81 豪邸
「数学むりだよ~!」
と、ゆか、部室のつくえに突っ伏して泣きごとをいう。みき、あきれて、
「いや、がんばってくれよ」と。「いまのところ、おまえがいちばん怪しいんだよ」
「補充確定だよぉ……!」
「まぁ教えてやるから。不吉なこといわずに、がんばれって」
期末試験を控えた部活動最終日は、もはや勉強会にかわりつつあった。コンクールの練習のためにも、赤点をまぬかれて、補充授業に召集されないように、そのぶんちゃんと勉強しなければならない。
いちおう、一年生の面々は、中間試験でもそれなりの点をとっていたらしい。すくなくとも、赤点はひとりもいない。
となるとやはり、心配なのはゆかである。
「生物もむりだよぉ!」
「生物は……わたし取ってねぇからな」
「しお~」
「あたし文系だしなー。数学は教えられるけど」
「わっ、しお先輩、数学得意なんですかっ?」
かうな、くいついた。点数はそこまでひどくないが、どうやら数学に苦手意識があるらしい。
「数学が得意っていうかなー。あたし勉強すればなんでもできるし」
「え……⁉」かうな、ショックを受けたように、「しお先輩って、もしかしてめちゃくちゃ天才なんですか?」
「なんでおどろいてんだよー」
「おどろくだろ、そりゃ」
ただ、みき、しおの「なんでもできる」発言を否定できないので、それ以上はふれず、
「つっても、ゆか、まずいのは数学と生物くらいだろ?」
「え、そんなことないよぉ」ゆか、心外そうに、「ほかもめちゃくちゃ成績わるいからね~!」
「どうして自慢げなんだ」
「英語くらいしかできないねぇ」
「おー、これは……」しお、首をかしげて、「勉強会だなー」
「そうだな。週末うち来るか?」
「いく~……」
「うめちゃんも呼ぶか。生物の先生に」
「そだなー」
と、その会話をよこで聞きつつ、一年生も、
「勉強会かぁ」と、かうな。「わたしたちもやるっ? なんか高校生っぽいし!」
「いいよ。うちに来る?」
「シーちゃんのおうち?」ねね、興味ぶかそうに。
「うん。ハブ酒あるよ」
「え……そっか、すごいね……?」
「すごいけど高校生っぽくない!」
かうな、あきらめて、
「みき先輩~!」と、たすけを求める。
「お、かうなちゃんもわたしの家、来る?」みき、やさしく、「ハブ酒はないけど」
「いりませんよっ!」
「いらないの、牛ちゃん?」
「う、うちはうれしいよ……あったら……!」
「うんうん、ねねちゃんはいい子だね」
「そんな気を利かせなくていいのっ!」
とはいえ、みき、六人も呼ぶとなると、ちょっと家が狭くなりそうである。しお、ゆか、うめくらいなら、まえも勉強会したことがあるし、問題ないが、一年生が三人増えたら、それはそれでスペースがとれない。
「じゃ、ゆかの家でよくねー」と、しお。
「わたしの家? いいよ~、ついでに楽器も弾けるしねぇ」
「勉強会だからな、勉強会」
「ゆか先輩のお家って、どんなところなんですかっ?」
「豪邸」と、しお、端的に。
「わたしの家よりですか?」と、シー。
「シーちゃん、豪邸ずまいなの……?」ねね、訊ねてみる。
「いや、ふつうのマンション」
「えっと……?」
「お菓子いっぱい用意しとくねぇ」
ゆか、もはや能天気だった。先がおもいやられるようで、みき、額に手をあてる。
【陈诗涵 高校一年生】
一見クールな高校一年生。
正体は不思議ちゃん。
最近のマイブームは地図を眺めること。地図アプリで知らない町を延々と眺めるだけで、数時間溶けることも。




