袋をあけながら、「数学の先生ですよね。前田先生と同期の」
「そう。よく知ってるね」
その声にぴたり、とみんなの動きが止まる。そろって入口を見やると、顧問の前田先生が笑顔でこちらを覗いている。
「おー、びっくりした」しお、平然とした面持ちで、「どしたの、あおばちゃん」
「いやぁ、試験どうだったのかなぁって、気になっちゃって」
「前田先生~、すきなお菓子はなんですか~?」
「おい、わいろを考えるな」
「お菓子ていどじゃなびかないよ、わたし」前田先生、眼鏡の奥で目をほそめて、「ちなみに、鳥羽ちゃんのすきなお菓子はハード系のグミ」
「いいこと聞いちゃった~」
「こらこら」
前田先生、くすくすと笑う。
「そのかんじなら、だいじょうぶそうだね」
「からげんきですぅ」
「だめそうだね」
「いや、まぁ」みき、苦笑い。「たぶん、だいじょうぶですよ」
「あとでグミも買うしねー」
「なんのためだろうな、それ」
「うーん。しおちゃん、わかんない」
「かわいくないって」
「お、やるか?」
昼食後、しばらく練習をして、いつもよりずっと長い部活はおわった。
【鳥羽ひかり 二年四組担任】
みきのクラスの担任。
数学の授業を担当している。
最近のマイブームは、ハード系のグミ。仕事のあいまに、よくたべている。グレープ味がいちばんすき。




