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朝を歩け。  作者: 維酉
はじめてのEP【S・S・G】
81/176

76 推し

 びしょ濡れのジャージで、うめ、


「風邪ひいちゃうね」と、こまりがお。「ゆかちゃん、だいじょうぶ?」

「うん……」ゆか、髪をぐしょぐしょにして、「ちょっと寒いけど~……」


 午後いちばんに体育をやっていたら、急に降りだして、もうびっちょりだった。しかたないので、ぱたぱたはしって更衣室に逃げこんできたところ。


 うめ、タオルを二枚ほどひっぱりだして、片方をゆかにわたす。ありがと~、とゆるふわな感謝をされる。


 で、タオルにかおをうずめたゆか、


「わっ」と、声をあげて、「うめちゃんのにおい~」

「あ、くさかった……? 交換する?」

「ううん、これ落ち着くから~」

「そう? それ、なんかはずかしいけど……」


 うめ、じぶんのぶんのタオルをかいでみる。べつに、これといってにおうわけでもない。というか、じぶんのにおいって、よくわからないし。


「まぁ、はやく着替えちゃおっか。自習にかわるらしいし」

「そうなの~? ラッキーだねぇ」

「うん。濡れちゃったけど、得もしたかんじ」

「いっぱい寝れるね~」

「あはは……土曜日はがんばったしね」

「うん、うん~」


 で、ふたりとも、はやいところ着替えてしまう。降られたといっても、すぐ逃げられたし、濡れた髪がうっとうしいくらいで意外とすむ。


 更衣室をでて、教室まで。クラスメイトの女子たちも、ぞろぞろと階段をのぼっていく。


「うめちゃん、けっこうまえのほうにいたよね~」と、ゆか、あるきながら。

「え、まえのほう?」うめ、しばし考えて、「あ、文化祭か。うん、ののちゃんがいいとこ見つけてくれたの」

「ステージから見えてたよぉ。なんか泣いてなかった~?」

「ののちゃん、たしかに泣いてたね」

「おねえちゃんだから?」

「あ、うん。あのボーカルの一年生、いもうとさんなんだよね」

「そぉ、ねねちゃん」

「あの子がうたいだした途端に、泣きだしちゃったから、わたし、ちょっとびっくりしたけど」

「感動したんだねぇ」

「うん、うん」


 うめ、つよく肯く。で、おもいだす。たしか、のの、本番前に「いもうとがちゃんとうたったら泣いちゃうかも」といっていた。冗談だとおもって、はんぶん聞き流していたのだが。


「ほんとうにすきなんだね、いもうとさんのこと」

「みたいだねぇ。ねねちゃん、いい子だもんねぇ」


 そういえば、うめ、そのねねちゃんとやらをはじめ、軽音楽部の一年生についてはよくしらない。いや、そりゃ学年もちがうし、そもそも軽音楽部のメンバーでもなんでもないから、当然だが。


 いうて、ゆかたちと話していて、たまに話題にあがるので、なんとなく聞きおよぶところもおおい。たとえば、ねねちゃんという子は、ののちゃんのいもうとで、ずいぶん人見知りをしちゃうのだとか。そこはちょっと、うめ、親近感がわくところ。


「その、ねねちゃん、だっけ。すごくうた、上手だったね」

「うん~。もう有名人になったよねぇ、きっと」

「有名人か……たしかにね。学校の人気者ってかんじかも」

「いやぁ、まずいねぇ」

「あ、まずいんだ」

「だって……ねねちゃん、知らないひとに話しかけられたら、干からびちゃうし」

「干からび……?」


 表現のしかたはよくわからないが、大意としては人見知りして、話しかけられても、ろくに会話もできないまま、意気消沈して、やたらダメージを負って……というかんじ、だろうか。


 だとしたら、うわぁ。すごい親近感。


「だんだんすきになってきたな、その子のこと……」

「ねねちゃんのこと?」

「うん。推し」

「そっかぁ。伝えとくねぇ」

「え?」

「推してくれるひとがいるって」

「うーん」うめ、なやんで、「それは、やめといたほうが、いいんじゃないかなぁ」


 そう伝えるのは、へんにプレッシャーをかけてしまいそうで、本意ではない。それに、推しに認知されるの、あまりすきではないし。


「草葉の陰から見守ってたいな」

「生きて、うめちゃん」

「あ、うん。じゃあ、ふつうに見守るね」


 教室について、それぞれ席につく。ゆかはほんとうに寝ていた。



【握津ねね ボーカル担当】


 軽音楽部の一年生。

 極度の人見知り。


 文化祭のあと、ちょっとした有名人になってしまい苦しんでいる。クラスではシーがちょっとしたボディーガードになっているらしい。

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