68 寝落ち
カレンダーの金曜日に、バツをつける。あしたの日づけには大きくマルがしてあって、「文化祭本番」の文字。
みき、今日ははやめに寝ようとおもって、ベッドにこしかけると、ちょうど携帯に通知がはいった。見ると、グループ通話がはじまっている。発信者は、ゆか。
きっと寝れないんだろう、とすぐに予想がついて、まぁせっかくだから参加してみる。
「みき~」と、ゆか、いきなり、「ぜんぜん寝つけないよぉ」
「おう、だろうな」みき、苦笑い。
「ゆかー、だいじょうぶかー」しおも参加する。
「だめだめ~」
「だめだめかー」
「だめだめなんだな」
本番前夜に、だめだめというのはどうかとおもうが。
と、てきとうに駄弁っていたら、一年生も続々はいってくる。で、ねねが、
「あの、うち、ぜんぜん、ぜんぜん寝れなくて……!」
「うん、知ってた」と、みき。
「なかまだねぇ」ゆかの声。「寝れないよねぇ」
「きょっ、今日のリハーサルでもう、もうすでに……限界が……っ」
「まぁ、きもちはわかる」
「わたしも~」
「そだなー」しお、なんともなげに、「めっちゃ緊張するよなー」
「おまえが?」
「うんうん、するするー」
ぜったいに緊張していない口調だ。だからまぁ、みき、放っといて、
「かうなちゃんとシーちゃんは、だいじょうぶ?」
「き、緊張は……してないですよ!」かうなの声。「ただ、こう、たのしみすぎて、一周まわって逆にこわいというかっ」
「それ、緊張してるのとどうちがうんだー?」しお、冷静に。
「シーちゃんは、どう?」
「だいじょうぶです、今日までにやれることは、みんなやりましたから」
「さすがだねぇ」と、ゆか、感心したふうに。
「それにですね」と、シー、つづけて、「明日の運勢、一位でしたから、おひつじ座」
「へー、いいなー!」かうな、くいついて、「それ、やぎ座は何位だった?」
「えっと、みずがめ座はどうかな?」
ねねも興味津々といったかんじ。
が、シー、しばしおしだまって、
「えっとね、ふたりとも」と、ふんいきをあらためる。「うらないなんて、信じちゃだめだよ。どうせ当たらないんだから」
「えっ⁉ いったい何位だったの、わたしたち!」
「も、もしかして……」
「……」
かうなとねね、ひつうな叫びごえをあげた。沈黙が、どうやらトドメになったらしい。
「ねぇねぇ、みき~」と、ゆかも、あきらかにおちこんで、「しし座、八位だったぁ」
「おまえもひくいな、どっちかっていうと」
「うわぁ、もっと寝れないよぉ、みき~! 子守唄うたって~!」
「わたしはおまえの親か」
「えっと、それ……」ねね、おずおずと、「録音していいですか……」
「さすがに恥ずい。てか、うたうとはいってない」
「え~、ケチ~!」
「……」みき、ため息ついて、「わかったよ、一回だけな」
「やったぁ!」
しかたないので、みき、電話口のむこうの軽音楽部員にむかって、子守唄を。
うたいつつ、やっぱりやりづらい。これで、ゆかが寝なかったら、みき、恥ずかしいおもいをしただけでおわる。
が、ちょうどおわったころ、
「……すぅ」ゆかの寝息がきこえた。
「え、ほんとに寝たのか?」
「寝落ち通話になっちゃったなー」しお、のうてんきに。
「えーっと、一年生はどう? 眠れそう?」
「か、家宝にします……!」と、ねね。
「え、ほんとに録音したの?」
「あの、もうすこし繋げてていいですか」こんどはシー、めずらしく不安げに。
「いいけど、どうかした?」
「いえ、ふたりの運勢が意外とわるくて、その、むしろ一位もマイナスなんじゃないかとおもえて」
「あぁ……」
かうなとねね、だいぶ順位がわるそうだったし、ゆかだって中途半端にひくかったので、総合的にみるとたしかに、マイナスかもしれない。
「そういえば、かうなちゃんは?」
「……」反応がない。
「寝てるなー」
「ならよかった」みき、肩をすくめて、「まぁ、通話はのこしておこっか。それこそ寝落ち通話ってことで」
でも、ゆかとかうなちゃんは、起こさないようにね。みき、それだけ伝えて、部屋の電気をけす。ベッドにもぐって、なかまたちの、ささやかな会話に耳をすます。
すこししゃべって、すこしわらって、おやすみをいう。
それで、あしたは、がんばれる気がした。
【玉原しお 担当:ベース】
面倒くさがりな女子高生。
反面、音楽には情熱を注ぐ。
天才肌なところがあり、やってみたら意外となんでもできる能力がある。ただ、やる気にならない限りどうにもならないので、だめだめなときはだめだめ。




