65 師匠
「うん、いいとおもう」と、前田先生。「一年生もしっかりついてきてるし、なにより、二年生の仕上がりがいいね」
月曜日の部活、先生の太鼓判をもらって、軽音楽部の面々、おおよろこびだった。とくに、かうな、ずいぶんとびはねている。
「これは文化祭、たのしみだな」
「はい、がんばりますっ!」と、やはりテンションの高いかうな。
「うんうん、そのまま元気で突っぱしろうね」
前田先生、めがねの奥でにっこりして、
「じゃ、このあとどうする? もうちょっと部活する?」
「そうですね」みき、腕時計を見て、「まだ五時ですし。休憩挟んで、もうすこしつづけようか」
みきのことばに、いちどう、肯く。ひとまず十分くらいの休憩とあいなる。
「あ、そうだ」と、ギターを置きながらみき、「みんな、クッキーたべない?」
「クッキー?」ゆか、耳ざとく、「食べたい~、お腹空いたもん」
「なんかのお土産ー?」
「いや、うちのクラスの出し物でカフェやんだけどさ。それで出すクッキーの、試作、あまったから」
てきとうな机をひっぱりだして、クッキーを広げてみる。それなりに焼いたので、ひとり三枚くらいはじゅうぶんにある。
「先輩の焼いた、クッキー……」ねね、若干声を震わせて、「ほ、ほんとうにいただいても……?」
「もちろん。あと、ハーブティーもあるよ」
「用意周到だなー」
「このお茶と合うようにつくってるからな。ちゃんとした感想がほしくて」
みき、紙コップを七人ぶんならべて、お茶をいれていく。昼ごろに用意したもので、いれものも魔法瓶だし、まだ湯気がたつ。
「先生も、よかったら」
「ありがと。いただきます」
「わっ、おいしい!」と、さっそくかうな。
「うん」そのとなりでシーも肯いて、「サクサクしてる」
「ほどよい甘みでハーブティーによく合いますね!」
「すごく落ち着く味……」
ねねはずいぶん深い息をついている。一年生には、総じてウケがいい。
「ゆかは? 口に合う?」
「一年契約でどうかな~?」
「文化祭限定だよ」
「あたしもそのサブスクはいるわ」
「だからねーんだよ、そんなサブスクは」
「夏井さん、わたしも月二千円くらいなら余裕で出すよ」
「先生まで……」
とはいえ、ここにいる面々にはしっかり好評らしい。そんたくするようなメンツでもないので、自信をもっていいのだろう。内心、安堵しつつ、みきも一枚いただく。
「お、たしかにうまい」
「味見とかしてねーの?」
「ちょっとはしたけどな。ほとんどクラスの子に流しちゃったし」
「え~、それわたしも呼んでほしかった~」
「おまえは劇の練習あっただろ」
「音響なんていなくてもいっしょだよぉ」
「いてやれよ。しかもおまえ、たしか金とってんだろ」
「作曲したぶんはねぇ」
「え、いくら儲けたの?」と、前田先生がくいつく。
「そんなに気になります?」
「ほら、後学のために」
「生徒相手に商売するつもりですか。自分も楽器できるからって」
「そういえば、青葉先生ってなんの楽器ひけるんですか?」
かうな、ハーブティーをたのしみながら、興味津々に。前田先生はしばしかんがえて、
「いちばん得意なのはギターだけど、ベースも弾けるし、ドラムもやったことあるな。ピアノはひととおり。あとヴァイオリンもそれなりにできる」
「わっ、ハイスペック!」
「あおばちゃんのギターはすごいぞー」と、しお、なぜか誇らしげに、「みきの師匠だし」
「まぁ……」みき、複雑な顔で、「最初のころだけで、しかも背中で語る系でしたけどね」
「いやぁ、教えるのにがてなんだよねぇ」
「先生なのにっ⁉」
と、いってしまったかうなに、前田先生はあたまのうしろをかいて、にへらと笑う。そのよこがおを、みき、ハーブティーをのみながらながめて、胸のうちがすこしあたたかい。ハーブの爽やかなかおりが、からだを透きとおっていくのをかんじていた。
【前田あおば 軽音楽部顧問】
平川高校の国語教諭。
軽音楽部の顧問もしている。
先生のわりに学生との距離がちかく、意外と人気がある。で、先生なのにぐうたらで、授業でも小テストを忘れるなどいろいろとルーズなので、これまた人気がある。




