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朝を歩け。  作者: 維酉
Debut Single【朝を歩け】
9/176

04 ケーキ

「温泉入りたい」


 みき、独り言ちた。となりにいたゆかが、


「わかるよ~」とうなずく。「こんど一緒にいこうか」

「金がないけどな」

「う~ん、いくなら一泊したいよねぇ」

「そうだな」

「おいしいごはんをたべて~、温泉にはいって~、おいしいごはんをたべて~」

「食ってばっかじゃねぇか」


 照れたふうに、ゆか、にへへと笑う。

 でも、そういう話を聞くと、ほんとうにいきたくなる。


「ミネラルにどっぷり浸かって」

「のぼせる手前くらいまでゆっくりして~」

「それから部屋に戻ったら」

「豪華なお料理がてんこもり~」

「いいなぁ」

「いいよね~」

「おう、なんの話?」


 レモンティーと弁当もって、しお、話に入ってくる。ジュースを買いにいっていたらしい。

 しおはてきとうな席に座った。


「さんにんで温泉いきたいねって話をな」

「あー、いいな、それ」

「でしょ~」

「最近寒いしよ、ちょうどいいんじゃねって」

「お金ないけどね~」

「どうしようもねーじゃん」

「まあな」

「お弁当たべよ~」

「そうだね」


 箸をとって、たまご焼き、一個つまむ。


「温泉たまごもたべたいな~」

「食のことしか頭にねぇのか」

「そーいうもんでしょ」

「みきはなにたべる~?」

「わたしは……まんじゅうとか」

「あ~、いいねぇ」

「あたしは刺身たべてー」

「それもいいね~」

「温泉にいくんだから、風呂だろ風呂」

「湯船に浸かって熱燗を……」

「酔っぱらっちゃうね~」

「おいこら」


 へらへら笑って、しおはみきの弁当から、さらっとたまご焼きを盗んだ。間髪を入れずに、そのまま口に運ぶ。

 みき、右ひじでわき腹をこづくと、しおは悪びれもせず、


「お、これうめー」

「そりゃわたしがつくったんだからあたりまえだろ」

「いいな~。わたしもみきの手料理たべたいな~」

「しゃーねぇなぁ」


 すこし得意げな顔して、みきは弁当のおかずをちょっと、ゆかにあげる。ゆか、うれしそうに、たまご焼きをとっていった。それでたまご焼き、売り切れた。かわりに、ゆかが、ゼリーを一個くれた。


「自分でつくるなんて、すごいよね~」

「そーでもねぇよ」

「いや、すげーよ」

「ほめたってこれ以上はなにもでねぇからな」

「ちぇっ」

「おい」

「じょーだん」

「ねぇねぇ、ふたりって、クリスマスの予定、ある?」

「なんだよいきなり」

「悲しい話題はやめよーぜ」

「いや~、もしなにもなかったらね、みきの家に集まってさ~」

「わたしの家なの? ゆかのとこのほうが広いじゃん」

「みきの家がいーの」

「あたしも。みきの家おちつくし」

「まぁいいけどよ」


 やった~、とゆか。


「クリスマスは、みきの手づくりケーキだね」

「わたしがつくるのかよ」

「買ってこいとかいうのか?」

「どうせなら、さんにんでつくるとかよ」

「それいいねぇ」


 買い出しはもちろん、ゆかとしお。そうきまった。まだ二十日くらい先のクリスマスが、きゅうに待ち遠しく感じられた。

【前田あおば 一年五組・副担任】


 眼鏡をかけた若い女性の先生。

 物腰のやわらかいひとで、生徒に好かれている。


 軽音楽部の顧問で、アコースティックギターで弾き語りができる。好きなバンドはオアシス。

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