70 0.5ドーナツ
お昼どき、屋外でやっている出店の、焼きそばを買って、いつものメンバーでたべる。みき、しお、ののはソースで、うめ、ゆかは塩焼きそば。
いいかんじのベンチを見つけたから、そこに並んで座っている。
「大成功だったね、シンデレラ」と、のの、箸を割りつつ。「うめちゃんのお芝居よかったよ」
「あ、そうかな……?」はにかんで、うめ、「大根じゃなかった?」
「大女優だったなー」しおも会話に加わって、「『こんなところにほこりがたまってますわ、シンデレラさん』……って」
「あ、やめてよぉ。恥ずかしいからぁ」
シンデレラの劇で、うめ、継母役だった。シンデレラをいじめ抜く役柄が、意外にもしっくりきてしまうほど、演じきっていた。
「実は本性、あっち?」と、みき。
「へっ? そ、そんなことはないと……おもいたいけど」
「役と演者の人格はわけて考えるべきだよ、みきちゃん」
「湯葉と豆腐がちがうようになー」
「たとえがわかんねぇよ。酔ってんのか?」
「みき~」と、ゆか、いつもどおりマイペースで、「あそこにベビーカステラがあるよぉ」
「いや、あわねぇだろ、焼きそばに」
「食後のおやつだよぉ」
「まぁいいけど。食いすぎてドラム叩けないとかはやめろよ」
「善処します~」
「不安だ……」
ゆか、焼きそばをみきにあずけて、ひとり屋台にきえていく。そのうしろすがたを眺めて、確認するように、うめ、
「軽音楽部の出番は、三時からだったよね」
「うん。ま、集合はもうちょっとはやいけど」
「うち、たのしみだな」のの、焼きそばをのみこんで、「みんなの演奏、はじめて聴くし。ねねも出るしね」
「わたしももちろん、観にいくよ」
「ありがと、ふたりとも」
「親御さんとかきたりするの、やっぱり」と、のの。
「あぁ、わたしのおとうさんは仕事はやあがりでくるとか、なんとか」
「あたしの親はきてたな、もう」しお、なんともなげに、「お化け屋敷も見にきたし。あとは、そうだな、みきの人脈がものをいう」
「まぁ、いろんな子に応援はされたけど……」
「そっか、なら客席満員かな」と、のの、しきりに肯いて。
「ベビーカステラ買ってきた~」
ゆか、おおきな紙袋を抱えてもどってくる。どれだけひかえめに見積もっても、食後のおやつ、という量ではなさそうである。
ゆか、焼きそばを受けとって、
「なんの話してたの~」
「客席埋まるかなって話」と、みき。「ゆかは家族とか、くるのか?」
「両親ともどもくるよぉ」
「おー、緊張するなー」
「そうだねぇ、緊張するねぇ」
「ゆかはともかく、しおはねーだろ」
「おまえ、あたしをなんだとおもってるんだ」
「するのか、緊張」
「しないけどー」
いまさら緊張してもしかたないしなー。しお、あっけらかんといいやがる。
まぁ、そういうところが、たのもしいのだけど。
「そういえば、ドーナツもあったんだよねぇ」
「え、ベビーカステラだけじゃなかったのか?」
「うん~、ののちゃん、たべる?」
「いいの? じゃあ1ドーナツもらおうかな」
「うめちゃんは~?」
「あ、じゃあ、1ベビーカステラで」
「なんなんだ、その単位」
「しおは~?」
「1.5ベビーカステラ」
「刻むなよ」
「みきにも~」
「あー……まぁ、0.5ドーナツで」
「みきも刻んでんじゃん」
食後のおやつに、ドーナツとベビーカステラを、それぞれたべる。ゆかは、はてしない量をたべていたが、胃が無尽蔵なので問題なさそうだった。
【握津のの 高校二年生】
みきのクラスメイト。
明るく人当たりのいい女の子。
軽音楽部の一年生、ねねの姉で、妹のことをずいぶんと溺愛している。妹とは対照的に行動力があって、人と話すのがすき。




