72 テイク・ミー
体育館二階の放送室で、観客席をながめると、ずいぶんひとで混んでいた。いまは、演劇部のステージ、その終盤だが、よういされた客席はだいたいうまって、うしろには立ってながめているひともいる。
みきのしっているかおもたくさんあって、うめとののは、けっこうまえのいい席をとっている。
一方で、うしろには、大元みい子のすがた。ほんとうにきてくれたらしい。で、そのとなりに、前田先生。やっぱりあのふたり、しりあいなのかな。
「昼からこんなかんじで、超満員だよ、体育館」と、放送部の女子。
「やっぱり盛りあがるんだね、うちの文化祭」
「市内のどまんなかで、けっこうハデにやるしね。つぎ本番でしょ? がんばってね、応援してる」
「うん、ありがと」
と、しゃべっていると、そろそろ時間がちかい。みき、放送部のともだちにもういちど礼をつげて、一階、ステージ裏におりる。
待機していた軽音楽部、なかでもしお、
「どんなぐあいだったー?」と、ちいさく。
「想像の倍くらい、ひといたな」
「お、おーっ! もえますねっ……!」
かうな、ものすごくうわずったこえ。本番の時間が刻一刻とせまるうちに、やはりどうしても緊張がでている。
で、それは一年生ぜんいんおなじで、ねねはもちろん、くうきにあてられたのかシーまで強張ったかおをしている。
「リラックス、リラックス」と、みき、かうなの肩を叩き、「さんにんとも、さっきいいかんじだったじゃん。あの勢いでいこうよ。それに、えーっと、なんだっけ、お客さんのかおは……」
「カピバラ?」
「うぉ、ウォンバット……」
「いえ、ミーアキャットです」
「うん。おのおのいちばんすきなやつでいこうか」
「わたしカピバラでいいっ? ウォンバットもミーアキャットもかおが微妙におもいだせないし」
「う、うん……シーちゃんは?」
「なやましいね……」うでを組んで、「でも、わたしがはじめた物語だもんね」
「え、うん……そうかも?」ねね、首をかしげつつ。
「ひきとりましょう、ウォンバット。うみだしたいのちには責任をもたないと」
「えっと、よくわかんないけど……じゃあ、うちがミーアキャットね……!」
「きまりました、先輩っ! いけそうです!」
「あ、うん。いけそうならよかった」
どうぶつの担当わけをするとはおもわなかったが、緊張がほぐれたのならそれでよい。
あと、本番前にあやしいのは、ゆかだけど、
「うわ~ん」泣いている。
「え、どうしたおまえ」みき、さすがに戸惑って。
「演劇部……」ゆか、ステージをゆびさして、「めちゃくちゃよかったぁ……」
「そっか……」
「おー、演劇部おわったのかー」
「掃けてくるな。とおりみち開けて」
終演直後の演劇部たちが、おおぜいステージ裏に。みきの見知ったかおもけっこういる。
「みきちゃーん、つぎ出番ー?」と、演劇部員にはなしかけられて、「わっ、戸殿さん、どうして泣いてるの⁉」
「感動したらしい」
「ロミジュリよすぎてぇ……」
「え~、ほんとっ? うれしい~!」
ほかの女子部員もあつまってくる。みき、ゆか、かこまれてしまい、
「軽音楽部って、つぎだよね?」
「え~、めっちゃ応援してる!」
「もうめちゃくちゃ盛りあげちゃう! がんばってね!」
と、ステージおわりのハイなテンションでまくしたて、やがて嵐のように去っていく、演劇部。ゆかが泣いてくれたのが、だいぶうれしかったらしい。
いれかわるように、実行委員の一年生がでてきて、
「つぎ、軽音楽部さん、楽器セットしましょう」
「よし、みんな」みき、いよいよきりかえて、「準備、いくよ。二年生はドラムセットはこぶから、一年生はキーボードとアンプ、あとマイクスタンドかな、おねがい」
「はいっ!」
かうな、元気のいい返事。おのおの、仕事にとりかかって、幕のおりたステージへ向かう。
【ウォンバット】
かわいい。
シーが生みだしたイマジナリーアニマル。
シーが生みだしたいのちなので、責任をもって引き取ることになった。ぶっちゃけシーもウォンバットの顔がいまいち思い浮かばない。




