85 勉強会①
「いいんですか、わたしまでお邪魔して」
戸殿邸までのみちのりで、くづき、遠慮がちに訊ねる。みきとうめ、肯いて、
「だいじょうぶだよ。くづきちゃんも、期末受けるんでしょ?」
「たいへん、ですよね」うめ、やわらかく笑って、「帰ってきたばっかりなんですよね」
「みなさんが期末試験を受けるのに、じぶんだけらくをするのも気が引けまして」
「まじめだね」
と、みきの評。
今日は、戸殿邸で勉強会をする。もともとは軽音楽部員の赤点回避がねらいだが、かといって部の集まりというわけでもないので、それいがいのメンツを呼んでも差しさわりはない。
現に、ゆかの先生役としてうめを呼んでいるし、成績優秀なののも招集した。
で、くづきも期末試験をきちんと受けるというのを聞いて、みき、せっかくだからと誘い、いまに至る。
「ま、おもいのほか大所帯になったのは、そうなんだけど」
いちおう、ゆかとそのご両親にも人数の確認はとった。軽音楽部六人に、うめ、のの、くづき。計九人で開く勉強会だったが、なんと快くオーケーされ、ゆかのお母さんに至ってはずいぶん乗り気らしい。
「うめさんは、二組でしたよね」
「あ、はい」うめ、敬語で、「そうです、二組です」
「ふふ、敬語でなくていいですよ。わたしがいうのもなんですが」
わたしのこれは関西弁をおさえるための口調なんです、と、くづき、恥ずかしそうにいう。気をぬくと関西弁がでるらしいが、ぎゃくに敬語は気を引き締めるためのものだったらしい。
「えっと、じゃあ、ふつうにしゃべるね」
うめ、ぎこちなくはあるが、敬語をとく。むかしは人見知りが激しかったのに、いまではそうでもない。
と、戸殿邸の最寄り駅に着いた。バス停付近に、軽音楽部の後輩たちと、ののがいるはずだ。
「そういえば」みき、探しながら、「うめちゃんも、一年生ズに会うのはじめてだよね」
「うん。今日は半分、推しを拝みにきたかんじ」
「へぇ」
推しってだれだろう。ねねちゃんかな。みき、困るくらい急激にふえたファンたちを思いうかべて、うめもそのひとりかもしれないと想像する。しっくりくる。
「でも、ほかのふたりだっていい子だよ」
「もちろん、知ってるよ」うめ、にこやかに。「やっぱり軽音楽部だいすきだね、みきちゃん」
「そういうことじゃないけど」
で、一年生とののを見つけた。拾ったら、そのまま戸殿邸へ直行する。
「くづき先輩って、さっちゃんのおねえさんなんですよね」
道中、シーのことばに、くづきは肯く。
「シーちゃんさんですよね。いもうとをたすけてくださった」
「いえ、あのときはわたしもおなじ境遇でした」
「なるほど」よくわかっていなさそうな顔。「うんうん、なるほどです」
「はい、さすがです」
シーも深く肯く。たがいに理解しあっているような雰囲気をかもしだしているが、まったく意思疎通はできていない。ひどいありさまだ。
とはいえ、打ち解けられているなら、いいのだろうか。
そんなこんなで、七人の大所帯、戸殿邸のまえにたどりつく。しおは先に着いて、なかで待っているらしい。
みき以外のメンツが、とつじょとして現れた豪邸に呆気にとられているなか、とりあえずインターフォンを押す。
「ようこそおいでくださいました」と、しおの声。「今宵は、えーっと、なんかいいかんじのパーティーを……」
「考えてないならやるな」
いうと、ちょうどいいタイミングでワンピース姿のゆかが出てきた。わ、たくさんだねぇ。のほほんとした口調でいうが、実際、大人数で押しかけてはいる。
「お邪魔します」
と、口々に唱えて、邸宅にあがっていく。
【新藤くづき 高校二年生】
留学帰りの高校二年生。
しっかり者に見えるが、すぐにぼろがでる。
学業は完璧にこなすが、それ以外の能力は壊滅的。いちおう、みきたちの一歳年上ではあるが、馬脚をあらわしてからはもはや子どものように見守られている。




