62 わかりにくい?
「六月といえば」と、のの。「ジューンブライドだよね」
「え、あぁ」みき、気のない返事。「そうだね」
「ということで、恋バナしよう」
「えっ」
思いもよらない提案に、つい絵筆をとめてしまう。
「どうしてまた」
「だって暇じゃん」
「暇じゃないよ。看板つくらないと」
で、みき、手元の半分塗装された看板を指さす。文化祭、クラスで喫茶店をやるので、そのとき教室前に飾るやつ。
すでに下書きはされていて、指示通りに色を塗るだけの作業。だからまぁ、単純といえばそうだけれど、かといって暇ではない。
「みきちゃんは好きなひと、いる?」
べたべた塗りながら、のの、訊ねる。とりあえず、仕事をする気はあるらしい。
みきも作業を再開して、
「いないよ」あっけらかんと、答える。「そういうののちゃんは?」
「います」
「えっ」
みき、ついつい、また絵筆を止めてしまう。
「いらっしゃるんですね」
「なぜに敬語」のの、けたけた笑う。
「ちなみに、だれ?」
「ふっふっふ、だれだと思う?」
「『だれだと思う』……?」
みき、手を止めたまま考えてしまう。正直なところ、ののについては、そういう話も聞かなければ、そういうそぶりも見たことがないので、ちっとも思い当たらない。
「あのさ、ののちゃん」みき、考えるのをやめて、「妹とかいわないでね」
「いやいや、そういうやつじゃない。ねねのことは大好きだけど」
のの、赤色を塗っている。ちょうどポップ体の『2-4』のところ。二年四組のイメージカラーは赤らしい。担任が好きな色だとか、なんとか。
「うーん、じゃあ、どういうひと?」と、みき、訊いてみる。
「それを訊きますか……」と、のの、はずかしそうに、「そうですねぇ。包容力のあるひとかな」
「ホーヨーリョク」
「そう。世話焼きともいうのかな? 面倒見がよくて。たまに毒もあるけど、根はやさしい、みたいな」
ひゃー、となにか頬を赤らめながらいうが、みき、それを聞いても思い当たる人間がいない。
「おなじクラス?」
「はい」
「うわ、なおさらわかんねぇ……」
「じゃー、もう大ヒント! イニシャルはN・M!」
「えぬえむ……」片っ端から脳内検索してみる。「え、そんなひといる?」
「うーん、脈なしだな、これは」
「そうなの?」
「そうだよ」
のの、ケタケタ笑う。で、
「ちなみにさ」と、付け足して、「わたしの冗談って、わかりにくい?」
「え? まぁ、たしかにそういうときはあるよね」
「あぁ、やっぱりそっか」
赤を塗り終わる。
「でも、もしかしたら冗談じゃないかもよ?」
「ごめん、さっきからなにいってるの?」
「いや、うん、いや……」のの、あいまいな笑み。「あ、黄色とって」
「はい」
「ありがとう」
で、そこからは世間話でもしながら進めて、一時間もしたら看板は完成した。
【夏井みき 高校二年生】
軽音楽部のボーカル&ギター担当。
けっこう口は悪いが人あたりがよく、友達が多い。
同クラスの握津ののと仲がよく、最近は文化祭の準備でいっしょにいる時間が長い。というか正直ののが準レギュラーになるとは思ってなかった節がある。




