03 おしるこ
「バレーって痛くね」
しお、ジャージの袖めくって、赤くなった手首をさらす。
「わかるよ~」
「でもたのしいじゃん」
「たのしいよね~」
「たのしいかー」
「ジュース買って教室いこうか」
「さんせ~」
着替え終えて、自販機にいく。みき、緑茶。しお、ミルクティー。ゆかは、おしるこ。
「おしるこって、どうしておしるこっていうんだろうね~」
「粉っぽいじゃん」
「そうか?」
「そうなんだね~」
風、つめたくつよく吹いて、思わずみきは目をつむる。寒い~、ゆかの声が聞こえる。両手で包み込んだ二八〇ミリリットルの緑茶、あたたかく、冬によくにあう。
「はやくなか、入ろ~」
「そだね」
「あーさみぃ」
校舎に入って、階段にみきが足を掛けたら、
「あっ」
「ん?」
振り返り、ふたり、軽くグーを掲げて、みきを見ていた。
「いや、グリコはしねーよ?」
「え~」
「いーじゃん、もう昼休憩なんだし」
「しねーって」
苦笑気味、みきはやれやれといった感じで、一段さがる。
「でも寒いだろ」
「そーだけどさー」
「このあいだの、消化不良だったじゃない~」
「だったらあの神社でやればよくね?」
「あー、まあね」
「さっさと教室もどろうよ」
校舎内、がやがやとしてきて、さんにん、それなりのひとごみを避けながら、教室に向かう。みんながみんな、寒い寒いと口にしていた。思うことはだれも一緒で、冬、腕を伸ばしたのがよくわかる。
「十二月、入ったんだっけ」
「いまさらだなー」
「もう入ってるよ~」ゆかがゆったり話す。「雪、いつふるのかな~」
「気が早いでしょ」
「そーでもないと思うぜ」
「もし雪がふったら、このさんにんで雪遊びしたいねぇ」
「そりゃ一月になるだろうな」
「それでもたのしみだよ~」
教室の前に着いたら、まだ、教室が開いていなかった。カギ、持っている生徒がまだ戻っていないらしい。
みきは廊下の壁にもたれて、緑茶のふたをぱすりと開けた。
「おしるこって、甘いんだっけ~」
「そうだよ」
「わたし、甘いの苦手なんだ~」
「なんで買ったの……」
「あたたかそうだったから~」
「あたしのミルクティーとかえる?」
「いいの~?」
「いーぜ」
「ありがとうね~」
「ゆか、甘いの好きなんだと思ってた」
「好きだよ~。好きだけど苦手なの」
「ん、ん……?」
「わかんなくはないなー」
「わたしは一ミリもわかんねーや」
カギを持ったクラスメイトが走って上がってきて、教室が開いた。お弁当~、とゆかがたのしげに歩いていく。
「しお」
「ん?」
「おまえ、おしるこ飲みながら弁当食うの?」
「……悪くはないんじゃね?」
「交換したげようか?」
「んー、みきって、やさしいよね」
面と向かっていわれた。それはそれで、なんというか、恥ずかしかった。
「いーよ、あたし、雑食を極めてるから」
「そう」
「ふたりとも~、りんごあげる~」
「お、ラッキー」
「くれくれー」
もらったりんごはサクサクしていて、すごくおいしかった。
【戸殿ゆか 高校一年生】
マイペースで天然、おっとりした言動が特徴的。
みき、しおからは保護者のような眼差しで見守られている。
動物が好きで、特にねこには見境ない。将来、ねこを五匹ほど飼ってみたいらしい。