60 大渋滞
「いす取りゲームするか」
と、しお、突拍子もない。
「なんだよ急に」みき、呆れたように。「ていうか、いま三人しかいねぇのに」
ゆか、かうな、シーは文化祭用の買い出しに出払って、部室には三人しかいない。だのに、しお、気にしないで、
「ねねちゃん、いすを並べよう」
「あっ、はい……!」
「いやいや」
ふたつ、背中あわせでいすを並べる。で、スマホを取りだして、しお、
「曲が止まったら座ります」
「だれが止めるんだよ」
「あたし」
「ぜんぶおまえのさじ加減じゃねえか」
「しかたない……ねねちゃん、これを託そう」
「え、うちですか!?」
「まぁねねちゃんなら文句ないけど」
「そ、それは……えぇ?」
本気でこまっている。いちおうスマホを受け取ったものの、どうしたものか、といった感じ。
しお、
「曲はおまかせで」
「うちが決めるんですか……?」
「うん、なんでもいいよ」と、みき。
「えぇ、なににしよう……」
「まぁあたしのスマホにろくな曲ないけど」
「ビートルズくらいだろ」
「『不明なアーティスト』の曲がたくさんありますね」
「そのあたり魔境」
「魔境ってなんだよ」
結局、ビートルズの『Help!』にきまって、
「す、スタート!」
ということで、流れだす。三人、なかよくぐるぐる回って、これがいす取りゲームのメインパートである。
みき、これなんの時間だ、と、しおの背中を見ながら。そのうしろでは、ねねがいつ止めたものかと悩みに悩み、一分くらいして、ようやっと決心づいて止めた。
勝負は、一瞬である。
まずはしお、たまたまいすの前にいたのですぐに座れる。で、残りのふたり、なぜか自分で止めたはずのねねが遅れて、みきに取られる。
ねね、脱落である。
さて、二回戦目にして、決勝戦のはじまり。曲は『Help!』で続行、ねねは輪からはずれて、曲を流すだけの役割に徹する。ひどくほっとした顔をしている。
いすをひとつに減らしたところで、流れだす。歩くペースを遅くしたり、早くしたり。勝負の世界では、ことさらいす取りゲームにおいては、そういった駆け引きが肝要である。
とはいえ、しおがペースをてきとうに狂わせるので、うしろのみき、たいそうな迷惑である。で、だいたい三十秒、そろそろかな、と思ったところで――
――曲が止まった。
みき、かんぺきな位置どりであった。いすのまんまえ。もはや自然な流れで、そうあるのが当然であるかのように座る。
かくいうしお、いすの背もたれ側にちょうどいたので、ふつうに負けた。
ということで、優勝、みき。
「これ、おまえが勝ったらどうするつもりだったの」
「ジュース買いにいかせようかと」
「じゃ、緑茶で。ねねちゃんは?」
「えっ、でも、いちばん最初に負けたのはうちですし……」
「ならふたりで行くかー」
「は、はいっ!」
「いちごミルクのミントレモン味でよかったよな」
「緑茶だよ。なんだその味の大渋滞」
「緑茶、緑茶、緑茶、緑茶……」
忘れないようにか、ねね、ずっとくりかえしながら、しおのうしろをついていった。
【握津ねね 高校一年生】
軽音楽部のボーカル&タンバリン担当。
ものすごく人見知りする女の子。
どんなに軽いノリの発言でもけっこう真に受けてしまうところがある。姉・ののは、みきを取り合うライバル的存在として立ちはだかっている(とねねは勝手に思っている)。




