84 黒歴史
「明日って、何時に集合だっけ?」
かうな、校門をまたぎながら、訊ねる。シーとねね、かおを見あわせて、
「十一時まえ」と、シーが答える。「駅までいけば、先輩たちが迎えにきてくれるはずだよ」
「ゆか先輩のおうちって、どんなかんじなんだろう……」
「すっごく広いらしいね!」
「失礼のないようにね、牛ちゃん」
「やっぱりマナーとか厳しいのかなっ? 正装でいくべき?」
「うち、スーツないよ」
「わたしは燕尾服ならある」
「うーん、でも、かっちりしすぎても逆に失礼かも」
「そうだね」
ねね、ひとりだけ自転車を押しながら、肯く。さんにんとも、帰る方向はだいたいおなじなので、途中まではいっしょに歩きながら帰る。
「しお先輩のおうちも、近いんだよね」と、かうな。
「うん。ゆか先輩と幼馴染らしいし」
「みき先輩のおうちはどこらへんなんだろ。ねねちゃん、知ってる?」
「地区は聞いたことあるけど、こまかいところは……」
「そっか。ねねちゃん、みき先輩と中学いっしょなんだっけ」
シーのことばに、ねね、首を縦にふって、
「ここからちょっと遠いとこだったと思うよ」
「中学生のみき先輩って」かうな、興味津々といったようすで、「どんなだった? やっぱりいまみたいにカッコいいかんじ?」
「う、うん。たしか、生徒会の役員もしてて……」
ねね、中学時代を思いだす。ちょくせつの接点はなかったが、みきは地元の中学校ではなかなか目立つ存在で、表立ったところにあがることもおおかった。ねねみたいに、彼女にあこがれていた下級生もすくなくない。
「成績優秀で、スポーツもできて、だれにもやさしいって印象だったよ」
「完璧超人だ」かうな、感心した面持ちで、「うーん、見てみたかったなぁ。ねねちゃんの中学校って、制服もかわいかったんでしょ!」
「え、どうだろ……ふつうのセーラー服だったよ」
「わたしたちは意匠のない黒ブレザーだったから」と、シー、ちょっとなつかしそう。
「あんまりかわいくなかったよねぇ。あれもあれですきだったけどっ!」
いいつつ、かうな、自販機を見つけて駆けだす。下校まえからのどが渇いていたらしい。
「ふたりの中学校は、どんなふんいきだったの?」
「すっごくまじめなかんじ! 校則とか厳しかったし」
「でも、牛ちゃんがわるいこともおおかったよ。学校にギターもってきたときとか」
「軽音楽部、なかったんだっけ……?」
「うん。だからわたしがつくろうと思って、そのためにギター背負って登校したんだけど……」
「すぐ没収されたよね、あれ」
ジュースをひとくち飲んで、かうな、唇をとがらせる。
「返してもらえたの?」
「下校のときにね」と、答えるのはシー。「でも、くやしかったから、そのあと屋上のぼってギターをかき鳴らして」
「わー、やめて! 黒歴史なんだからっ!」
「なんだっけ。『ロックしようぜバカ野郎どもーッ!』、だっけ」
「うわー! ほんとにやめて! ねねちゃんいるんだから!」
シー、くすくす笑っている。反面、かうな、かおをまっ赤にして、幼馴染の口をふさごうと躍起になっている。
「な、なんていうか」ねね、呆気にとられて、「かうなちゃん、そういう時期が、その……あったんだね」
「いやいや、ぜんぶ嘘っ! うそだからっ! 信じないでね!」
「ほかにもあるよ、かうな伝説」
「おねがいだからもう黙って!」
あまり見ない慌てかたをする、かうな。めずらしいけれど、やっぱり「黒歴史」らしいし、こんごは触れないように気をつけよう――なんて、ねね、考える。
「ていうか、屋上の鍵あけてくれたの、シーちゃんでしょ! 共犯だったんだからね!」
「そうなんだ」ねね、肩をすくめて、「ワルだったんだねぇ、ふたりとも」
「うんうん」
シーの雑な肯きに、かうな、またムキになって、やいのやいのと帰路をゆく。そんなかうなちゃんもかわいらしいな、と、ねねは思う。
【握津のの 高校二年生】
ひとあたりのよいかんじの高校二年生。
軽音楽部・ねねの姉。
最近のマイブームは落ちものパズルで、みきとうめを誘って遊んでいる。いちばんプレイ歴は長いがいちばんへた。




