80 赤点
現代文の授業おわりに、みき、教卓の前田先生と話していたら、
「期末おわったら、コンクールの練習だね」
と、いわれた。みき、なんのことかわからず、
「コンクールですか?」と、訊き返す。
「うん。あれ、いってなかった?」
「……」みき、必死に記憶をさぐり、「いや、なんか、たしかにそんな話がでたことある気も……」
「ごめん、実はもうエントリーしてあるんだよね……」
「……」
みき、膝から崩折れるところだった。文化祭にばかり集中していたから、そのあとのことなんて、正直なところ考えてもなかった。
「えっと」みき、冷静になるようつとめて、「いつでしたっけ、そのコンクールとやらは」
「八月の三日だね」
「今日、何日でしたっけ」
「さいきん、七月になったよね」
「……」
どちらも、日付感覚が貧弱だった。かおを見合わせ、びみょうな空気。それから、ふたりして黒板の右端、日付が書いてある場所に注目する。
「七月……四日だね」
「一か月切ってる!」
みき、めずらしく大声をだすので、教室の注目を集めてしまう。あ、ごめん、なんでもない。前田先生はわらっている。
「わらいごとじゃないですよ」と、今度はちいさく。「試験期間中は部活できないですもんね」
「うん。明日から二週間は部活できないね」
「じゃあ、実質、練習できる日は……」
「まぁ、二週間弱ぐらい?」
あたまが痛くなってきた。練習できるのは二週間弱。そう考えると、こころもとない期間におもえてくる。
「だいじょうぶだって」と、前田先生、気楽な調子で、「文化祭の演奏、すごくよかったし。あのパフォーマンスができれば入賞くらいできるとおもうよ」
「そうですかね……」
「うん、うん。そう身構えなくても、ちょっとした交流会だとおもえばいいし」
「はぁ、交流会」
「そうそう。他校の軽音楽部と知り合う機会なんて、あんまりないでしょ? コンクールで演奏して、ほかの子の演奏も聞いて、あわよくば友達つくって帰ればオールオッケー」
ついでに入賞できればもっといいね。前田先生、明るくわらいながら。
「いうて、そこまで大きな大会でもないから。いちおう、県規模の大会だけど」
「はぁ」
「いい賞とったら全国いくけど」
「……」
「東京、いきたいかー⁉」
「そのノリわかんないです……」
「うん、だよね」
前田先生、とりあえず教材をまとめつつ、
「まぁでも、ほんとうに、重たく考えなくていいよ。平川の軽音楽部だって、去年に復活したばかりなんだし」
「ひとまず、部員には伝えておきます」
「うん、おねがいね」
と、教室をでていこうとして、先生、
「でも、みんななら、けっこういいとこいくとおもうよ」
「そうですか?」
「うん。お世辞とかじゃなく」前田先生、にっこりと、「だから、練習がんばってね。そのまえに期末か」
絶対に補充は回避してね。それだけいいのこし、教室をでていく。
たしかに、もし赤点をとって、補充になったら……練習できなくなるし。
みき、軽音楽部の学業をふくめて、いろいろと不安になりながら席にもどった。
【大矢かうな 高校一年生】
元気はつらつな高校一年生。
ギターと釣りがだいすき。
最近のマイブームはネイル。爪を伸ばすことは控えているが、まいにち手入れしたり、休みにちょっとおしゃれしたりするのがたのしみ。




