71 ピニャータ
十四時、部室には軽音楽部の面々があつまって、いよいよ本番まぢかである。とはいえ、メンバーのようすは――いすのうえで固まっているねねをのぞけば――わりといつもどおりに見えて、みき、安心する。
シー、
「牛ちゃん」と、呼びかけている。「髪、結びなおそっか。さわぎすぎてボーボーだし」
「わっ、ありがとう!」
「みきも髪型かえてみる~?」と、ゆか。
「本番だけかえたら、落ち着かねぇしなぁ」
「それもそうだねぇ。ドーナツたべる?」
「まだたべてんのか」
「たべてないと落ち着かなくてぇ……」
ぜんぜん、いつもどおりじゃなかった。
「ドラムさわれたらいいんだけどねぇ」
「あぁ、もう体育館にはこんでるしな」
「これでも叩くかー?」
と、しお、どこからかくす玉様の物体をもちだす。ひとのあたまよりずっとおおきい。
「なんだ、それ」
「ピニャータ」
「なんでだよ」
「あおばちゃんからの差し入れ」
「マジになんでだよ」
かわいい教え子の初ステージ直前に、なぜピニャータなぞ差し入れるのか。あのひと、やっぱりまともではない。
「打ち上げならまだしもな……」
「打ち上げでもおかしいだろー」
「まぁな。どうする、ゆか? これ叩く?」
「いや……わかんない……」
「引くなよ。顧問のやさしさだぞ」
とにかく、ゆか、ドーナツはしまった。ピニャータは叩かなかったが、こんなところで体力をつかわれても困るし、べつにいい。ひとまず、ピニャータは邪魔なのですみに置いておく。
などとやっていると、
「はい、完成」と、シーのヘアメイクがおわっている。「しっかりまとめたから、ステージではしりまわってもだいじょうぶだよ」
「うん! 駆けずりまわる!」
「あ、そうだ。ねねちゃん」
「ひゃいっ⁉」
緊張に固まっていたねね、いきなり呼ばれて高音のなきごえ。そんなねねに、あゆみよりつつ、シー、
「ねねちゃんの髪も結ってあげる」
「え、うちも?」
「いいね! せっかくだから、かわいくしようよっ」
「う、うちはそんな……むしろ目立たないようにしたい……」
「それはむりだよ、さすがに」
「うっ」
冷静なシーのことばに刺されて、ねね、しぶしぶヘアメイクを受入れる。やわらかく、くしをいれられ、もはやされるがままである。
「いい機会だし、前髪あげちゃおっか」
「へっ⁉ は、はずかしすぎる、それは……!」
「だいじょうぶだよ、かわいくするから」
「そ、そういう問題じゃなくて……」
「ふふ、緊張しすぎだよ、ねねちゃん」シー、いたずらげに、「このあいだもいったでしょ、お客さんのかおは、みんなカピバラだとおもえばいいんだよ」
「あ、あれ……ウォンバットじゃなかったっけ……?」
「そうだっけ?」
「たぶん……うち、あのあとウォンバットしらべたから……!」
「そっか……じゃあ、あいだをとってミーアキャットにしよう」
「えっ⁉」ねね、とまどって、「お客さんって、みんな立ってるの?」
「そこなのっ⁉」かうな、めずらしくツッコんでいる。
「はい、できた」シー、コンパクトミラーをだして、「どう?」
「お、おでこが……」
「うん。かわいいおでこだね」
「うぅ……」
両手でひたいを隠そうとするねねの肩を、シー、ぽんと叩いて、
「自信もっていいよ。わたしが仕上げたんだから」
「そうだよ、ねねちゃん」かうなも、顔をのぞいて、「ねねちゃん、かわいいし、うたも上手だし、なによりずっと練習してきたんだからっ! ぜったい、うまくいくよ」
「かうなちゃん……」
「いっしょにがんばろっ、ねねちゃん!」
「……」ねね、ついに腹をくくって、「うん!」
――そんなさんにんのようすを眺めて、しお、
「一年生、いいかんじだなー」
「うん。いい演奏になりそう」と、みき。
「わたしたちも、結束かためる~?」
「どうやって?」
「そだなー」しお、ピニャータをもちかかえて、「これ」
「最悪だよ」
と、そんなこんなで時間になったので、体育館へ移動する。おのおの、楽器をもって部室のそとへ。
一年生が先行し、かうな、ステージの宣伝しながら移動している。みき、そんなたくましい後輩の声をききながら、部室の鍵を閉めた。
【握津ねね 担当:ボーカル】
軽音楽部の期待の新星ボーカル。
極度の人見知り。
ガチャガチャがすきだが、だれかと回しにいくでもなくひとりで遊びに出かけるので、実のところ姉以外知らない趣味。歌が上手なことも、むかしは姉しか知らなかった。




