77 もうすぐ
みき、月曜日は部活もないので、はやめに帰っていたら、
「あ、おねえちゃん!」と、うしろから声をかけられた。
はて、わたしにいもうと、いたっけかな。おもいつつ、ふりむくと、ランドセルを背負ったおんなのこがこちらに駆けてくる。
「やっぱり、このあいだのおねえちゃん!」
いわれて、おもいだした。つい最近、まいごになっていたところをたすけた、ちいさなおんなのこ――新藤さつきだ。
「こんにちは」と、あいさつしてみる。「いま帰り?」
「うん! おねえちゃんも?」
「そうだよ」
じゃ、いっしょに帰ろう! と、屈託のないえがおでいわれる。みき、子どもにはよわいので、間を置かずにうなずいている。
ということで、六月の暮れ、ならんで歩きながら、
「このあたりには、もう慣れた?」と、訊く。
「うん! まいごにはなんないよ!」さつき、自信たっぷりに。「いっぱいボーケンしたから!」
「冒険?」
「もくようびは、四時間でおわりだから……はやくかえって、パパとボーケンしたの」
「そうなんだ」
聞くと、どうやらあたり一帯をていねいに散策したらしい。このあいだ、まいごになっていた公園をはじめ、バス通りから、ちょっと離れたみきの団地まで。
だから、もうまいごにはならない。そう繰りかえすさつき、満面のえみである。
「そういえば、おねえちゃんって」と、こんどはさつきから、「こうこうせい、なんだよね」
「うん、そうだよ」
「さつきのおねえちゃんもね、こうこうせいなの」
「へぇ、おねえちゃん、いるんだ」
「うん。でも、いま、りゅーがくしてるから、あえないんだ」
「留学? 外国にいるってこと?」
「そう! あ、でも、もうすぐ帰ってくるんだって。このあいだ、電話でいってた」
「たのしみだね」
「うん!」
で、ちょっと〈おねえちゃん〉の話をきいてみる。イギリス留学しているらしいその子は、なにか交換留学のプログラムで一年ほど向こうにいっているとか、なんとか。
その留学期間がそろそろおわるみたいで、さつき、うきうきしている。
「ちなみに、もうすぐって、どれくらい?」
「三日後だって」
「え⁉」おもってたより、ずっとはやかった。「そっか……うれしいね」
「うん!」
というか、そもそも、七月ってそんなにすぐなのか――と、みき、あたまのなかでカレンダーをだす。もう、文化祭基準で、あと何週間、あと何日……とだけ考えてたせいで、日付感覚も微妙になっている。
と、どこからか五時のサイレンが鳴った。まずい! と、さつき、寄り道しすぎたとくちばしって、
「いそごう、おねえちゃん!」
「わっ、うん」
いきなり走るので、みき、小学二年生の足にがんばってくらいつく。けっこうはやい。さすがにまかれることはないし、むしろ余裕なのだけど、小学生の元気がありあまっているかんじと張りあうのは、意外としんどい。
というか、おもわずついていってるけど、わたしの家、べつの団地なんだよな。まぁいきなり走りだすような小学生は、放っとけないし、送るぐらいはしようか。みき、いちおう安全に配慮しつつ、伴走する。
で、無事に到着。若干、息をきらしつつも、まじめに体育を受けておいてよかった。らくに走れた。
「じゃあ、バイバイ! おねえちゃん!」
と、さつきは手を振って家にはいっていく。みき、すっかり息を整えて、手を振りかえす。
――走るのはわるくない。体力はあるし。
ただ、ひとついうなら、いま、ずいぶん暑い。たしかに七月、夏はもうすぐらしかった。
【夏井みき 高校二年生】
毒舌だが根はやさしい高校二年生。
子どもによわい。
最近のマイブームは落ちものパズルで、暇な時間によくやっている。うめとねねもおなじゲームをやっており、うめがいちばんうまい。




