69 ライプニッツ
のの、ハイテンションで、
「文化祭、まわるぞー!」
おー、と、みき、いちおう返事をしてみる。
朝イチからはいっていたカフェの当番がおわり、十一時。軽音楽部の集合時間は十四時なので、ひととおりまわるくらいの時間はある。
ということで、ののといっしょに、文化祭をたのしむことにした。
「さて、じゃあ、どこいこうか」のの、パンフレットを広げて、「シンデレラの劇は観たいよね。うめちゃん出るし」
「開演時間は?」
「二組の教室で、十一時半から、だって」
「なら、さきに一組のお化け屋敷いかない?」
「そうだね。しおちゃんのようすも気になるし」
ということで、まずは一組の教室へ。呼び込みをしている生徒にこえをかけて、さっそく入場してみる。
なかはおもっていたより本格的で、いたるところに暗幕が張られているので、灯りは入口でわたされたちいさな懐中電灯だけ。演出だろう、どこからか刃物を研ぐ音もきこえてくる。
段ボールでできた壁のあいだを、ふたり、ゆっくりすすんでいく。
「これ、ちょっと想像以上かも」のの、ちいさく、「みきちゃん、ちゃんとまえ照らしてね……」
「うん」と、肯いたら、ライトが点滅して、「あれ、これ電池ある?」
「うそ⁉」
「じょうだん」みき、スイッチを切り替えながら、「意外とこわがりなの?」
「うぅ、こわいのはすきなんだけど……そととのギャップが激しすぎて」
「あぁ、それはたしかに」
とはいえ、のの、徐々に慣れてきたようで、すこしすると平静になりつつある。
が、いきなり生首が落ちてきたり、ちょっとお化け役の生徒に追いかけられたり……数々のびっくりポイントでは、しっかり「きゃあ!」と叫んでいる。
そんなこんなで、さんざんに(おもにののが)驚かされつつ、ようやく終盤にさしかかったところで、出口のてまえに井戸がある。
もちろん、つくりものだが、おどろおどろしい音響とスポットライトのせいで、みょうに迫力がある。
「こ、これ、でるよね、確実に……」のの、こえを震わせている。
「でるだろうね」みき、対照的に冷静。「いってみようか」
おそるおそるまえを通過しようとすると、大きな太鼓の音とともに、
「ばぁ!」
「わぁっ!」
「うわ、ののちゃん、痛い痛い」
みき、うでをがっしり掴まれた。けっこう痛いのだが、のの、はなれるようすはなく、というかお化けに目を奪われいてる。
みきも、お化けに注目してみる。かなりのメイクでわかりにくいけれど、見覚えのあるかおだち。
と、お化けは井戸のなかから数枚の紙皿を取りだし、
「いちまい、にまい、さんまぁい……」
「あ、これ知ってる」と、のの。「いちまい足りないやつだ」
「まさか。ののちゃん、これはそんなベタなやつじゃないよ」
「え、そうなの?」
「はちまぁい、きゅうまぁい、Aまぁい、Bまぁい……」
「十六進数」
「0枚足りない……」
「足りてるね」
「パズルのピースがひとつ足りない……」
「さいごのさいごで萎えちゃうよね」
「紙が足りない……」
「お手洗いでこまるやつだ」
「神はさいころを振らない……」
「量子力学アンチだ」
「モナドには窓がない……」
「ライプニッツだ」
「へんじがない……」
「ただのしかばねのようだ」
「もうネタがない……」
「がんばれ、もっといけるよ!」
「うーん、うーん……」お化け、うなって、「もうやめたぁい……」
「もうだめ?」
「うしろ詰まるからぁ……」
「あ、それもそっか」
と、どうやらおわったらしい。みき、途中からきいていなかったが、ののがあるきだしたので、ついていく。すると、お化け、というかしおも井戸から出てきた。
「あれ、当番おわり?」と、のの。
「おー」しお、けだるげに、「シンデレラ観にいかないといけねーじゃん」
「井戸、そのままでだいじょうぶなのか?」
「さぁ。そもそも交代時間すぎてんだけどなー」
「ともだちが足りない」
「うるせー」
さんにんそろって廊下にでると、めちゃくちゃまぶしかった。
【笹田うめ 高校二年生】
ゆかのクラスメイト。
卓球部員で、好成績を収めている。
軽音楽部の二年生と距離が近く、ファン第一号を自称している。カエルのことが病的にすき。




