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朝を歩け。  作者: 維酉
3rd Single【夏への扉】
85/176

80 赤点

 現代文の授業おわりに、みき、教卓の前田先生と話していたら、


「期末おわったら、コンクールの練習だね」


 と、いわれた。みき、なんのことかわからず、


「コンクールですか?」と、訊き返す。

「うん。あれ、いってなかった?」

「……」みき、必死に記憶をさぐり、「いや、なんか、たしかにそんな話がでたことある気も……」

「ごめん、実はもうエントリーしてあるんだよね……」

「……」


 みき、膝から崩折れるところだった。文化祭にばかり集中していたから、そのあとのことなんて、正直なところ考えてもなかった。


「えっと」みき、冷静になるようつとめて、「いつでしたっけ、そのコンクールとやらは」

「八月の三日だね」

「今日、何日でしたっけ」

「さいきん、七月になったよね」

「……」


 どちらも、日付感覚が貧弱だった。かおを見合わせ、びみょうな空気。それから、ふたりして黒板の右端、日付が書いてある場所に注目する。


「七月……四日だね」

「一か月切ってる!」


 みき、めずらしく大声をだすので、教室の注目を集めてしまう。あ、ごめん、なんでもない。前田先生はわらっている。


「わらいごとじゃないですよ」と、今度はちいさく。「試験期間中は部活できないですもんね」

「うん。明日から二週間は部活できないね」

「じゃあ、実質、練習できる日は……」

「まぁ、二週間弱ぐらい?」


 あたまが痛くなってきた。練習できるのは二週間弱。そう考えると、こころもとない期間におもえてくる。


「だいじょうぶだって」と、前田先生、気楽な調子で、「文化祭の演奏、すごくよかったし。あのパフォーマンスができれば入賞くらいできるとおもうよ」

「そうですかね……」

「うん、うん。そう身構えなくても、ちょっとした交流会だとおもえばいいし」

「はぁ、交流会」

「そうそう。他校の軽音楽部と知り合う機会なんて、あんまりないでしょ? コンクールで演奏して、ほかの子の演奏も聞いて、あわよくば友達つくって帰ればオールオッケー」


 ついでに入賞できればもっといいね。前田先生、明るくわらいながら。


「いうて、そこまで大きな大会でもないから。いちおう、県規模の大会だけど」

「はぁ」

「いい賞とったら全国いくけど」

「……」

「東京、いきたいかー⁉」

「そのノリわかんないです……」

「うん、だよね」


 前田先生、とりあえず教材をまとめつつ、


「まぁでも、ほんとうに、重たく考えなくていいよ。平川の軽音楽部だって、去年に復活したばかりなんだし」

「ひとまず、部員には伝えておきます」

「うん、おねがいね」


 と、教室をでていこうとして、先生、


「でも、みんななら、けっこういいとこいくとおもうよ」

「そうですか?」

「うん。お世辞とかじゃなく」前田先生、にっこりと、「だから、練習がんばってね。そのまえに期末か」


 絶対に補充は回避してね。それだけいいのこし、教室をでていく。


 たしかに、もし赤点をとって、補充になったら……練習できなくなるし。


 みき、軽音楽部の学業をふくめて、いろいろと不安になりながら席にもどった。



【大矢かうな 高校一年生】


 元気はつらつな高校一年生。

 ギターと釣りがだいすき。


 最近のマイブームはネイル。爪を伸ばすことは控えているが、まいにち手入れしたり、休みにちょっとおしゃれしたりするのがたのしみ。

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